riririnf
2025-01-18 10:28:05
20630文字
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会いたい

ヌヴィフリ逃亡書いてみた④
やっと本格的にヌヴィレットが出てきます。
捏造・ネタバレ過多。



「はぁ……っ、は……ッ」
 自身の荒く凍える吐息を聞きながら、フリーナはその場にへたり込んだ。
 映影の撮影中、突然現れた魔物から皆を守るために奥蔵山に残って、もうどれくらいの時間が経ったのだろう。
 分からない。分からないけれど、無事、皆が街まで戻れていますようにと願う。
 撮影クルーを逃がした後、フリーナはしばらく山頂で魔物の相手をしていた。
 しかし何処からともなく湧き続ける魔物達に限界を感じたフリーナは、一か八か、滝壺へと飛び降りたのだ。
 結果とんでもない物量の魔物から逃げおおせることには成功したが、その際に足首を捻ってしまった。
 水気を吸って重くなった身体、ずきずきと痛む脚を引き摺りながら街に戻るのは難しい。けれど、その場に留まっていては魔物が追ってこないとも限らない。
 そう判断したフリーナは、気力を精一杯振り絞って移動して──結果、岩壁反り立つ迷路へと足を踏み入れてしまったのだ。
 似たような景色が続く中、時折うろつく宝盗団の影から身を隠し、そんなことを続ける内に、自分が何処にいるのか、すっかり分からなくなってしまった。
 おまけに辺りは霧が立ち込めてきて、フリーナの視界を遮っている。更には秋の肌寒さと濡れた衣服が、体温と体力を奪い続ける。
 そして今、フリーナはついに限界を迎えて、岩場の影にへたり込んだのだった。
 ……もう、動けない……
 座り込んだ拍子に、べちゃりと土が自身の含む水気に濡れる音を聞く。それを合図に気力が途切れ、一気に身体が重くなった。
 心配そうに周囲を漂うサロンメンバーに、大丈夫だよ、と強がる余裕もない。それどころか彼等を召喚し続けることにさえ、力を割かれている有り様だった。
……ごめん、少し休んでいて」
 そう口にして、皆を元素に還す。途端にシン……、と霧中の静寂が肌を刺す。
 真実独りになってしまった心細さに、じわりと瞳の奥が熱くなる。しかし反対に指先はすっかり冷えていて、この冷たさにどんどん浸食されていくのだろうと、理解した。
 ……こわい。
 ふと、そんなことを思ってしまった。
……ッ!」
 一度脳裏に言葉が浮かべば、もう駄目だった。瞳の奥の熱が、ついに雫となって溢れ出る。
 その行為だって体力を失うと分かっているのに、それでも止められない。
 こわい。さむい。いたい。たすけて。
 そんな想いが、溢れ出る。
 だって、自分は此処で、こんなところで、死んでしまうかもしれないなんて。
「駄目だ……ッ!」
 浮かんでしまった最期の予感に、身体を抱き締め、首を振る。
 ……駄目だ、フリーナ。そんな悲観的なことを考えるな。
 そう言い聞かせる。
 まだこんなところで、自分は終われない。
 だってまだ、やり残したことが沢山あるのだ。
 万民堂にもまだ行けていないし、新作武侠小説だって読み終えていない。今度演出する舞台を見に来てもらわないといけないし、共演の約束だって果たせていない。
 それに、それに………………
 ────彼とも、あんな最後は、嫌だ。あんなにみっともなく取り乱した姿が、彼に残る最後の記憶になるなんて、嫌だ。
 思い浮かぶは、秋風になびく彼の姿。舞い散る紅葉に彩られて、とても美しくて、でも薄い紫色の瞳に映る景色を覗くことも出来なくて。
 今もまだフリーナの深くに居座り続ける、狂おしいほど憎らしくて、それ以上に愛おしい彼。

…………ヌヴィレット…………

 口に出してしまえば、もう駄目だった。溢れる雫に想いが乗って、止まらなくて。
 ずっと抑え込んでいた気持ちが、溢れ出す。
 彼と離れてから三年間、ずっと想っていた。忘れられなかった。
「ヌヴィ、レット……、ヌヴィレット……っ」
 ──もう、止まらない。

 “会いたい”

 願った瞬間、視界の霧がぶわりと浮いた。細かな水滴が、大きな滴に収束されていく。自然現象では有り得ないその光景を、フリーナはただ呆然と見つめた。
 そして唐突に、浮かぶ滴は消え失せた。
 開けた視界の向こう、翻る青と銀の色彩がある。ずっと想っていた、忘れる筈のない、狂おしいほどに愛おしい色。
「ヌヴィ……

「フリーナ!!」

 名前を呼びきる間もなく、願った色彩に視界を覆い尽くされていた。全く身動きが取れない状況に、気付く。
 これは、抱擁。フリーナは今、ヌヴィレットに抱き締められている。それは分かった。
 そして更に理解する。
 抱擁は心地いいだなんて、嘘だ。
 だって、すごく痛い。力加減なんてまるでなくて、骨がぎしぎし軋む音がする。こんなの、全然ロマンティックじゃない。
「フリーナ、フリーナ……
 繰り返し名を呼ぶ声は、震えている。そこは頼もしく、こちらに安心を与えてくれるよう配慮してくれなくては、駄目ではないか。そんな情けない姿なんて、見たことがない。
 鼻梁を満たす香りは土気に満ちていて、間違ってもいい匂いなんかじゃない。視界の端、葉っぱが付いているのが見える有り様だ。
 別れを告げたあの日の浜辺の、非の打ち所のない芸術品のような彼は、見る影もない。
 けれど、そこには温度があった。
 あの日と違う、熱があった。
 痛くて、みっともなくて、ロマンティックの欠片もなくて、でもとても温かい、初めての抱擁。
 ……駄目だ、フリーナ。押しのけろ。ちょっと助けに来てくれたくらいで絆されるような、そんなに安い女じゃないんだって、拒絶しろ。
 そう言い聞かせようと、思うのに。
 勝手に腕が持ち上がって、青い衣服を掴んでいた。口が勝手に、彼の名前を発していた。みっともなく、ずっと会いたかった愛しいひとに、縋っていた。
 霧が晴れた他には特筆すべき点もない、岩壁に囲まれた空間の中、ただ互いの名前を呼びながら、二人は暫し、抱き合っていた。