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桜霞
2022-10-01 17:50:07
46624文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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君がいる夏
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/05/22にpixivに投稿したものの再掲です。
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学生が経営するリストランテだからと言って、モストロ・ラウンジに試験前休業は通用しない。主にオクタヴィネル寮の生徒たちは試験勉強とアルバイト業を両立させることを強いられていた。普段から働きに来ている敗者や一般アルバイターたちのほとんどが試験前だということを笠に着てバイトを休むからだ。学生の本分ゆえ、この時ばかりはアズールも欠勤要請にウムと頷かざるを得ない。
とは言え、中には勉強とアルバイトを両立させることができる者もいる。ラギー・ブッチなどはその筆頭だった。そもそも普段からいくつかのバイトを掛け持ちしている身としては、細々したバイトをすっぱり諦めてモストロ・ラウンジで馬車馬のように働き、大金を稼ぐ方がよほど効率がいい。勉強時間が苦ではなくなる。普段ならその時間に細々としたバイトをしているので。
「ちわーっス、おつかれーっス」
今日も今日とてバイト戦士として顔を出したラギーは、「お疲れ様です」と聞き慣れた声を拾った。しかしこの時期にこの場所でというのは珍しい。
「あれ、ユウくん」
「はい、ユウくんです。どうかしました?」
「や、珍しいなと思って。期末前なのに、余裕っスね」
「リンさんに手伝ってもらって、計画立ててこつこつやったので」
むん、とどこか自慢げにユウが細腕で拳を作る。ラギーはハイハイとスラムのガキどもにしてやるようにユウの頭をぐしゃぐしゃにしてやった。きゃあ、となんだかんだくすくす笑って、ユウがラギーの手を退けようとする。
「それに、今回はちょっとお金がほしいんです」
「へえ?」
「リンさんと、旅行デートに行くので。へへん」
「そりゃー良かったっスね」
「はい! どうせならいっぱい観光します!」
そのためには先立つものがいる。リンは気にしなくていいのにと苦笑したが、自分の楽しみのためにバイトに勤しむのも学生の特権だと邪魔立てするようなことは言わなかった。
「どこ行くんスか? 夕焼けの草原なら、子猫ちゃんが食べられちゃいそうな危ねえところを特別価格で教えてあげるっスよ」
「お気持ちだけで結構ですゥ。身内のよしみで観光案内するくらい言ってくれないんですかお兄ちゃん」
「そういうところ、ハイエナは大体いい顔されねーの」
「こんなにキュートなお耳なのに」
「それレオナさんっしょ」
軽口を叩き合いながら、仕事の準備を始める。ユウは既に下拵えを始めていた。器用に包丁を扱い、材料を切り刻んでいる。夏なので、七分袖の制服から覗くすっきりとしたユウの細腕が目に眩しい。
……
ような、気がする。
───リンさんにバレたら殺されるっスね
ほんのちょっと毛先だけ顔を出した煩悩を叩きのめし、ラギーも自分に宛がわれるだろう仕事に手を付けた。
「小~~~エビちゃ~~~ん」
「はーあーいー、うわっ」
どん、と長い腕が絡みつく。切ったばかりの薄いサーモンがひょいと摘まみ上げられた。
「あ、」
「あーん」
サーモンが、開いた鮫歯の中に消えていく。「もうすぐ上がりだよ」もぐもぐしながらフロイドが言った。
「え、もうそんな時間ですか」
早いですね、と伸びあがってフロイドの向こうにある時計を確認しようとするも、フロイドがでかすぎてどうにも上手く行かない。眉を寄せて前後左右に揺れる小エビを見て、フロイドは「ブフッ、」遠慮なく噴き出した。
「なーにワカメみたいにゆらゆらしてんの」
「いやだって時計見えないんですよ」
「あははウケる」
「もう、」
仕方がない、とユウはまだ半分ほど残っているサーモンのサクに向き直った。
「サーモンだけ全部卸しちゃうので、それが終わったら帰りますね」
「いーよォそんなの、他の奴にやらせとこ。コバンザメちゃんいるし」
「なんでもかんでもラギー先輩頼りなのはどうかと思」
「ハァーイ一名様ごあんなーい」
うわあ、とユウは慌てて包丁を横にしてまな板に置いた。そのままフロイドに引きずられてたたらを踏むが、どうにか持ち直す。肩に絡まった長い腕はほどけないままだ。
ユウは諦めて嘆息した。小エビがウツボに敵うわけないのである。フロイドはラギーに「サーモンやっといてェ」と指示を飛ばし、小エビを連れてラウンジの奥へ移動した。ラギーの「うぃーす」という生返事が二人の背中を追いかける。
「ン、あれ? 先輩、私の更衣室こっち、」
「今日はこっちでぇす」
「えっそっち支配人室じゃ」
「アハ、そうでーす!」
「えええええ!?」
ナンデ!? 支配人室ナンデ!? 私なにかやらかした!?
クソッ、フロイド先輩がこれからブチのめすやつを連れて行く方のルンルンな感じじゃなかったから油断した
……
!!
