天体の公転周期とそれに追いつく方法

2023年5月4日発行の太乙×普賢アンソロジー『OVER DUB』用に書いた乙普です。1年経ったのでこちらでも公開します。せっかくだからいろんな乙普がほしいと思って「仲良くない乙普」を書きました。文末に、イベントの無配ペーパーに書いた、普賢視点の掌編も再録しています。

「とにかく、普賢だけは絶対嫌」



「いやあ、周りでちょろちょろするやつがいるなあって、気になってたんだよね」
そんなこんなのすったもんだが終わった後、説明を求められた太乙はあははと笑った。窓から吹く緑の風は心地よく、いかにも夏の訪れを感じさせてさわやかなのに、二人を囲む面々は苦虫を嚙み潰したような面持ちだった。さんざん振り回され、悩まされたあげく、猿芝居だったと打ち明けられたのだ、簡単に溜飲を下げられるはずがない。
「それで?」
広成子が先を促すと、冷たいお茶をこくりと飲んでから、太乙は「短気だなあ」と肩をすくめた。
「最初は無視してたけど、しつこく嗅ぎまわっててさ。それで普賢に協力してもらったんだ」
普賢もにこにこと頷く。
「太極符印で追跡したところ、金鰲島との通信が確認できました。こちらの内情、特に宝貝開発についての情報を定期的に流していたようだったので、太乙さまに報告を」
「それはいつ頃の話だ」
……普賢が仙人になったぐらい?」
「そんなに前? もっと早く言っていれば別の方法があったんじゃないのか」
「だって変に動くと、こっちが勘づいてるとバレてしまうし。ああいうのはある程度泳がせて逃げられない状況にしてから捕まえるほうがいいんだよ」
道徳が以前とは別の意味のため息をついた。
「それでひと芝居打ったと」
「ふふふ。なかなかの名演技だったろう?」
「難しい話で喧嘩になったというのはなんでちゅか」
口を挟んだ道行に、普賢がああ、と瞬きをした。
「天体の公転周期のことですね。あのキーワードが合図でした。わざと騒ぎ立てることで多くの仙道の耳に入れ、相手に気づかれぬよう包囲網を作る筋書きです」
普賢の説明に耳を傾けつつ、太乙は自らの湯呑にお茶を注ぎ足す。黄金色のそれが反射して、白い天井にゆらゆらと水紋を描き出すのを、普賢がうっとりと見上げた。
ここのところの対立の構図がすべて、この作戦のためだったのかと思うと、呆れて怒りすらわかない。普賢にいたっては「敵を欺くにはまず味方からと、玉鼎さまが教えてくださいました」と澄ましていうものだから、叱るわけにもいかなかった。ただ「仲たがいしていたふり」については、二人そろって首を横に振った。
「別にふりじゃない。今だって気に入らないさ」
「理解し合ってはいないと思います」
何だかいい感じに並んでお茶を飲んでいるけれど「すすめられた席がたまたま隣だっただけ」と、どちらもがしれっとうそぶく。
「あー……ではあの道士の処分についてだが」
玉鼎がこほんと咳ばらいをした。今日集まったのはそのためだ。何も知らされないまま振り回されたことは腹立たしいが、早急に取り決めて師に報告せねばならない。
「追放するだけでいいんじゃない? 盗られたものもないし、だれか怪我したわけでもないし。まあ盗らせるつもりもなかったけれどね」
太乙の言葉に普賢も頷いた。
「あの道士はもっと早くに引き上げるつもりだったそうです。ですが予想外に情報収集に時間がかかってしまい焦っていた。セキュリティがちゃんと機能していることが確認できただけでもよかったかと。——ところで太乙真人さま、」
あらたまった口調で、普賢が向き直る。
「約束、忘れていませんよね?」
……しょうがない」
太乙は湯呑をことりと置く。普賢が差し出したのは一本の書簡。
「協力してもらったのも約束したのも事実だ。反故にするつもりはないよ」
差し出されたそれを一瞥し、一筆さらりとしたためて普賢につき返した。そこには正式な崑崙十二仙太乙真人の名。
「まだ私は、きみのことを鼻持ちならない青二才だと思っているけれど、十二仙が揃うのは悪いことじゃない。今よりもっと活躍してもらうよ」