Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
しどはち
Public
長編
Clear cache
第2話番外編「冒険者となった機工士と日の下に出た忍者の話 ~Another Side~」
同タイトルのイージエット視点。彼と会うまでの経緯や思いのすれ違いをお楽しみ下さい。
※無断転載と使用、AI学習禁止
1
2
3
4
5
6
7
鎧のままじゃ落ち着かないという彼と一旦別れて、オレは先に店
……
姐さんの経営する冒険者相手の宿泊施設兼酒場に戻った。
「ただいま。」
「おかーりなさい。いい所に帰ってきたわん!」
中に入ったところで姐さんにヘッドロックをかけられてズルズルと引きずられる。
ちょっと、ちょっと。
「突然何?あと自分で歩けるから、それやめて。」
バシバシと首を絞めてる手を叩くと、素直に離してくれた。けど、逃げそうだからってこの掴まえ方はないと思うんだ。
落ち着いて話を聞くと、今日出勤していた給仕の一人が体調不良で早退したらしく、取り敢えずお客さんが落ち着くまで代打で入ってくれとのこと。けど約束したからなぁ
……
。そう思って返事を渋っていたら、有無を言わさずホールで着る服を手渡される。こうなったらオレに拒否権はない。仕方ない、どうせ此処に来るのだし、それまでは働きながら時間潰そう。
部屋に戻り手渡された服を着たけれど
……
これ、服っていうのかな?
がっつり腕周りが空いている、いわゆる貫頭衣みたいな服なんだけれど、両サイドに深いスリットがあって、丈がかなり短い。男のオレならまだしも、女性が着ていたら確実に拙いでしょ、これは。思わず遠い目をしてしまう。
時々姐さんの趣向についていけない時があるんだよな。ま、仕事だから何も言わないけどね。
服と一緒に渡された腕輪を嵌め、サンダルの革紐を結ぶ。最後に草冠を模した頭飾りを被れば準備は完了だ。
部屋を出て直ぐに階下へ下りる。なんか注目されている気もするけれど、その視線は完全に黙殺した。
「姐さん、支度できたけど、本当にコレで給仕するの?」
カウンターでエールのジョッキを並べる姐さんに苦言混じりの確認をすれば、彼女は上から下まで視線を移動させて親指を立てる。
「キミは相変わらずそういうのが似合うわねえん!うーん、アタシの目に狂いは無かったわ!グッジョブ、アチシ!」
なんて言われたけれど、本当に意味が解らない。
思いっきり溜め息をついて頭を切り替える。取り敢えず仕事しないと。カウンターに並べられたエールを手に、給仕を開始した。
そうして暫く働いていると、入口で何か揉め事が起こった様子だ。カウンターに入っている姐さんは忙しそうだったから、代わりにオレが出ることにする。
この店の従業員は、一般市民も居るけれど、元も現役も含めて冒険者という人が多い。ただ、圧倒的
……
というか、オレ以外はみんな女性だ。酒場という性質上どうしても男性客が多いこの店は、こういうトラブルが起きることもよくあって、それを取りなすのもオレの仕事だったりする。尤も従業員の皆からは、オレが出てきても大して変わらないどころかお客側をぶっ飛ばしたくなるから出てこなくても大丈夫、と事ある毎に言われるのだけれど、なんでだろう?