思わず足を踏ん張ってこれ以上進むまいとする小エビのことなどいざ知らず、フロイドはぐいぐいユウの肩を押した。ノックする前に扉が開き、「ようこそ、お待ちしておりました」とにっこり微笑をたたえたジェイドが顔を覗かせる。ヒョエ、とユウは素直に悲鳴を上げた。
「エッ私死にますか」
「死にませんよ。死ぬようなことをしたんですか?」
アズールに言われ、ユウは思いっきり首を左右に振った。それならどうぞ、と革張りのソファに通される。すぐにアイスティーが差し出され、ユウは何が何だか分からないながらに会釈した。
「まずは、そうですね。期末前だというのにも関わらずシフトに入っていただきありがとうございます」
「あぁ、いえ、えっと、滅相もございません」
ユウがぺこりと頭を下げる。ところで、とアズールはにこりと笑った。
「随分、余裕がおありのようですね。期末の後には何やら皆さんで楽しむ予定がおありだとか」
「えっ、あっ、ハイ」
ちょっとだけ余裕があるのもお楽しみの予定があるのも本当だったので、ユウは思わず頷いてしまった。なんだかんだ誤魔化されるだろうと追い込んでいたアズールが、ハイ? と笑顔のまま首を傾げる。
「えっと、どこでお聞きになったのかは存じ上げませんけど
……
」
「プールではしゃいでるの聞いちゃったァ。すんげー楽しそうだったじゃん」
「確か、本来は屋台なども並ぶ盛況なお祭りだとか。ゆかた、というものを着て楽しむんでしたよね」
「でもさぁ、小エビちゃんたち、屋台用意できないんでしょ? 一年稚魚ちゃん達の持ち寄りバーベキューなんてたかが知れてんじゃん」
「
………………
」
ユウはむつかしい顔をして沈黙した。なにか考えている風情だが、アズールはお構い無しに続けた。
「そこで、ユウさん。僕達と取引しませんか? きっと素晴らしい祭りになるよう、是非ともご協力させて頂ければ。加えて今なら試験対策の方も」
「あ、虎の巻は間に合ってるんで大丈夫です」
ユウはあっさりばっさり言い捨てた。アズールはそうですかと潔く身を引いたが、咄嗟に取り繕った態度であるのを双子には見抜かれていた。
「うーん
……
でも
……
そうですね
……
ううん
…………
」
アズールがモストロ・ラウンジの出張店という形で一年の最後に稼ごうとしているのはユウにも分かっていた。上手く宣伝すればひとが集まる。NRCの生徒は案外騒ぐのが好きだ。きっと賑やかで何やかんや楽しいお祭りになるかもしれない。
───でも。
ユウは顔を上げ、しっかりとアズールに真正面から向き直った。
「アズール先輩、ウチの国の夏祭りのことなんかご存知ないですよね。たぶんできないと思うし、私がやりたい夏祭りからは縁遠いものになると思います。ので、お気持ちだけ有難く頂戴します」
そして深々と頭を下げる。アズールは口こそ開かなかったがポカンとしてそれを見下ろした。
まさかここまできっぱり「あなたには無理」と言われるとは思っても見なかったのである。
「あ、でも」
ぱ、とユウが顔を上げる。
「普通に夏祭り参加ご希望でしたら、大歓迎なので。なにか一品、持ってきて頂ければ」
「エ、まじぃ?」
フロイドが声を上げる。マジですよ、とユウは頷いた。
「ね、俺さぁ、ユカタも気になんだけど」
「歩きにくいですよ」
「陸歴二年目ナメてんの? いけるって」
「うーん、それはリンさんに頼んでみないと
……
」
「んじゃ今行こ、新人ちゃんなら良いよって言ってくれるっしょ」
「リンさんだってお忙しいんですよ。先輩、魔法裁縫? とか、ミシンとか、使えます?」
「え、わかんね。やったことねえ」
そもそも人魚、服を着ないので裁縫の必要が無いのだ。
早く行こう、というフロイドを制し、ユウはもう一度アズールに向き直った。
「本物には程遠いとは思いますけど、でも、ウチの国の夏祭り、ご興味がおありでしたら是非、遊びに来てください」
ユウは今度こそ「失礼します」とフロイドに連れられて支配人室を後にした。
「おやおや。フラれてしまいましたね」
「
…………
」
「
……
アズール?」
本物には程遠いと言った、ユウはそれでも、期待に胸を膨らませているようだった。
この学園に属する生徒たちはほぼ全員が丸々一年親元を離れて寮生活を送ることになる。───しかして、故郷は同じ空の下に在る。
いつものように徹底的に調べ上げればユウたちの言う夏祭りは再現できた。いやさ再現して見せる予定であった。
けれども今回ばかりは、アズールの方こそ浅はかだったのだと知る。
アズールとて、この世に存在しないものに似せた何かを作ることなんて出来なかった。
「
……
これは、
……
里帰りなんでしょうね」
ぽつりと、アズールが呟く。ジェイドは瞬いて、けれども、それだけに留め置いた。
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