ちよど
2025-01-10 11:52:47
12144文字
Public わし様など
 

練習1P 500個記念企画短編化まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。このたび、読んでくださったみなさまのおかげで500個書けたので記念企画としていくつか短編化しました。
リクエストしてくださった方々ありがとうございました。


カルヨダ
「ドゥリーヨダナを」

■原文■
「父よ、我が父よ」
 回収した息子の魂に呼ばれてスーリヤは意識を向けた。
 息子の魂が震える。
 当然だろう神の魂に比べ半神とはいえ人間の魂はあまりに脆弱だ。この身に取り込んだ息子の魂はじきに溶け『スーリヤ』と一体化するだろう。
「オレは消滅するだろう」
 意識も記憶も失い神霊の一部となることは確かに『人間』としての消滅だろう。
 だが、それがどうしたというのか。
 人の間に命を受けた息子の人生はひどいものだった。あまねく地上を照らすスーリヤが人の間引きに加担するくらいに。
 やっと肉体を失ったからにはそんな記憶は必要ない。
「父よ。オレは幸福だった」
 愚かな事を言う息子は真にそれを信じていた。
「それを忘れてしまえば、貴方となったオレは地上を焼き尽くしてしまうだろう」
 息子の拙い脅しにスーリヤは少し考え込んだ。
 息子はスーリヤの神威に耐えながら言葉を紡ぐ。
「全てを覚えておくことが不可能なら、ひとつだけ残して欲しい」
 ひとつでいいのか?
「それだけでオレは自身の幸福を忘れることはない」


■短編化■
「父よ、我が父よ」
 回収した息子の魂に呼ばれてスーリヤは意識を向けた。
 それはマントラに呼び出されて成しただけの子供だった。
 神にとっては瞬きの間に子供から青年になった男の魂が大きく震える。
 当然だろう神の霊基に比べ半神とはいえ人間の霊基はあまりに脆弱だ。この身に取り込んだ息子の霊基はじきに溶け『スーリヤ』と一体化するだろう。
「オレは消滅するだろう」
 意識も記憶も失い神霊の一部となることは確かに『人間』としての消滅だろう。
 だが、それがどうしたというのか。
 人の間に命を受けた息子の人生はひどいものだった。あまねく地上を照らすスーリヤが人の間引きに加担するくらいに。
 ──マントラに呼ばれ、ただ成しただけの子供の姿を初めて見下ろしたのは冬の河の上だった。
 スーリヤが与えた黄金の鎧が雲間から覗くわずかな光にきらきらと輝き、その存在をスーリヤに知らせたのだ。
 人は愚かだ。
 戯れで神を呼び出し、求めたものを打ち捨てる。
 雲を退かしスーリヤがその神の目で見つめると幼子は手足を動かし声を立てて笑ったのだ。
 だからというわけではないがスーリヤは陽の光を息子に降らせた。川岸に水を汲みに来ていた女が鎧の煌めきに気づくまで。
 それからもスーリヤは息子を見ていた。
 身分などという矮小な人の理で神の子が虐げられるのを。友と名乗る男がその武力を利用するのも。そして無抵抗の息子が他の神の息子に射抜かれるのを。
 やっと肉体を失ったからにはそんな記憶は必要ない。
 スーリヤのそんな思考が伝わったのか、息子は訴える。
「父よ。オレは幸福だった」
 愚かな事を言う息子は心からそれを信じていた。
 スーリヤは人の幸福など理解出来ないが、それでも息子の生涯が報われていないことぐらいは分かる。
 息子の魂が息を吐くように揺れた。
「それを忘れてしまえば、貴方となったオレは地上を焼き尽くしてしまうだろう」
 それは脅しのつもりなのだろうか。
 確かに息子はまもなく『スーリヤ』と一体化するが、当然ながら主導権はスーリヤにある。息子の意識が何かを成せるとは思えなかった。
 意図が分からずに考え込むスーリヤに息子はその神威に耐えながら言葉を紡ぐ。
「だから。全てを覚えておくことが不可能なら、ひとつだけ残して欲しい」
 自分が幸福であった記憶を残して欲しいと願う息子にスーリヤは思考を巡らせた。
 そのくらいの調節は出来なくもない。
 ──ひとつでいいのか?
 確認に息子の魂は大きく震えた。
 明らかな喜びにスーリヤは戸惑う。不遇な息子の人生で何をそれほど忘れたくないのかと。
「覚えておくのはひとり。──それだけでオレは自身の幸福を忘れることはない」

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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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