兎も角、そういうトラブルも無いわけじゃないから急いで向かうと、騒ぎの原因は他でもない、オレの待ち人だった。先程の鎧姿とは違ってラフなシャツ姿の彼は、なんというかオレが知っている彼でホッとする。あの時もコートは着てたけど、中は動きやすいラフな格好だったから。
対応をしていたミニスカートメイド服の従業員に自分の知り合いだと告げ、彼を奥に通してもらう。取り敢えずホールが落ち着かない事にはオレの手も空かない。彼には申し訳ないけれどカウンターで暫く待ってもらうようお願いした。
そうして幾つかテーブルを回りカウンターに戻れば、姐さんからエールを渡される。
「これカウンターの彼にね。よろしく。」
エール片手に彼の方へ向かえば、物珍しそうに辺りを見回していた。尋ねてみると、意外にもこういう店は初めてらしい。そういえば誰かと組んでいるという訳ではなさそうだから、知らなくても当然かもしれない。こういう冒険者向けの店は同業者同士のクチコミで広がるものだから、ソロの人にはどうしても認知されにくかったりする。
「まあ、そうだよね。普通は入らないよね、こういう所は。冒険者区街に店構えてるわけだし。」
そう言いながら手にしたエールをカウンターに置いた途端、凄い勢いで目を逸らされた。その動作に首を傾げる。
「どうかしたの?」
「どうかしたかって、どうかしてんのはお前だろ!その、なんでそんな服着てんだよ
……
。」
なんでって、今日渡された制服がコレなんだから仕方ない。
「そうか、制服
……
制服なのか
……
。いやいや、そりゃ制服とは言わねえだろ
……
。」
手で顔を覆ったまま俯く彼にますます疑問を抱く。一応そういう名目で毎回姐さんに渡されているのだけど、何かおかしいところでもあるのかな?眉根を寄せて考えていると、何故制服を着ているのかと聞かれた。
「あ、それは
――
、」
答えようとしたその時、カウンターから姐さんが割り込んだ。
「それはこの子がこの店の店員だからよん!」
――
これ、タイミング見計らってたな。
「姐さん。」
「こらこら。今は営業時間中なんだからマスターとお呼び。」
あまりのタイミングの良さを咎めれば、チッチッと指を振りながらそういなされる。そしてにまーっと嫌な笑みを浮かべた。何だか嫌な予感がする。
「君がお客さん連れてくるなんて初めてじゃない?どういう風の吹き回しなのかしらん?」
ーー何か察してるな、これは。
相変わらずの勘の良さに頭を抱えたくなった。彼とは昨年命のやり取りをした間柄です、だなんて流石に言えない。言い訳がましく昼間の事を濁して伝えるが、訝しげな視線は消えてくれなかった。
ーーどうしよう、なんて言おう。
困って答えに詰まっていると、横から彼が助け舟を出してくれる。その言葉に漸く姐さんも納得してくれた。
――
はあ、助かった。後でお礼言っておかないとな。
そんなオレを他所に、姐さんにはなんだか失礼な事を言われる。けどそれも本当の事だから、やれやれというようなその視線から逃れるように横をむいた。
「誘いに応じてこの店に連れてくるだけでも良い方かしら。これで少しずつ変わってくれると良いのだけど。」
それは余計なお世話だよ。他ならぬ彼の誘いだから受けたんだ。それ以外のヤツと一緒なんて、男も女もお断りだ。
「姐さん。」
それを知っててそんな風に言う事ないだろう。第一、連れてきたとしても門前払いするのは他ならぬ自分のくせに。
そんなオレの視線に気付いたんだろう。さっさと仕事に戻れと追い払われた。まったく、都合が悪くなるとすぐこれだよ。このまま放っておけば何を言われるか解ったもんじゃない。ため息をひとつついて頭を切り替える。
取り敢えず今出来ることは、なるべく早く仕事を上がる事だけだ。そうしてオレは給仕の仕事に専念する事にした。
一通り仕事を終えたところで、姐さんに報告するべく近づくと、案の定、彼と何か話をしているようだ。
