riririnf
2025-01-18 10:28:05
20630文字
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会いたい

ヌヴィフリ逃亡書いてみた④
やっと本格的にヌヴィレットが出てきます。
捏造・ネタバレ過多。



 自宅の扉を後ろ手で閉めたフリーナは、夕陽が差し込む室内を漫然と見回した。
 借家の家具は全て備え付けで、璃月の様式だった。そうしてくれと、当時部屋探しを引き受けてくれた胡桃に依頼したからだ。
 自宅に一欠片でも自国の香りを入れてしまえば、そこから彼の残り香がするのではないかと、怖かった。
 フォンテーヌで絆を深めた友人達とも、長く連絡を取っていなかった。落ち着いたらこちらから連絡をすると嘯いて、それきりだ。 
 手紙でも会話でも、ふとした話題に彼の名前が上がるのが、怖かった。
 ……でも、
 もう、そんな日々を終わりにしてもいいのかもしれない。
 フリーナは数歩進んで、備え付けの却砂の机を撫でた。
 赤や茶色のあたたかな色合いもいいけれど、涼やかな青が、そろそろ恋しくなってきた。
 次いで、机に出しっぱなしの筆記具を見る。
 友人達にも手紙を出してみようか。三年間も音信不通にしておいて何を今更、と怒られそうで少し怖いけれど、出してみないことには始まらない。
 窓の外、沈みゆく夕陽を見つめ、更に閃く。
 新聞も読むようにしよう。スチーム・バード新聞は、璃月にも届くよう販路を確立していた筈だ。これからは自国の情報を、きちんと知っておくようにしなければ。
 フリーナは三年前、自分勝手に逃げ出して、自国の全てを彼に押し付けた。彼に関するあらゆる情報を拒絶した。
 だからその間、彼が雨を降らせ続けていたなんて、知らなかった。
 けれど、考えれば当然のことだった。あんな別れ方をして、黙って姿を消して、優しい彼が心を痛めない訳がなかった。
 きっと酷く苦しんだのだろう。ずっと思い悩んでいたのだろう。自罰的な彼のこと、二人の関係における全てを、自分のせいだとでも思っているのかもしれない。
……そんなことないのに」
 ぽつりと呟く声が、夕暮れの静寂に響く。あまりに無責任な音色に気付き、自嘲する。
 すべて、自分が仕組んだくせに。少しでも彼の中に自分の影を残したくて、あんな酷い別れ方をしたくせに。
 当時はそんなつもりはなかったが、今ならば、はっきり分かる。
 自分は、彼の“傷”になりたかったのだと。
 そんな醜い願いを自覚したのは、昨日彼が助けに来てくれた時だった。
 伝わる熱に、震える声に、痛みを伴う抱擁に、彼の中、確かに自分の存在があったのだと理解した。それは例えようのないほどの歓喜を齎し、フリーナの胸を震わせた。
 その後、不卜盧の寝台の上で旅人達と言葉を交わし、彼が三年もの間、フリーナを想って雨を降らせていたのだと知った時、本当に嬉しかった。
 やまない雨は、彼に癒えない傷が刻まれている何よりの証明だ。
 なんて酷くて醜い女だろう。こんな女に、想い続けられる価値など、ある訳がない。
「だからもう、終わりにしよう」
 瞳の奥の彼に囁く。
 今度こそ、不毛な恋にさよならを。
…………
 そうして深く息を吐き出すと、動きにあわせて、しゃらりとささやかな音が鳴る。
 この音に、今日は何度も助けられた。
 なんでもない振りをして笑顔を取り繕って、声が震えないよう叱りつけて、水神であった頃には当たり前にしていた演技が、今日はとても難しかった。
 そんな情けない有り様を、この音が励ましてくれた。
「ありがとう、鍾離先生……
 璃月に移住してから、何度口にしたか分からない言葉。けれど今込めた感慨は別格だ。
 フリーナは鍾離の恋人だ。これは絶対の契約だ。だからヌヴィレットに心靡くことは許されない。それは契約違反で、鍾離への裏切りだ。
 そんな事実が、折れそうになる心を支えてくれた。
 ……僕は、ちゃんと出来ていたかな。
 心底幸せだと笑顔を見せて、彼から逃げきることが出来ただろうか。
 自分には逃げることしか出来ない。例え行き着く先が見えずとも、それが酷く惨めであろうとも。
 ならばせめて、全力で逃げ抜いてみせる。自ら始めたこの逃亡劇を、演じ抜いてみせる。どんな馬鹿げた役だって、演じきったら本物だ。
……ヌヴィレット……
 おそるおそる、愛しい音を口にする。
……ヌヴィレット」
 勇気を出して、もう一度。
「ヌヴィレット」
 三度目の音は、夕暮れに柔らかく溶けていく。
 ……もう、大丈夫。
 音の響きに満足して、唇がふわりと持ち上がる。

 僕はキミを、過去にできる。