botanin5
2024-11-14 03:18:50
14147文字
Public 薬さに♀(小説)
 

あと、一息

霊力が無くなりそう!刀剣からもらわないと!設定
骨喰→審神者表現あります





とにかく、大将の治療の相手は歌仙しか認めねぇ」

そう言って、くるりと背を向けた薬研はそのまま廊下の先に姿を消した。どうして薬研が頑なに骨喰の治療を拒むのか分からない。でも今は、それよりも、薬研が「できない」ではなく「しない」と言ったことが私に衝撃を与えていた。薬研本人も、自身が治療できる可能性を分かっていたに違いない。でもそれを、己の判断で行わないと決めたのだ。
本来の薬研藤四郎の性質で言えば、自分の身をもって主を救うことができるならば喜んで協力する場合がほとんどな気がする。どんな治療法であったとしても、治るのならば個人の意思で拒否するとは思えない。たとえそこに、その内側にどんな感情があったとしても、飲みこんでしまうだけの気力を持っている。
今回の治療において、ネックになっているのは方法が口づけであるという点だ。政府に頼めば、直接的に口を塞がずとも霊力を吹き込める道具を用意してくれるのかもしれない。しかし、初めからそういった物の提示がなかったことから、いままで同じような状況に陥ってきた審神者が気にせず治療を行ってきたことが窺える。ただ分母が少ないという可能性もあるが。とにかく、その全てが互いに恋愛感情を持っていた訳ではないだろうけれど、それを拒むほど険悪な関係でもなかったということだ。
いままで近侍を務めてくれていた薬研が、触れるのも嫌なほど自分を疎んでいるとは思えない。

「薬研、好きな人がいるのかな」

ぽつりと呟いた言葉を拾った骨喰が、きょとんと首を傾げた。歌仙もこちらの様子を窺っているようだが、何も言わない。

「なぜだ?」
「あ、その薬研なら、治療なら仕方ないって受け入れそうな気がするのに、嫌がってるみたいだから。あー、いや、こんな言い方したらなんだか責めてるみたいだね。治療はたしかに私にとって重要なことだけど、みんなの気持ちとか意思だって何にも代えがたいくらい大切なものだと思う。治療方法がこうなってしまったからって、気持ちを無視するのはまた違うって分かってるし、その」
「どういう意味だ?」
「えぇ?えっと、つまり薬研には好きな人がいるから、治療とはいえ私と口づけるのが嫌なのかなってこと」

自分で言っておいて何だが、もしそうだったらかなりへこむ。刀剣たちに本丸の外でどのような出会いがあるのか分からないが、どこかで恋に落ちないとも限らない。いや、もしかしたら本丸内かもしれない。彼らは神に分類されるものだし、好きに対して枠などないのかもしれない。とはいえ、仮に文房具などを持ち出され「こいつと一生を添い遂げたい」などと言われたら回復できないほどに落ち込む自信があるが。いや、物言わぬ文房具の方がよっぽど可愛げがあるのかもしれない。
ああかもしれない、こうかもしれないと考える度に、だんだん落ち込んできて肩が萎んでいく。そこにポンと乗ったのは骨喰の手だった。

「俺は、あんたが好きだ」

真っ直ぐ向けられた視線に射抜かれる。こう改めて言われると心臓が跳ねるのを抑えることは難しい。動けずに固まっていると、骨喰の両手が私の頬を捉えた。顔を包み込んで固定すると、ゆっくりと近づいてくる。
あ、と思ったところで不意に肩へと別の手が乗って、後ろに私の身体を引き寄せた。骨喰の手がふっと離れる。

「まったく、こんな所で、というのはいくらなんでも無粋じゃないかい?骨喰」
歌仙、邪魔しないでくれ」
「そう睨まないでくれないか。僕は別に君のお役目を奪おうっていうんじゃない。ただ、想い人を口説くにはあまりに雅に欠けるんじゃないかと思っただけさ。そんなに急くものではないよ」
そうだろうか」
「そうだ。主も驚いているだろう?今は、一旦引いてくれないか。まだ時間が必要だよ」
わかった。俺は先に行く」

ちらりと一度こちらに視線を送った後、骨喰は踵を返して行った。