話の邪魔をしないよう気配を殺して近付き、彼の横に腰掛ける。すると、怒気を含んだ声で彼は姐さんに抗議をしていた。
「
――
そういう問題じゃねえよ。男でも良いって奴は居るからな。ヘンな奴が寄ってきたらアンタはどうする気だよ。何よりアイツが可哀想だろうが。」
……
驚いた。そんな風に思ってくれるなんて。
心の中がじんわりと暖かくなる。
男なんだから別に何されてもいいし、それなりに対処だって出来る。なんなら力に訴える方法だってある。それなのに、こんなに心配してくれるとは思いもしなかった。
ふと、一年前に言われた言葉を思い出す。
――
もっと大事にしろよ、自分のこと。
――
お前さんにはこれ以上酷い目にあってほしくねぇんだ。
――
もっと幸せに、普通の生活を送れるようになってくれ。
……
そうだった。彼はそう言っていたな。そうやってオレ事を気にかけてくれていた。抱きしめられた腕の中が泣きそうな程温かくて、身を委ねてしまいたいと思ったっけ。
俯き、彼の言葉を噛み締める。あの時と同じ心地良い優しさに、知らず服の裾を握りしめた。姐さんの視線がこちらに向いているけれど気にする余裕はなくて、ただただ自分の中の衝動を抑えるのに精一杯だ。
どうして?どうしてオレなんかの事を気にかけてくれてるの?オレにそんな価値なんてこれっぽっちも無いのに。
整理しきれない感情に涙が零れそうになったその時、
「そう言われてもねぇ。本人が問題なく着ちゃってるから。大丈夫なんでしょ、多分。ね?」
そう姐さんから話をふられ、慌てて顔を上げる。目の前にはオレが居て驚いている彼と、カウンターの向こうでウインクをする姐さん。きっとオレの様子を察して話をふってくれたんだろう。そんな姐さんに目線でお礼を言うと、にっこり笑ってくれた。
今度は彼の方に向き直り、仕事だから着ろと言われれば、と答える。たとえどんな服であろうとも、仕事の一環なんだから拒否権はないはずだし、何故それなのかを考えるのなんていうのは野暮だ。それなのに彼の考えは違うようで、
「お前なぁ
……
。仕事だからって素直に着てるんじゃねえよ。ちったあ疑問に思えよ。」
なんて言われた。
そういうもんなのかな?
不可解な意見に首を傾げれば、彼は頭を押さえて顔を顰め、カウンターの向こう側の姐さんが笑う。その和やかな雰囲気に自分の気持ちが落ち着いていくのを感じた。
そして今更ながら暴露されたけれど、この手の格好は姐さんの趣味だそうだ。
――
だと思ったよ。
薄々勘付いてはいたけれど、予想通りの回答に大きく溜め息をつく。
まあ、従業員からは苦情が出るどころか、逆にかなり好評だ。自前で衣装の持ち込みも可能で、その時は一応姐さんのチェックが入るのだけど、基準はかなり甘いから大抵そのまま着れる。そういう訳で、この店は自由な制服ーーというか衣装が目当てで務めている人が多い。冒険者が副業として働いていたり、従業員が女性に偏っていたりするのもそのせいだ。普段着れないような可愛らしい服だったり、艶かしい色っぽい服だったり、何処で着るんだというようなイロモノ系の服だったり、日常の中の非日常を味わいながら働こう、というのがこの店の主である姐さんの主張だ。
因みにオレは特に拘りも何もないから、毎回姐さんにお任せしている。今日はバイセクシャルな格好だけど、たまに丈の短いスカートとかホットパンツにオーバーニーのソックスとかを履かせられることもある。いくらオレが細い方だとはいえ、女性とは骨格が違う。女性物の服は見た目が厳しいと思うのだけど、そこは仕事だと割り切っている。まあ相手がどう思うかは知らないし、考えない。苦情は衣装をチョイスした姐さんに言って欲しい。
この服装についても、何とか言えと彼から言われたから素直に感想を述べれば、そういう事じゃないと頭を抱えて唸られた。一体何を言えばよかったのだろうか。ますます解らなくて首を傾げる。姐さんはゲラゲラ笑っているし、本当に意味不明だ。
憮然とした思いで腕を組むと、姐さんから一度着替えてこいと促された。それにひとつ頷いて彼に小さく手を振ると、奥の階段から部屋へと向かう。
