第2話番外編「冒険者となった機工士と日の下に出た忍者の話 ~Another Side~」

同タイトルのイージエット視点。彼と会うまでの経緯や思いのすれ違いをお楽しみ下さい。

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「では、あなたはその場に居合わせて対処しただけ、と?」
「だからさっきからそう言ってんだろが!誰が好き好んであんなの相手にするかってんだよ!」
双蛇党の女性隊士――スカーレット少牙士とか言ってたな――の疑う様な声と彼の怒鳴り声がカーラインカフェに響く。
うーん、この堂々巡り感、何とかならないかな。この女性隊士、完全に彼がやったもんだと決めつけてる。ギルドに用がある人も純粋にカフェで休憩しようとしている人も、こちらに視線を寄越しててなんか凄く居た堪れない。
仕方ない。穏便にすめばよかったけども濡れ衣着せられるわけにはいかないし、この堂々巡りをいつまでも続けるわけにはいかないから、オレが出ることする。まあ、これもあの槍術士の自業自得、勉強代だと思ってもらおう。
「ちょっといいですか?」
「貴方は?」
「彼に加勢してあの蜂を仕留めた者です。」
そう告げると、女性隊士は上から下までオレのことを検分し、信じられないというような顔をする。
――貴方が?貴方があのスティンキング・ソフィーを討伐したのですか?その歳で?」
……あ、この人勘違いしてるな。
内心ため息をつくが、いちいち訂正するのも面倒くさくて、その点については何も触れずに話を続ける。
「これ、証拠の毒針です。茨の森の開けた場所……地図でいうとこの辺ですね。この辺りで仕留めました。そんなに時間も経ってないので、まだ死骸があるかもしれません。それから襲撃地点でこれも拾いました。」
腰のポーチから手布に包んだ蜂の針と落ちていた冒険者登録証を差し出した。
「これは?!――解りました。処でこの冒険者登録証は貴方の物ではないんですね?」
……まったく、疑り深い人だなあ。
面倒くさくなって投げ出したくなる衝動をどうにか耐えて、身分証明書代わりである冒険者登録証を提示する。それをしげしげと眺め、次に女性隊士は彼の方へチラリと目配せした。彼もその視線の意味に気付き、憮然とした顔で自身の登録証を差し出す。その二つとオレが先に渡した一つを交互に見て、漸く納得出来たらしい。大袈裟な程大きく頷いてみせた。
「わかりました。では此方の登録証は双蛇党で預からせて頂きまして、事情につきましてもこの方から伺わせてもらう事にします。――ですが。」
まだ何かあるのか。ゲンナリした気持ちになった所でオレを指さす。
「そこの貴方、貴方の階級ではモブハントの許可が下りない筈です。ですが問題なくBランクのモブを倒せたとの事。何故ランクを偽っておられるのか、認可証なしに何故モブハントに参加されたのか。お話をお伺いしたいのですが?」
ーーキラリと目が光ったように思えたのは気のせいだよね、多分。
ちなみにランクが低いのは、登録だけしてギルドの依頼を受けていなかったからだ。オレの場合、目的がエーテライトの使用権と身分証明書代わりとして持ちたかっただけだったから、ギルドに寄ること事態そんなに無かったんだよね。依頼を受ける事も言わずもがな。だから必然とランクは上がらず下位のまま。おまけに登録して暫くしたらあっち側に引き摺りこまれたから、つい最近まで存在自体忘れてたくらいだし。――この間姐さんにせっつかれて鞄の整理をしておいて本当によかった。
そんな攻防をしていると、後ろからギルドマスター兼カフェのオーナーであるミューヌさんがやって来た。
「全く、いつ迄やっているんだい?揉め事ならさっさと終わらせて欲しいものだけどね。……おや?」
呆れたようにそう言いつつも、テーブルの上にあるオレの冒険者登録証に気付く。
「これ、更新期限過ぎているじゃないか!それもだいぶ前……。ははあ、さては。」
くるりと此方を向いて、オレの方を見た。その顔に嫌な予感がする。
