ちよど
2025-01-10 11:52:47
12144文字
Public わし様など
 

練習1P 500個記念企画短編化まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。このたび、読んでくださったみなさまのおかげで500個書けたので記念企画としていくつか短編化しました。
リクエストしてくださった方々ありがとうございました。


ビマヨダ
「俺達はこうあるべきだったんだ」

■原文■
「俺達を滅ぼすのか。──まあ、平和すぎたんだろうな」
 年老いたビーマの言葉にマスターは目を伏せた。
 古代インドに広がるこの国は大きな戦ひとつなく繁栄を極めている。神の血を引く者が玉座に座り、広い謁見の間に並ぶ豪華な椅子に座る親族たちがまだ幼い彼を協力して支えていた。その中の老人が口を開く。
「わし様は認めん。外戚としてこの世の全てを手に入れたというのに。なぁんで滅ぼされねばならんのだ」
 特徴的な口調にマスターが弾かれたように顔を上げた。
「ドゥリーヨダナが生きている!?」
「勝手にわし様を殺すな。この世で最も優れた宰相であるわし様がいなくてはこの国はまわらんのだぞ」
 外戚、宰相。この特異点のドゥリーヨダナはパーンダヴァと婚姻して王位ではなく権力を掴む道を選んだのだろう。
 ならば、彼がその選択をする事を聖杯に願った者は。
 マスターが振り返ると年老いたビーマは苦笑した。
「──そう。こいつさえ和平に同意してくれればと願ったのは俺だ。こいつと肩を並べて国を守るのは楽しかった」
 年老いたドゥリーヨダナを見るビーマの目は眩しいものでも見るかのように細められていた。
「だが、どうしても思ってしまう『こいつは違う』ってな」
 マスターに向き直ったビーマは棍棒を構えた。
「カルデアにいるんだろう?『ドゥリーヨダナ』が。そいつと戦うことが聖杯を渡す条件だ」

■短編化■
「おまえは変わってしまった」
 アルジュナとの戦いを果たせなかったカルナはそう言って俺から離れて行った。
「あんたはそんな人じゃなかったはずだ」
 俺を慕っていたはずの年下の戦士はそう言って俺に背を向けた。
 何も変わっていない。わし様が求めるものは変わらない。富、栄誉、名声、快楽。──戦争など起こしてはそれらが損なわれるではないか。
 パーンダヴァの跡継ぎとわし様の娘の婚姻。
 それがもっとも賢い方法だ。互いに想う相手がいたところで若気の至りというもの、別れさせればよい。
 思惑通りにカウラヴァとパーンダヴァの血を引く男子が生まれ、その子は何かと煩いパーンダヴァよりも優しいわし様に懐いた。
 和平の証だの何だの理由をつけて、その子を玉座に座らせればもうわし様を止めるものはない。
 ユディシュティラは正論しか知らぬ。ビーマの奴は武芸一辺倒、アルジュナは真面目すぎるし、双子は役に立たない。
 内政はわし様のやりたい放題。この世の春とはこの事だ。
 ただ時折去っていったふたりを想う。たまに向けられるビーマからの不愉快な視線の意味を想う。
 だが、それは些細な事だ。わし様は欲しかったものを全て手に入れた!手に入れたはずなのだ!
 孫とパーンダヴァの連中に目をつけられない程度に愉快に楽しく年を重ねていたある日、カルデアと名乗る一行がやってきた。
 そいつらはこの国を、わし様の国を滅ぼすと言う。
「わし様は認めん。外戚としてこの世の全てを手に入れたというのに。なぁんで滅ぼされねばならんのだ」
 わし様の孫が王位を継いだ頃から妙に大人しくなったビーマが滅びを受け入れる様に、わし様は声を上げた。
 カルデアの連中が一斉にこちらを見る。
「ドゥリーヨダナが生きている!?」
「勝手にわし様を殺すな。この世で最も優れた宰相であるわし様がいなくてはこの国はまわらんのだぞ」
 失礼な言い草を叱りつけると、奴らは何故かビーマを見た。
 不意に息が止まりそうになる。
 ビーマが何かを言っている。言葉は分かるが意味が分からない。
 こちらを見たビーマが眩しいものでも見たかのように目を細める。
「だが、どうしても思ってしまう『こいつは違う』ってな」
 違う?
 わし様はわし様だ。わし様こそがドゥリーヨダナだ。
 去って行ったふたりの言葉が甦る。

 ───ああ、自分は玉座を諦めるような男だっただろうか。

 わし様ではないわし様を求めてビーマはこちらに背を向けた。
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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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