……
そんなに変な格好なのかな?コレ。
まあ、姐さんの趣味だしな。そんな事を思いながら昼間着ていた
――
彼からあの時貰ったジャケットに腕を通した。
「なんかごめん。変な事に巻き込んじゃって。」
店内に戻ってきて早々、オレに監視をつけると姐さんに告げられた。
まあ、長い間好き勝手してたし危ない橋も渡ってたから、姐さんの言い分も解る。けれど監視役に選んだ人っていうのがーー彼、だなんて。まったく、姐さんも何考えているのか。今日知り合ったばかりの人に対して失礼だろう。
居た堪れなさに首を竦めると、意外な言葉が返ってきた。
「お前は俺に断って欲しいのか?」
「え?」
「さっきの話聞いてりゃ誰でもそう思う。もう一度聞くぞ。お前さんは俺と一緒は嫌、か?」
少し怒ったように告げる群青色の目はどこか寂しそうだ。そんな彼に首を横に振った。
……
そんな、そんな訳ないじゃないか。彼と一緒ならどれだけ心強いか計り知れない。けれど、オレの都合で彼個人を縛るなんて事は出来ないし、しちゃいけない。彼にも彼の付き合いがあるだろう。そこに割り込む様な形になるのは絶対にダメだ。
あまりにも申し訳なくて俯くと、頭に彼の大きな手が乗せられる。ぽんぽんとあやす様に軽く叩かれ、その温かさと共に告げられた言葉に思わず顔をあげた。
本当は誘う予定だったって
……
オレと一緒でいいの
……
?
「ま、それこそ強制はしねえよ。お前さんさえよけりゃだ。」
茶化した口調だし口元は笑っているけれど、その目は事の他真剣だ。本気でそう言ってくれてるのだと解る。
――
本当に、本当にアンタって人は。
抱きしめられたあの時と同じ、心地好い優しさに胸が詰まる。知らず口角が上がって、十数年かぶりに自然と笑えた。
「オレでいいのなら。これからよろしく。」
こっちこそな、と、ぶっきらぼうにそっぽを向いて答えた彼の頬が、赤く染まっているのに気付いて目を細める。一緒にいれて嬉しい気持ちと、そんな仕草をする彼が可愛いと思う気持ちとが綯い交ぜとなって、ほんわりと温かな気持ちにな
った。
二人顔を合わせていると、彼がはたと思いついたような顔をする。
「っとそうだ、自己紹介まだだったな。なんか今更な気がすっけど。」
ああ、そういえばそうだった。
ポンと手を打ち、なんとなく知らないままでも良かったと告げると、彼は渋い顔になる。
どうも店先での揉め事の原因は、待ち合わせ相手であるオレの名前が解らなかったから、なんだそうだ。身振り手振りで特徴を伝えたけれど、いまいち伝わらなかったらしい。
「それに、これから一緒に行動するんだ。知らねえっつうわけにもいかねえだろ。お互いを呼ぶにも困るしな。」
オレ個人としては「アレ」とか「ソレ」とかでも別に構わないのだけれども、逆の立場になった時にはどうだろうか。できれば彼をそういう風には呼びたくない。だから頷いた。
「ーー確かにそうだね。」
頬をすこし赤くした彼が視線をそらしている間に、カウンターに置かれたワインのボトルを手に取る。
この上質のワインは、今日の門出にと、姐さんから提供された。鈍く赤く光るそのボトルを差し出すと、彼はグラスを手にする。そのグラスへ赤い液体を注げば、ワインのいい香りが立ち上った。その香りに頬を緩めていると、手にした瓶を取られ逆に差し出される。今度はオレがグラスを手にし、彼がワインを注いだ。そうして注ぎ合い、赤い液体が満たされたグラスをお互い掲げる。
「ジグラットだ。」
「イージエット。」
「これから宜しくな。」
「こちらこそ。」
短い自己紹介の後、彼の音頭でグラスを合わせた。
硝子の鳴る澄んだ音に何かが満たされたのか、彼は頬を緩め満足気に笑う。そんな彼とのこれからの生活を想像して、オレも目を細めた。
1
2
3
4
5
6
7
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内