botanin5
2024-11-14 03:18:50
14147文字
Public 薬さに♀(小説)
 

あと、一息

霊力が無くなりそう!刀剣からもらわないと!設定
骨喰→審神者表現あります




ここで正直にお伝えしておくが、私は薬研藤四郎という刀に恋をしている。みなまで言わずともお分かりのことであろう、近侍をしてもらってからの薬研の世話焼きぶりは常軌を逸していてとまで言うのは大げさだが、とにかく彼の手腕にすっかり落とされていた。

今回の治療に関して、手紙を持ってきてくれたのは薬研であるし、彼は本丸の医者でもあるし、私のファーストキッスはこの薬研大先生に捧げることになるのだろうと思い込んでいた。普段からポーカーフェイスな彼の気持ちは全く分からないが、私は薬研のことを好いているし、好きな人とキスできるのはどんな状況にせよラッキーだ。少し緊張しながらも、あわよくばこれで気持ちが発展したりしないだろうかなどと、浅はかな思考に包まれたのがよくなかったのかもしれない。

「これが治療に協力してもらう指定の刀剣男士だ」

薬研が持っていたもう一枚の封筒を渡される。
封筒には『歌仙兼定殿』と丁寧な楷書体で表記されていた。





はぁ。事情は分かったけれど、本当に僕でいいのかい」
「良い悪いじゃねぇんだ。大将の身体に関わる」
「そうは言いうけどね。薬研、これは
頼む」

手紙は本人にしか開くことができないため、薬研に連れられて歌仙の部屋まで来ていた。朝食をすっかり食べ損ねてお腹を鳴らすと、歌仙がお菓子とお茶を用意してくれた。ありがたい。それを口に運びながら二人を横目で見る。当事者であるはずの私よりも、薬研の方が真剣になって歌仙に事情を説明してくれていた。私は未だ実感が湧かない。

どうやら私へ補給する霊力は、予てから馴染みがあり抵抗力も少ないものである必要があるらしい。顕現や錬結時に私から刀剣へ送られる霊力は、彼らの中にあるうちに彼ら自身の霊力と混ざり合っていき、私の持つ霊力とまったく同じとは言い難い。とはいえそんな中でも、私と近く関わる刀剣の霊力は、日常の中で私自身の霊力に似たものへと次第に近づいていくらしい。そこで、薬研が近侍になる前まで近侍を務めてくれていた歌仙に白羽の矢が立ったのだ。

薬研だって同じくらい近侍を務めてくれていたのに。
もう少し診断結果が遅かったら、相手は薬研だったかもしれないのに。
歌仙が相手であることに、文句や不満があるわけではない。これは治療なのだし、歌仙だって複雑だろう。でも、私の中にある女としての気持ちが少しだけ落ち込んだのは本当である。いや、治療してもらう側がこんな気持ちでは失礼だろう。腹をくくらねばならない。

ごめんね歌仙、こんなことに巻き込んで。私、迷惑かけてばっかりだね」
「何を言うんだい。主である君の命に関わることなんだ。名誉に思うこそすれ、迷惑だなんてとんでもない。それより、君は本当に僕でいいのかい」
「私はお願いしてる側なんだから。ぜひ、よろしくおねがいします。」
いいだろう」


「よくない」


がたっと障子が開いて、淡く紫がかった銀の髪をふわりとなびかせ突然部屋に入ってきたのは骨喰藤四郎だった。
驚いて誰も動けないでいるなか、すっと私の前に腰を下ろした骨喰は、わき目を振らずに真っ直ぐ私の目を覗き込む。

「俺ではだめなのか」
え?」
「だめだ」
「えぇ?」

骨喰にすぐさま返事をしたのは薬研だ。
修行から帰ってきた骨喰は、以前よりずっと距離が近づいて未だ戸惑うこと多い。前までは、仕事終わりに手を伸ばして頭を撫でると目を逸らして「そういうのは兄弟にすればいい」と、ひんやりあしらわれたものだ。それがこの変わりよう、一度撫でればもっと撫でろと頭をぐいぐい寄せてくる始末である。話が逸れたが、申し出を一蹴された骨喰は軽く眉を寄せて不満げに弟を見やる。対する薬研は、少し苛立っているようだった。

なぜだ?霊力を送るだけなら、俺でもできる」
「相性があるんだよ」
「合うかどうか、こんのすけに調べてもらえばいい」
「あのなぁ、もう歌仙に決まってんだよ!」

珍しく語尾を荒げて立ち上がる薬研に驚いて、持っていたお菓子をぽとりと落としてしまった。焦って拾おうと手を伸ばしたが、一足先に畳を転がるお菓子を拾った歌仙はそれをちり紙に包んで捨ててしまった。

雅じゃない。兄弟喧嘩になるなら一旦外へ出てくれないか。僕の部屋には壊れてほしくないものがたくさんあるからね。主、なにも今すぐ病気になるというわけじゃない。骨喰の申し出もあるし、ここは保留にして、一週間後改めて決める事にしても構わないかい?君も、心の準備が必要だろう」
「おい、歌仙!」
「あ、うん。私は構わないけど
「なら、俺はこんのすけと話してくる」
「っ、待てよ、骨喰兄!」

すっと部屋を出た骨喰を追って、薬研も廊下を早足に駆けて行った。それをぼんやりと見送ったあと、歌仙に視線を戻すと、彼はため息をついて微笑み「朝食を頂きに行こうか」と私を促したのだった。