第2話「冒険者となった機工士と日の下に出た忍者の話」

1話から1年後のお話。
ようやく二人の名前が出てきます

※無断転載と使用、AI学習禁止


「くあー!終わったぁ!」
カーラインカフェを出たところで思いっきり伸びをしながらそう思わずこぼす。迷惑なのは百も承知だが、そう言っても罪は無えと思うな、ありゃ。それくらい面倒だった。
腰のホルダーに収めた銃を叩く。またコイツを持ち歩ける日が来るとはな。この国じゃ駄目かと思ったが、思いの外あっさり受理された。なんだか肩透かしをくらった気分だが、きっと俺がこの国の出身で、精霊についても理解があるからって処もあるんだろうな。
太陽を見れば頂点からやや西に傾いている。朝イチから色々手続きしてた事を考えると、大分時間かかったな。そう思いながら辺りを見回すが、アイツの姿は見当たらねえ。ま、大方時間が掛かってんだろう。つい昨年冒険者になった俺は、メインウエポンの変更とその実力の再測定だけだったが、年単位で放ったらかしにしてたアイツは、一から十までやり直しする羽目になってたからな。
壁に背をもたれかからせ、朝一番のやり取りを思い出す。心底面倒くさいとい顔をしたアイツと、そんなアイツに呆れた顔で再手続きをするミューヌに思わず笑っちまった。本人達からは笑い事じゃないって突っ込まれたがな。
そんな事を思い出していると。
「なーにニヤニヤしてるのよ?」
「げっ。」
「げって言うことないでしょ。仲良しの幼馴染に対して失礼ね。」
そう腰に手をあて、ぷりぷり怒ったフリをするソイツにゲンナリする。俺を仲介してくれた恩はあるし、信用出来る良い奴だって頭では解ってんだが、どうにもこうにも苦手意識が勝っちまう。子供の頃に経験した理不尽な暴挙は数しれず、その記憶が心の奥底に、恐怖の対象としてこびり付いちまっているんだよな。未だに頭が上がんねえのもそのせいだ。
「それで?そんな所で何……あら?」
腰の銃に目をやられて居心地が悪ぃ。
「あらあらあら。やーっと本命もちだしてきたの。だと思った。結構キツかったでしょ?」
カラカラと笑われて顔を顰める。確かにキツかった。この手で命を狩るその瞬間を思い出してゾッとする。やっぱり俺には向いてない、そう思い知らされた。黙り込んだ俺をみて、話をふった幼馴染は、でも、と続ける。
「よく一年も頑張ったわね。偉い、偉い。」
そう幼馴染は笑うが、素直に喜べねえ。思わずため息をついた。
「偉いとか言われてもな。三十超えたオッサンに言う言葉じゃねぇだろ。」
「あら、私より年下の癖に生意気な事いうじゃない。お姉ちゃんが折角褒めてあげてるんだから、感謝なさいよ。」
得意げなその顔に少しだけイラッとする。
――少しくらい仕返ししても罰当たんねえよなあ?
ニヤニヤしつつ、自分の年齢から指折り数えるふうにして揶揄った。
「あー、そうか。俺が三十二だから、もうそろそろ……。」
「お黙りっ!」
「いでっ!」
すかさずケーンの一撃が飛んでくる。身長差があるせいで頭でなくて頬にヒットした。これが地味に痛い。魔法じゃなくて物理だから余計にそう感じる。
こういう時、物理攻撃に出るあたりが俺の関係者だよな。もう一人の頭が上がらない人物を思い出して、ゲンナリしながら文句を垂れた。
「痛ってえなぁ。ホントの事だろが。」
「煩いわね!私はまだまだ現役よっ!そっちこそ日和って国出てった癖に、生意気言わないで頂戴!」
「わあった、わあったよ!俺が悪ぅございました!どうかその杖、収めてくださいっ!」
ぐりぐりと頬を抉るケーンの頭に耐えきれず、両手を上げて叫ぶ。溜飲が下がったのか、漸く引っ込めてくれた。
「痛ってえ……。ったく、相変らず容赦ねえのな。」
頬を擦りながらボヤけば、
「貴方がいけないのよ。碌でもない事言うから。」
そう憮然とする。そういや昔はこんなやり取りばっかりしてた気がするな。なんだか懐かしい。
