第2話「冒険者となった機工士と日の下に出た忍者の話」

1話から1年後のお話。
ようやく二人の名前が出てきます

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「うーん……。これは依頼失敗、って事になるかな。」
依頼書を確認したギルド長のミューヌは渋い顔をしてそう言った。
「あ?けど、間違いなく倒したぞ?」
そう言って腕を組み、憮然とする。最後はアイツに助けられたが、確かに依頼された頭数の五匹は退治した。それは確実だ。けどそんな俺を他所に、ミューヌは緩く首を横に振る。
「あのね。討伐依頼っていうのは基本、討伐したという証拠が必要なんだよ。今回の案件のワイルドボアの場合、牙とか耳とか尻尾とか、だね。もっと上級の人だと皮や肉を持ってきたり本体そのものを持ってきたりするけど、まあそれは例外だとして。君は何かそういった物を持って来たのかい?」
「いや、そういうのはねえけど……。けどこの間うけたミッジウォームの駆除はそんなんなかったぞ?」
くってかかれば、「完了済み」とかかれた戸棚から、依頼書の束を取り出し、パラパラと捲る。その中から、以前俺が受けた依頼を探し当て、その内容を確認すると、うん、とひとつ頷いた。
「あの依頼は、フルフラワー養蜂場の管理人が現場に立ち会ったからね。そういう証人がいればいいけど、今回はそうじゃないだろう?というか、冒険者になってもう一年も経つのに知らなかったのかい?」
「うっ。いや、まあ、普段は採集系なんかを主にしてっから……。」
言い淀むオレに、ミューヌはやれやれと大きくため息をつく。
「そういえばそうだったね。全く、折角の戦斧が錆び付くよ、それじゃ。」
「うっせ。ったく、わあったよ。明日また行ってくらぁ。それで良いだろ?」
「了解したよ。じゃあこれは戻さずに置いておくからね。ダメそうなら早めに言っておくれよ。」
「ああ。そうしてくれ。」
それだけ言って踵を返し、依頼受付のカウンターを後にする。後ろについていた若い槍使いの野郎が、ニヤニヤして此方を見てっけど、無視だ、無視!
視線を振り切り、帰路に着く。部屋を借りている冒険者用のアパルトメントーーリリーヒルズのロビーで名前を告げれば、おかえりなさい、と笑顔で部屋の鍵を渡されて、ささくれた心が少しだけ軽くなった。
歩きながら、まあでも言われるんならアイツがいいよな……なんて、いつ叶うか、いやそもそも、叶うかどうかも解らねえ事を考えながら、部屋の鍵を開ける。部屋のランプを灯せば、最低限の家具だけが置かれた部屋が現れた。
以前寝床にしてた宿の一室に比べりゃ遥かに狭く、おまけにワンルーム。それでもシャワールームとトイレがついているだけ上出来だ。けど、この部屋に不満は何もねえ。元々一般人程度の暮らしをしてた身だし、若い頃は工房の狭い部屋を共同で使ってたりしてた事もあっからな。それを思えば個室を自由に使えるってだけで万々歳だ。
ま、前ん時は仕方がねえ部分もあったんだがな。あんな豪勢な部屋に住んでたのは、自衛も兼ねてたからだったわけだから。
それは兎も角として。
初期投資としてはやや高くついたけども、それでも街中に居を構えずに済んだだけでも気は楽だ。っても、金に困っているわけじゃねえから、これくらいなんて事ねえんだけどよ。
斧を壁にかけ、着ていたチェーンメイルを脱ぐ。身軽になったところでドサリとベッドへ身を投げ出した。
「あー……ちっくしょ……。」
知らなかったとはいえ、痛恨のミスだ。まさか体の一部を証拠品として持ってこなきゃなんねえとはな。
手を開いて握りしめる。斧を通して伝わった感触と飛びちる血飛沫を思い出しちまって、なんとも言えない気持ちになった。
……やっぱ向いてねえな。」
チラッと今の獲物であるアックスを見やって、ため息をつく。
それなりに理由つけて斧を取ったが、勝手の違いに根をあげたくなってきた。武器も鎧も重てぇし、懐に飛び込まなきゃいけねえし、相手の攻撃はモロくらうし、自分の攻撃が当たりゃ血みどろになるしなあ。これなら素直に杖握ってた方がよかったかもしらん。近接での戦闘は結構キツいって言っていた幼馴染の言葉が身に染みる。まあ杖を握ったら握ったで、今度は別の厄介事に巻き込まれそうではあるがな。
「アイツはいつもこんな思いしてたのかね。」
思い出すのは一年前、たった一度だけ出会った人物。熱した銅の髪と深い森の目をした、若いエレゼンの男。両手に短剣を携えて命を狙いにきたソイツに、俺はマジ惚れした。自分を殺しに来た奴にも関わらず、だ。半ば強引に抱いたその時の痴態は、未だ鮮明に思い出せる。それこそ同性同士でスることに疑問を抱いてた俺の考えを覆しちまう程、艶めかしくて色っぽくて綺麗で――何っつうか極上だった。あれ以来その手の店に通えなくなるくらい、な。
けどそれよりも。全てを諦めたようなあの瞳が気にかかった。ただただ惰性で生きているんだと、自ら言ったアイツを放ってはおけなくて、ダメ元で一緒に逃げないかと誘った。結果は当然ノー。けどアイツは事情があったせいで断ったわけで、もし何も憂いがなかったのなら、ここに居てくれたかもしれねえ。
唇に手を当て、別れ際を思い出す。
アイツからされたキスと寂しげな笑顔。夕日に溶ける赤色は今まで見たどの赤よりも鮮烈で、ずっと瞼に焼き付いている。
あれからずっと探しているが、一向に見つかる気配がねえ。この街にエレゼンが多いっつっても赤い髪は珍しいから、直ぐ解る筈なんだが。
――お前は一体何処で何をしてんだろうな?」
俺はこの通りだ。占いなんっつうモンに縋って此処に来て。慣れねえ武器を携えて、若ぇ奴から笑われながらなんとかやってるよ。
なあお前さん、組織からは無事抜けられたか?あれから辛い目には合ってねえか?いやそれよりも……ちゃんと生きてっか?
再会出来んのはいつの日か。一向に見つからない探し人に思いを馳せながら目を閉じた。