botanin5
2024-11-14 03:18:50
14147文字
Public 薬さに♀(小説)
 

あと、一息

霊力が無くなりそう!刀剣からもらわないと!設定
骨喰→審神者表現あります






「俺でもいいそうだ」


骨喰を追った薬研が戻らなかったため、近侍を久しぶりに歌仙に頼んで雑談を交えながら楽しく仕事を終えた夕方。昼間その姿を一切見かけなかった二人が、夕食のために食堂へ向かおうとした私と歌仙の道を塞いでいた。骨喰はどこか誇らしげで、そのすぐ後ろに立つ薬研は少し疲れているようで顔色が良くない気がする。

「いいって、なにが?」
「あんたに口づけるのが」
「んん?」
骨喰兄ィ」
「間違えた。霊力を送るのがだ。こんのすけに、俺とあんたの相性とやらも調べてもらった。条件には達している」
「条件?」
「霊力の数値が主様のものと近いかどうかですよ!」

ひょこんと骨喰の肩から顔を覗かせたのはこんのすけである。どうやら、こんのすけに骨喰の霊力値が私に近いかどうか調べてもらったらしい。しかし、霊力が似てくるには普段からより近くで生活している必要があったのではなかっただろうか?骨喰とは毎日話はするが、それが他の刀剣より特別に機会が多いということはない。素直に疑問をぶつければ、ああそれですかと事もなげに言いながらこんのすけは廊下に下り立ち、ちょこんと床に座った。

「骨喰さんは主様を特別に思っておられるので、感情が霊力に強い影響を及ぼしているようです。これはそう珍しいことではありませんよ。本来、主様のように霊力が衰耗状態になった場合、その供給の任に選ばれる刀剣男士は審神者と気持ちが通じ合っていることが比較的多いのです。
好きあっている分普段から日常的に接触が多く、且つ相手を知りたい、自分のものにしたいといった感情に作用されて霊力のかたちも自然と近いものになっていくのでしょう。」

つまり、刀剣と恋仲になっている審神者はあまり霊力が衰えるということはないのです。どうだと言わんばかりに胸を張ったこんのすけは可愛らしい。いや待て。さらっと言ってのけているが、つまり骨喰は私の事が好きということか。え、いやこれって、こんな業務連絡みたいなノリで発表されてよかったのか?
おそるおそる骨喰の顔を見ると、いつもと変わらない平然とした様子でこちらを見ていた。目が合うと少し首を傾げる。告白とか、気持ちを伝える心構えとか、とういった類は全く気にならないらしい。さすがと言っていいのやら、これぞ骨喰藤四郎という感じがする。

「本来は、この本丸内でより霊力値の適している刀剣男士が望ましいですが、骨喰さんも最低基準は満たしていますし、行為においても問題はありません。ご本人が希望されるという事ですから、主様が承諾するのでしたらこちらとしては問題ありませんが、いかがされますか?」
「えっと

ちらりと振り返って後ろに立つ歌仙を見ると、彼は少し笑って肩を竦めて「僕はかまわないと思うよ」と言った。私に対して恋愛的興味が無さそうな歌仙にお願いするよりも、私を好いてくれているという骨喰に頼んだ方が、彼らにとっても負担が減るのかもしれない。私は私は薬研の事が好きだったし、骨喰をそういった目で見たことがなかった。ここで骨喰の気持ちを利用する状況になってしまったことに、ちりちりと心が痛む思いがする。いや、それは言い訳だ。本当は。でも、私にはあまり選択権は無いように思える。そもそもこれは治療だ。結果的に口づけになるから周りは気を使ってくれているだけであって、普通は風邪薬の色は何色がいいですか?なんて聞かれることはない。

骨喰がいいのなら、私は―――
「俺は反対だ」

私の返事を遮ったのは、ここまで一切口を開かなかった薬研だった。

「これは治療なんだぞ。邪な想いを抱いてるやつに大将を任せたくない」
「それは、薬研の意見だ。主は俺でもいいと言いかけた」
「大将の体調を管理してんのは俺だ。いくら骨喰兄とはいえ、勝手はしてほしくねぇな」
「政府のお墨付きだ、勝手じゃない」
「っ、だから、」

「なら、君が治療すればいいじゃないか」

薬研。
たおやかな声が言い争いを止めた。薬研の動きはぴたりと止まり、歌仙の放った言葉の意味を理解した私の心臓はびくりと跳ねた。

「骨喰藤四郎のように、こんのすけに調べてもらえばいい」

歌仙の言葉がぐるぐると脳内を駆け巡った。同じくらいの期間、近侍であった歌仙が条件を満たしていたのだ。やはり、薬研も、薬研だって霊力の数値が私に近くなっていたっておかしくない。
ふわりと期待がこみ上げる。心臓が小さく音を立てはじめた。

本当は、薬研がいい。

思わず口からこぼれそうになった言葉は、だん!と壁が大きな音を立てたことで引っ込んだ。
さっきとは違う意味で、驚いた心臓がばくばくと動き回る。薬研が、壁を思いきり殴った音だった。力いっぱい拳の側面をぶつけられた壁は少しへこんだように見える。顔を伏せている薬研の表情はよく分からない。拳が緩んでずるりと腕はうなだれる。顔を上げた薬研は、宙を睨んでいた。

「俺は、しねぇよ」

腹の底からせり上がったような低い声に、足がすくんだ。