頬を擦りながらそう思い返していた俺に、首を振りやれやれとため息をつく。
「それで?今更武器を代えたのは何で?斧に嫌気がさしたの?」
同じように壁にもたれて、此方を伺うその言葉に首を振る。――コイツには話してもいいか。
意を決して口を開いた。
「いんや、そうじゃねえ。……相方、出来たんだよ。」
「相方!ーーってことは漸く。」
「ああ、漸く見つけた。一年頑張った甲斐があったぜ。」
この一年を思い返し、目を細める。
冒険者になったばかりの頃、先輩であるこの幼馴染から、出来れば一緒に依頼をこなせる仲間を作った方がいいと言われた。特に俺は慣れない武器を選択したし、後ろから援護できる人が居ればその分出来ることも広がるから、と。けど、俺はそれを聞き入れなかった。全く知らねえやつと組むのに気が引けるって理由からだがそれは表向きで、本当はアイツを探したかったのと、アイツと出会った時に一緒になれるように身軽で居たかったからだ。俺の浅はかな考えは直ぐに見抜かれた。けれど、呆れはされたが、何も文句は言われなかった。ただ頑張れと励まされただけだ。
「ありがとな。あん時止めねえでいてくれて。お陰で一緒になれた。」
「ううん、私は何もしてないよ。貴方が諦めないで頑張っただけじゃない。よかったわね。再会できて。」
「おう。」
微笑むその顔に応えていると、漸く待ち人がやってきた。時間がかかった所と心做しかぐったりしている所を見ると、だいぶ絞られたか。
「お疲れさん。随分時間かかったな。」
「ああ、うん。まいったよ。まさか全部一からやり直しだとは思わなかった。」
肩を落としてため息をつくアイツに苦笑する。
「放ったらかしにしてたツケが回ってきたな。これに懲りたらもうちっとマメに顔出すこったな。」
「うん。まあこれから否が応でもでも顔出すことになるし。そこら辺は大丈夫だと思う。」
うんとひとつ頷く姿に少し心配になるが、まあ大丈夫だろ。最悪、俺が把握しときゃいいだけの話だしな。
そんな話をしていたら、俺の隣の人物に気付いたらしい。そういや二人は初対面だったよな。紹介しねえと、と密かに気合い入れている俺を他所に、アイツは気軽に話しかけた。
「あ、師匠。」
……ん?
「お疲れ様。マスターに聞いたわよ。冒険者家業、再開するんだって?」
……んんっ?
「あ、はい。ちょっと色々ありまして。それで授業の方はその……。」
……えーと。
「ああ、大丈夫よ。私もちょっと忙しくなりそうだし、一旦お休みにしましょうか。」
……いやいや。
「はい、そうしてくれると助かります。少しの間ですがありがとうございました。出来の悪い生徒ですみませーー。」
「ちょっと待てや、お前らっ!」
思わず声をあげる。
「何よ?大声上げて。」
「どうかしたの?」
どうかしたのかって、どうもこうも。
「お前ら顔見知りなのかよ!?」
そう全力で突っ込んだ俺を誰も責めねえと思う。だってまさか自分の知り合い二人が旧知の仲だなんて、思うわきゃねえだろうが!
そんな俺に二人はのほほんとお互いを紹介しあった。
「この人、俺の幻術の師匠。回復魔法をきちんと習いたくて、姐さんに紹介してもらったんだよ。」
「行きつけのお店のマスターから頼まれて個人的に幻術の指導をしてた、マスターの義弟さん。自分は生徒だからって私の事、師匠って呼んでくれてるの。」
そういや、昨日会った時にそんな事言ってたな。そしてはたと気付く。
「まさか個人的に教えて貰ったその筋の人ってぇのは……。」
「師匠の事だよ。」
こっくり頷くアイツにガックリ肩を落とした。
「どうかしたの?」
そう首を傾げるアイツに、俯きながらなんでもないと手を振る。が、そうは問屋が下ろさねえ。隣からニンマリと嫌な笑みを浮かべて茶々を入れられる。
「大方、回復魔法の何たるかを一から教えようとでも思ってたんでしょ。で、自分が師匠株にでもなって面倒みようとしたんじゃない?」