「君、もしかして取るだけ取れば、後は何もしなくてもいいとでも思ってたでしょ?居るんだよね、君みたいな人。んで?君はそれを忘れて双蛇党指定のリスキーモブを討伐したのかな?」
ん?と此方を見るその目がとても怖い。忘れていたわけでは無いけれど更新を怠ったのは事実だから、正直にこくこくと頷くと大きな溜め息をつかれた。
「まったく、何のための登録証だと思っているんだい?勝手なことはしてはいけないよ。もうこれは更新というより再発行になるね。明日、朝一番で必ずギルドに来るように。解ったかい?」
――はい。」
凄く面倒くさいけれども、迫力に押されて頷くしかなかった。
少しゴタつきはあったけれど、オレも彼もリスキーモブに関する疑いは晴れた。あとはギルドと双蛇党と手を出した本人とでの協議になるそうだ。そんなこんなで、やっとの事で解放されたオレ達は帰路につく。彼はあの槍術士のその後を気にしていたけれど、オレは正直どうでもいい。出来もしない事をした事と掟を破って彼やオレを巻き込んだ事の責任は、取って然るべしだ。それで冒険者家業を廃業させられようが、自身の評価が落ちようが、それは自業自得だと思う。いつまでも他人の心配をする彼に少し苛立ちを感じつつ、再会してから感じていた疑問について尋ねた。
「なんで斧なんか振ってるの?アンタの銃の腕ならいいところいけるでしょ?」
けれどその質問には答えを濁され、はぐらかされる。代わりに昨日ワイルドボアをケーンの一撃で倒した事をからかわれ、憮然と腕を組んだ。
……あのさぁ。
「アンタがそれを言うの。……全部アンタのせいじゃないか。」
回復魔法――幻術を学ぼうと思ったのも、元はと言えば一年前、オレの為にと彼が自分自身に剣を突き立てた時に、何も出来ないでいた自分が嫌だったからだ。勿論、冒険者じゃない一般市民の従業員も居る時の悔しさと不甲斐なさは、今も時々思い出す。たまたま急所を外していたからよかったけれど、もしまた同じ事をしたらどうなるか、なんて解らない。その時になって後悔はしたくないから適正の低い魔法を勉強しているというのに、そんなふうに言われるなんて心外だ。
そんな言外の言葉に彼も気づいたようで、
……悪かった。あの時はあれが一番いい方法だと思ったんだよ。」
そう、すまなさそうに目を伏せる。
でも彼の言うことは尤もだ。実際あの血濡れの短剣があったからこそ、彼への追撃を命じられる事もなかった。だからあくまでコレはオレ自身の問題で、彼が悪いと思うことなんて何も無い。
彼の顔が見れなくて俯くと向こうも気まずくなったのか、話題がその後のことに変わった。その事にホッとしながら半年前の脱出劇について簡単に話す。彼の方もギャンブルから足を洗ったそうだ。ふと疑問に思う。
「向こうに未練は無かったの?」
一攫千金を夢見る人間はごまんといる。その中で成功者である筈の彼が、こうもあっさり表の世界へ戻ってきたことが不思議で尋ねると、意外な言葉が返ってきた。
「全くねえな。ま、そもそも俺は金が欲しくて賭け事してたわけじゃねえからな。」
緩く首を横に振る彼が心底解らない。なんだって恵まれた、いっさい不自由のない生活から、冒険者なんて大した儲けもない生活へとシフトするんだろう。苦労知らずで生きていけるならその方がいいと思うんだけども。
眉を寄せて考えていると、彼は笑う。その優しい笑顔にドキリとした。
「あの、よぉ。」
東桟橋に下りる門を開けると、不意に声を掛けられる。
「もし良けりゃ飯、でも一緒にどうだ?まだ話し足りねえ、し。あー……迷惑じゃなけりゃ、だけどよ。」
……もしかして誘われてる?
ひとつ瞬きをして彼を見返した。少し頬を赤くしてあさっての方向を向いた彼がなんだか可愛い。自然と口角があがる。
こうやって声をかけらたことは何度もあるけど、こんな風に遠慮がちに誘われるのも、それに応えたいと思ったのも初めてだ。
だから告げる。
「お店、オレ指定でいいのなら喜んで。」
オレの返事を聞いた彼は、なんでもない様に振る舞いながらも、心底嬉しそうに笑っていた。