第2話「冒険者となった機工士と日の下に出た忍者の話」

1話から1年後のお話。
ようやく二人の名前が出てきます

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冒険者ギルドで事のあらましを説明すると、すぐさま双蛇党からモブハント担当の軍人がやってきた。スカーレット少牙士と名乗ったソイツから、根掘り葉掘り尋問されたんだが……本当に参った。あの女、俺が手柄欲しさにリスキーモブに手を出したと決めつけやがって、話がちっとも進まねえ。アイツが証人として証言してくれたおかげで何とか事なきを得たが、実に不毛な話し合いだった。まあアイツはアイツで、許可なくモブハントに参加した事と、登録情報の更新を怠っていた事をミューヌに怒られていたがな。
それにしても、
「お前さんも冒険者だったんだな。」
そっちの方に驚きだ。それも俺と会うずっと前からだってんだから。しかしアイツは少し眉間に皺を寄せて、
「オレもすっかり忘れてたよ。登録はしてたけど、あくまで身分証明書くらいの感覚だったし。双剣使い初めてからは、偽の身分証明書を使い捨てしてて、本物は鞄の二重底にしまったままだったからね。」
なんて宣った。
「だからランク低かったんだな。どうりで実力に見合ってねえわけだよ。」
あのデカ蜂――スティンキング・ソフィーとか言うらしい――をああも簡単にいなす奴が、最低ランクなわけねえよな。おかげでややこしい事になったわけだけども。
「ミューヌさんからも釘刺されちゃった。また明日行かないと。」
「憂鬱か?」
「気乗りはしないよ。」
そうため息をつく姿に苦笑う。そんな、心の底からどうでもいい、みたいな顔しなくてもいいと思うんだがな。
「オレよりもそっちだよ。なんで斧なんか振ってるの?アンタの銃の腕ならいいところいけるでしょ?」
あー……やっぱそう来るか。だよなあ。自分と対等にドンパチやらかした奴が、再会した暁に地べた這いずり回ってりゃ、誰だって首傾げるよなあ。
「あー……まあ、色々事情あって、な。そっちこそ何やってんだよ。ローブ着て杖でワイルドボアぶっ倒すなんて普通しねえぞ?」
そう言って昨日の事をからかえば、憮然と腕を組んだ。
「アンタがそれを言うの。……全部アンタのせいじゃないか。」
ふいっと目を逸らしながら漏らした言葉に、思い当たる事があるのが心苦しい。絶対あの時のアレが原因なんだろうな。まさかあの行動がここまでコイツに影響与えるとは思わなくて心苦しくなる。
……悪かった。あの時はあれが一番いい方法だと思ったんだよ。」
「わかってる。おかげでアンタから目を逸らさせる事が出来たから、それについては感謝してるよ。ただ、あの時何も出来なかった自分が自分で許せないだけ。だから気にする必要ないよ。」
そういって視線を落とすその頭を無性に撫でてやりたくなった。けど、コイツにそんなきっかけを作っちまった自分にそんな資格ねえから、ぐっと拳を握る。居た堪れなくて、話題を変える。
「それよか、あの後どうなったんだよ?今ここに居るっつうことは――。」
「ああ、うん。無事に抜けれたよ。色々あって前線離れている間に問題が起こってね。内部崩壊の隙に逃げてきた。一応こうして五体満足で居られてるから、多分もう心配はないと思う。」
「そっか、そりゃ良かった。んじゃもう、完全に戻ってこれたんだな。」
うんうんと頷けば、深緑色の目がこちらを覗きこんだ。
「お陰様でね。そっちも冒険者やってるところを見ると、足洗ったの?」
「ああ、まあな。元々お前と会った時点で、そろそろ潮時かと思ってたからな。いいキッカケになった。」
お前にもう一度会いたかったから、ていうのは伏せておく。なんつーか、恥ずかしいしな。
そんな俺の心を他所に、コテンと首を傾げた。
「向こうに未練は無かったの?」
まあ、そう思うのも道理だな。アイツと違って物理的な物――たとえば金銭なんかが関わってるわけだし。一攫千金を夢見てた奴なら、あの時の俺の状況はまさに夢の世界も同然で、決して覚めたくない夢だろうさ。けどなあ。
「全くねえな。ま、そもそも俺は金が欲しくて賭け事してたわけじゃねえからな。」
緩く首を横に振る。
そう、俺はあの切った張ったの空気に生き甲斐を求めてただけで、金銭が増えることに関してはそこまで重要じゃなかった。背中がヒリつくような勝負を求めて、方々の合法・非合法の賭場を渡り歩き場数を踏んだからなのか、妙に勘が冴えて、ある時から全ての勝負で勝ち筋が読めるようになっちまった。そうなると、負けるにも態と負けるしかなくなる。そんな虚しい勝負に心が踊る訳もなく、結果、あのグダグダな世界に飽き飽きしてたわけだ。むしろコイツが俺を殺しに来てくれて有難いとさえ思ってる。
「そういうもんなの?」
微かに眉を寄せて、心底解らないという顔をするアイツに笑っちまう。
「そういうもんなんだよ。」
お前に惚れたからだ、っつったらどんな顔すんだろうな。そんな考えが頭を過ぎった。
そうして話をしながら歩いていると、東桟橋まで出た。けど、まだ話足りねえ。お互いの近況も話せてねえし、なによりもっと一緒に居てえ。だから徐に口を開いた。
「あの、よぉ。」
「え?」
桟橋に繋がる門を潜ろうとした赤い頭が振り返る。
うっ、いざ誘うとなるとなんか緊張するな。意中の相手を飯みに誘うくらい、昔は気軽にやってたってのに。チップ山積みされたテーブルについた時だって、こんなに緊張した事ねえぞ。
手汗が滲むのを悟られないように、より強く拳を握る。早く何か言葉にしねえと。アイツが遠ざかっちまう。
だあっ!こうなりゃヤケだっ!
「もし良けりゃ飯、でも一緒にどうだ?まだ話し足りねえ、し。あー……迷惑じゃなけりゃ、だけどよ。」
普段通り言えた、よな?悟られてねえよな?この緊張。視線を合わせられなくてあさっての方を向き、ドキドキしながら答えを待つ。
ーーと。ふっと空気が和らいだ気がして視線をもどした。そこには薄く微笑んだ、綺麗な顔。
「お店、オレ指定でいいのなら喜んで。」
「お、おう!全然構わねえよ。んじゃ、行くか。」
内心で渾身のガッツポーズをしながら、なんでもないように振舞う。どこに連れてかれるかは解らねえけど、まだ一緒にいられんだな。それだけでも心は踊る。
浮かれた気持ちのまま、船頭に行き先を告げるアイツをじっと見つめていた。