「うぐっ!」
グサリと心に楔が突き刺さる。図星過ぎて何も言えねえ。ぐうの音も出ねえ俺を見て、幼馴染はコロコロ笑った。
「甘かったわね。本職の私が面倒見てたから、そっち方面で貴方の出番はないわよ。もっと違う方向で印象残しなさいな。」
……くそっ。わあったよ。」
流石に最前線で動くヒーラー様にゃ適わねぇ。あんまし適正のないアイツが微力ながらも使えるようなったのは、偏にコイツのお陰なんだろう。俺じゃ多分、アイツの願いを叶えるのは難しかったろうな。
苛立たしげに頭をかく俺にため息をついて、ちょいちょいと呼び寄せる。何事かと顔を顰めれば、屈むように言われた。言われた通りにすると、角元でコソリと話し出す。
「大丈夫。貴方があの子の事好きだってことは内緒にしてあるから。まだまだチャンスはあるわよ。」
伝えられた内容に再度肩を落とした。
確かにコイツにはありとあらゆる事を根掘り葉掘り聞かれたから、アイツに対する俺の気持ちも知られてはいる。が、ああもニヤニヤされると腹も立つ。
……どうもありがとうごぜえますぅ。」
眉間にシワを寄せてそう答えると、生暖かい目で見られたから睨み返した。口元の意地悪そうな笑みはちゃんと見えてんだぞ。
「何の話?」
ひとり良く解ってない人物はそう言って首を傾げる。その仕草に顔を見合わせて、二人して笑った。
「なんでもねえよ。」
「そうそう、なんでもないのよ。」
ますます訝しげに眉を寄せるその顔に、いっそう声をあげて笑う。
そうして暫く話をした後、冒険者ギルドに用事があるというアイツと別れ、アイツと二人、帰路についた。といってもまだ拠点すら決めてねえから、現在のコイツの寝床でもある、昨夜の酒場兼宿屋へと向かう。
道中、ふと気になって尋ねた。
「そういや、無事に再発行できたのか?」
「うん、なんとかね。でもだいぶお説教されたよ。もう二度とやらないようにって釘刺された。」
そう言ってため息をつく姿に苦笑う。
「そりゃしゃあない。取得したまま何年も依頼受けずにそのままにしてりゃな。説教だけですんでよかったと思えよ。」
そっぽを向くその顔がどこか拗ねているようで、可愛いな、なんて思っちまう。
「で、結局メイン武器は双剣で登録したのか?」
「ああ、うん。他の武器も使えるけど、今一番手に馴染んでるし。特に何も言われなかったから、そのまま、ね。」
……ん?今聞き捨てならねえ事言わなかったか?
「他の武器も使えるのか?」
「使えるよ。剣に槍に弓に斧でしょ。銃も使った事あるし、格闘もそれなりに出来るよ。刀も組織にいた時に触らせてもらったから、これもなんとか実践で使えるかな。」
おいおい、物理武器はほぼ網羅してんじゃねえか!驚きで目を丸くする。
「ま、まじかよ?」
「はい、どうぞ。一応証拠ね。」
そういって差し出された冒険者証を確認する。……うわ、マジだ。全部数値入ってら。魔法の方は兎も角、物理武器に関しては基本全部扱えるって事か。その中でも片手剣、槍、弓、あと言わずもがな双剣は際立っている。魔法の方はからっきしだがそれでも数字が入ってるってことは、それなりに知識はあるんだろう。
やべぇ。俺はもしかして不相応にすげぇ奴を相棒にしちまったんじゃねえか?
内心冷や汗をかきながらプロフィールに目を向ける。
……ん?見間違い、じゃねえよな?
目を擦りもう一度見直すが、当然数字は変わらねえ。横を向いて顔を確認し、もう一度プロフィールの年齢の欄を見て叫んだ。
――うそだろぉっ?!」
「嘘って何が?」
「だっておま、歳……。これ、マジ?」
「そんなの嘘ついてどうするの?間違いなく実年齢だよ。」
「お、お前……、俺と三つしか違わねえのかよっ!」
衝撃の事実に頭を抱えて悶えたくなる。どう見ても成人したてかそこら、大袈裟に見積もっても二十代前半くらいにしか見えねえよ!
