天体の公転周期とそれに追いつく方法

2023年5月4日発行の太乙×普賢アンソロジー『OVER DUB』用に書いた乙普です。1年経ったのでこちらでも公開します。せっかくだからいろんな乙普がほしいと思って「仲良くない乙普」を書きました。文末に、イベントの無配ペーパーに書いた、普賢視点の掌編も再録しています。

「とにかく、普賢だけは絶対嫌」



あわい若葉が、太陽の光を受けて濃い緑に変わる季節になっても、十二仙の浮かない表情は晴れることがなかった。太乙はあからさまに普賢を避けていたし、普賢もそれを察してどこか身構えているように見えた。いよいよ十二仙が揃うようだと噂していた仙道たちも、一向に発表される気配がないのを訝りはじめている。
彼らの断片的な噂をつなぎ合わせれば、普賢が仙人になったあたりから雲行きがあやしくなっていったらしい。それすら、洞府ごとの予算配分にどちらかが不服を申し立てたとか、研究内容が気に食わないとか、果ては片方がもう片方の恋人を寝取ったのでは、などという下世話なものまで、無責任な憶測だけは飛び交うものの、真相はわからぬままだ。
「これじゃあ落ち着いて修行に身が入らねえな。空気が悪すぎる」
赤精子がイライラと呟く。やはりこの雰囲気の中で十二仙など決められるはずがない。そんな諦めムードすら漂っていた、ある午後のことだった。だれの口からもため息しか出てこない会議室に、五、六人の仙道が血相を変えて飛び込んできた。
「十二仙のみなさま、あの!」
「突然申し訳ありません、一大事で」
「どうした」
出迎えた玉鼎に、息を切らしながら一人が口を開いた。
「太乙真人さまが……
「普賢真人さまと太乙真人さまが、その、大喧嘩をなさっていて、」
急ぎ駆けつけたのは玉虚宮近くの一室だった。太乙がつねづね宝貝の講義に使っている工房で、さまざまな機械や雑多な工具類が散乱している、その中心で向き合う二人がいた。壁際に寄ってこわごわ取り巻いているのは、講義を受けていた道士たちだろう。
「おい、やめろ。何をしている」
「太乙さま、」
二人の間に道徳が割って入ると、先に突っかかったのは普賢のほうだった。
「大人げないですね。僕なんかよりずっと長く生きているくせに、そんなこといって恥ずかしくないんですか」
「はあ?! それはきみのほうだろう?!」
いまにも掴みかからんばかりの太乙を、玉鼎と慈航が二人がかりで引き止める。普賢はやや青ざめた顔に笑みさえ浮かべていて、それがよけいに太乙を逆なでしているようだった。
「何があったんでちゅか」
道行が訊ねると、遠巻きに見ている道士はおろおろしながら「わかりません」と答えた。
「太乙さまの講義を、普賢さまが後ろでご覧になっていて、途中から難しい話をしはじめたんです。そうしたら、急に太乙さまが普賢さまに詰め寄って」
「難しい?」
「天体の公転が、とか、その速さがどうとか、とにかく私たちにはよくわからず……
「そういう講義だったんでちゅか?」
「いいえ、材料力学です」
説明を聞いてもよくわからない。いったい二人に何が起こったんだ?
「弟子たちの面前でみっともないだろう。落ち着いて向こうで話を——
玉鼎が肩に置いた手を、太乙は憤然と払いのけた。
「みっともないのは、納得できない言いがかりをはいそうですかと受け入れることじゃないのか?」
「太乙さまの頭が固いせいだと思うな」
「やめなさい、普賢も!」
……いい度胸だ」
なんとか場をおさめようとする周りを押しのけて、太乙は普賢の胸倉を掴んだ。
「年長者への敬意の払い方がわからないなら、私が教えてあげよう」
「年長者? 正しい理論が勝つというだけの話でしょう」
「私のほうが長く生きているといったのはきみじゃないか」
「じゃあこうしましょうか」
掴まれた手を、普賢が笑顔で引きはがした。
「僕と太乙さまが、それぞれこれぞという物で競うんです。どうですか」
太乙はふふんと笑う。
「本当にいいのかい?」
「負けるつもりはないですよ」
「いいだろう。宝貝オタク相手に宝貝で勝てると思っている身の程知らずを思い知らせてやる」
道士たちは色めき立ち、十二仙は揃って頭を抱えた。