……あれこれ思い返すうちに、僕は蛇沢くんの住む横穴の前にたどり着いていた。彼はもうとっくに冬の眠りについていて、こうして様子を見に来るのは、もう三回目だ。
気温が下がってくると眠くなるのは蛇の性、でも蛇沢くんは半分人で、更に今は幽霊族の血を相当の量、飲んでいる。それで魂が全く揺らがないとするなら、常軌を逸した頑丈な存在だ。そして父さん曰く、そんな存在があり得るとすれば、という仮定で考えてみると、選択肢はそう多くないとのことだ。
一つ、彼の基となった蛇か人かのどちらかに、幽霊族の血が混ざっていた。
二つ、古い時代に、幽霊族の誰かを食べて生き残った存在、もしくはその子孫。
三つ、蛇と精霊が組み合わさって、人も幽霊族も食えるくらいの器になった。
四つ、彼はそもそも『この世界の外』の存在かもしれない。
冬の眠りについてしまった彼に、問いただす術はないけど
――次の春が来たら、もう少し、彼のことを踏み込んで聞いてみようと思う。
横穴の奧へ向かってゆっくり歩きながら、改めて蛇沢くんのことを考えてみる。
きれいなうろこの持ち主で、僕を好きだと言ってくれて、
……それで自分から餓死しようとした。めちゃくちゃだ。だけど僕には、それを止める方法があった。
たとえ止めなくても、誰も僕を責めたりはしなかっただろう。でも、僕に笑いかけてくれた彼が消えてしまうと思えば、
……やっぱり、僕には見捨てることなんてできない。そこまでは、自分でも『そういう選択をする』と分かりきっていることだった。もし仲間たちが同じ境遇だったら、僕はきっと同じことをするに違いない。
……蛇沢くんと仲間たちの違いは、その先だ。
あのうろこの濡れた光に触れたときに芽吹いて、通って言葉を交わす間に少しずつ大きくなって、そして秋に
――僕の血を貪る必死な姿と、泣き顔と、僕の血の熱を宿した体に触れてはっきりと根付いた、あの名前の分からない感情。
その正体を知りたくて、僕の心は彼から離れられずにいるんだ。
今日も、横穴で眠る彼の顔を見る。
濡れた枯葉の中で、体を畳むようにして、ひどくゆっくりな息をしながら眠る彼は、一体どんな夢を見ているんだろう。そうっと指先で触れた彼の温度は、あのときよりはかなり下がっているけど、蛇の温度というにはやっぱり少し高い。
気配で分かる。僕の血の熱だ。
得体の知れない感情が、背後から僕を押し包んでくる気がする。今の僕には、黒くて甘い何か、としか言えない。この感情の正体も、春が来て彼が目を覚ましたら、分かるだろうか。
栗色の髪を取り巻く枯葉を手で避けて、晒された額にそっと唇を落とした。あのとき彼が、僕にそうしたように。
――今はおやすみ、蛇沢くん。
他に誰もいない暗闇の中、僕は密かに、唇の端をつり上げた。
[終]
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波箱
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