「失礼な。昨夜アンタと一緒にお酒飲んでたでしょ。成人前だったら姐さんが黙ってないよ。」
「けどよぉ、その顔でこの歳っつうのは無理があんだろ。」
その言葉にアイツは歩みを止め俯いた。心做しか悲しそうなその顔に罰が悪くなる。
「悪ぃ。気にしてんのか。」
こくんと小さく頷く。
「結構トラブル多いんだよ。姐さんにもそれで迷惑かけた事があるし。」
確かに。実年齢に合わせた行動を取ると、見た目でアウトな事多いだろうな。きっと対人トラブルも多いんだろう。若く……いや、若すぎて見られるってのも問題だな。けれども、実年齢が分かってよかった事もある。
「俺ぁ、逆に安心したけどな。」
「え?」
「一回りも歳下の奴と組んでたら、俺は周りから人攫いか変態だと思われちまうからな。」
おどけた調子でそう言ってニッと笑ってみせると、ぽかんとした顔をした後、クックッと小さな声で楽しそうに笑った。
「確かに。」
ちっと解せない気もするが、それでも思った。
「そうやって笑ってろよ。お前さんにはそっちの顔の方が似合ってる。」
そう言いながら、つい手を伸ばしてくしゃりと頭を撫でる。
あ、やべ。やっちまった。
けどそんな俺の焦りとは反対に、アイツは嬉しそうに目を細めた。その顔につられてこっちも口角が上がる。
――ああ、守ってやりたい。
ふと、そんなふうに思った。
どう見たってアイツの方が俺より強いし、精神的にも多分タフなんだろうけども、それでもこんなふうに笑って生きているけるようなーーなんつーか、普通にアイツが幸せに生きていけるようにしてやりたい。そして叶うなら俺の隣で今みたいに穏やかで笑っていて欲しい。
……ま、それはあくまで俺の願望だけどな。
だから伝えはしない。心の片隅に留めるだけだ。
アイツに冒険者証を返し、歩きながら今後の予定を考える。
「さて、と。とりあえず拠点探しからだな。今後どうするかはまた考えるとしても、帰る場所くらいはあった方がいいだろ。俺のアパルトメントじゃ二人で生活するにゃ狭ぇし、マスターん所にいつまでも厄介になる訳にもいかねぇしな。」
旅するにしろ、ここで定住して依頼をこなすにしろ、生活の拠点ってやつはあった方がいい。服や武具の予備を置いておいたり、直ぐには使わないがないと困るような物や貴重で中々手に入らないような物を保管したり、人目を気にせず体を休めたり、な。俺は兎も角、コイツは絶対人目があるとダメなタイプだろ。だったら拠点を作って心と体を休める場所は絶対に必要だ。マスターん所は宿も兼ねてるらしいからそこで、っつう事でもいいんだが、あのマスターは絶対金とるよな。とてもいい笑顔で請求書突きつける姿を想像しちまう。案の定、
「まあね。あれでもしっかり計算してるから。オレもまだ今回の家賃払い切れてないよ。」
という証言が出た。しっかし、あのマスターは恐ろしい。
「身内でも容赦ねえのな。」
高笑いしながらコイツをこき使う姿が目に浮かぶ。いやきっと本心ではないのかもしれねえけども。
率直な感想を伝えれば、
「何時もはマメに連絡いれてたり半年くらいで帰ってたりしてたから、手持ちでなんとかなったんだけど。今回は年単位で、しかも音信不通の消息不明にしてたからね。反省代も込みでとんでも無い金額だったよ……。まだしばらくはこき使われそう。」
そう言ってガックリ肩を落とす。
ま、こればっかりはしゃあないよな。事情が事情とはいえ、そんな事態を引き起こしちまったのは、己の好奇心と考えの浅はかさからなわけだから。けどだからこそ、俺もコイツと出会えた。それを思うとちと可哀想になって、つい助け舟を出す。
「そう落ち込むなよ。いざとなったら何とかしてやるからさ。」
幸い金は――出処は兎も角として――有り余る程ある。コイツの借金が幾らかは解らねえけども、年単位の宿代くらいなら屁でもねえだろ。ただ、アイツの性格からしてそれはノーって言いそうだよな。変なところで責任感が強いのも考えものだ。
ま、そういう事情もあるわけだし。
「早いとこ腰落ち着けて、ぼちぼちのんびりやってこうぜ。」
――そうだね。」
歩きだす俺の横、赤銅色の頭が眼下でひょこひょこ揺れる。夢にまでみたアイツと、漸く再会できて隣に並べて、でもそれだけじゃ満足出来ない自分がいる。
――押し倒して組み敷いて、表情の変化が乏しいあの顔が、澄んだあの深緑色の瞳が、快楽に溶けてどろどろになる様を見たい。火照ってほんのり赤くなったその細い体に熱を叩き込みたい。知ってしまった歳の差。自分よりずっと子供だからと遠慮する大人の心が、必要ないと姿を消す。思いっきり抱いて抱いて、俺の劣情を受け止めて欲しい。
ふとそんな事を考えちまって、気付かれないように緩く首を振った。
ーー何考えてんだよ、俺は。そうじゃねえ、そうじゃねえだろ。
先ずは一緒に暮らして信頼関係をしっかり築くのが大事だ。俺の思いを伝えるならそれからだろ。けど何も伝えずに一緒に居るだけでもいいと思ってる。俺の隣に居たい、そう思ってくれればそれでいい。
臆病だって言われるだろう。まあ、そうかもしれねえ。でも俺の思いがアイツの負担になっちまうのなら高望みはしねぇ。欲望は押しつけねえ。俺はあんな野郎共とは違う。大事にしてえ、幸せにしてえ、俺の隣で笑ってて欲しいんだ。
だから。
「俺自身の思いなんざ押さえつけてやるよ。」
聞こえないようにボソリと呟やき、空を見上げる。
澄んだ青い空も暖かい風も、俺達の門出を祝っているかのようなのに。

何故だか胸が痛かった。

/novel by sheed/無断転載禁止・無断使用禁止・AI学習禁止