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紫輝
2024-10-12 10:49:53
36174文字
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リオヌヴィ
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【リオヌヴィ】200年振りのただいまを【原神】
人間としてヌ様と添い遂げて星に還った200年後に記憶を置き忘れて転生したセスリ殿が忘れ物を取り戻してヌ様に逢いに行く話です
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とある淑女が語ることには
いつも通る道に好きな風景がある。地上大湖を
――
海を一望できるプロムナードだ。道に沿って整備された花壇で咲き誇る花々から柔らかな香りが漂い、緑の匂いと混じり合って心を穏やかにさせてくれる。キラキラと輝く海を見ながら歩くことのできるそこを通る時は、少しだけ歩調を緩めるのが常だった。
ある日のことだ。プロムナードの一角によく立っている人がいることに気づいた。展望スペースからは少し外れており、ベンチもないような、大部分の人にとっては通り過ぎるだけの場所。少なくとも私はそういう認識の場所だ。
背を覆う長い銀髪と、華奢、まではいかないけれど線の細い体躯、背筋をすっと伸ばした美しい立ち姿。昔この国にいたという水の精霊はもしかしたらあの人みたいな姿だったのかもしれない。そう思ってしまうくらいに、なんというか、澄んだ水を思わせる、凛とした印象の人だった。
その人は静かに佇んで海を見ている。思わず惹きつけられてしまうほどの美しい横顔はいつもどこか寂しげで見ているこちらの胸もツンと痛むけれど、声をかける勇気なんてなくて、けれどいつか世を儚んでしまうんじゃないかしらなんて不安になって、勝手ながらその人をこっそり見守る(なんて言い方は失礼だけれど)ようになった。
雨の多いフォンテーヌでも珍しい天気雨が降って、晴れ渡った空に虹がかかったある日の、更に数日後のことだ。プロムナードを歩く時無意識に探すようになってしまったその人の隣に、男の人が立っていた。まるでその人と対になるような黒髪の短髪で、がっしりとした体つきの、背の高い人だ。
いつもより更に歩調を緩めてしまった。だってその男の人を見たのは初めてで。けれどその人はそれが当然であるように、男の人に寄り添っていたから。
「ここは変わらないな」
「ああ。あの時からずっと、ここは私に同じ風景を見せてくれる」
深く甘い穏やかな声に答える、初めて聞くその人の声は涼やかな見た目によく似合う澄んだテノールだった。
「
…
もしかしたら君に逢えるのではないかと思って、ここに来るのが日課になってしまった。君がここに足を運んでいたなら、あるいは私たちの再会も今少し早かったかもしれないな」
ああ、この人は彼を待っていたんだ。その人の言葉で察する。きっと私がこの人に気づくよりずっとずっと前から、この人はここに、彼を探しに来ていたんだ。もしかしたら二度と逢えない覚悟もしていたのかもしれない。だからいつもあんなに寂しそうにしていたのだろう。
「
………
」
男の人が何も言わずにその人の肩に腕を回す。彼の顔を見ているのだろうその人は、肩を抱く人へ身を寄せて。
「
…
すまない。少し意地悪を言ってしまった」
もう悲しくないし、寂しくないし、初めから怒ってなどいないから、どうか笑って欲しい。くすくすと喉を振るわせるその人の紡ぐ声音はピチカートのように空間を跳ねる。
「君とよく行った店は残念ながら店仕舞いしてしまったのだが、新しくできた店のスフレが美味なのだ。きっと君の好きな味だと思う」
紅茶に関してはやはり君の手によるものが一番だが。
ふふんと、何故か誇らしげな声で言ったその人が指同士を絡めた男の人の手を引いて、楽しみだよと答えた彼と共に一歩を踏み出すまでを見届けて、足を早める。
二人の横を通り過ぎる瞬間視界に入ったその人は、幸せそうに微笑んでいた。
「マスター、このフレジェもください」
昼休み。行きつけのカフェでいつものサンドウィッチとコーヒー、それからショーケースで輝く小さなケーキを指さすと、顔見知りのマスターがひょいと眉を上げる。
「かしこまりました。
…
ランチタイムにケーキもなんて珍しいね。仕事が上手く行ったのかい?」
「仕事とは関係ないんですけど、ずっと応援してた人にすごく嬉しいことがあったので。お祝いです」
勝手に心配して、勝手に応援していた人。
名前も立場も知らない、水の精みたいに素敵な人。
美人は憂い顔が一番綺麗だなんて前に観た舞台で歌っていたけれど、そんなの絶対嘘だ。今日初めて見た、朝日に煌めく海のようなあの人の笑顔を、私はずっと忘れることはないだろう。
「そうかい。誰かの幸せを喜べる素敵な
お嬢さん
レディ
にはこちらもサービスだ」
「わあ、ありがとうございます、マスター」
私の答えに微笑んだマスターは、ぱちんとウインクしながら小分けにされたクッキーの袋をトレーの隅に載せてくれた。
席について、コーヒーを一口いただいて、パラソルの合間で輝く空を見上げる。
どうかあの素敵な人が、大切な人といつまでも笑顔でありますように。
勝手に幸せのお裾分けをもらった気持ちになりながら願いをかけた天穹は、まるであの人のように透き通った青だった。
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