天体の公転周期とそれに追いつく方法

2023年5月4日発行の太乙×普賢アンソロジー『OVER DUB』用に書いた乙普です。1年経ったのでこちらでも公開します。せっかくだからいろんな乙普がほしいと思って「仲良くない乙普」を書きました。文末に、イベントの無配ペーパーに書いた、普賢視点の掌編も再録しています。

「とにかく、普賢だけは絶対嫌」



数日後、彼らは互いの「自信作」で対決することとなった。仲間たちはもちろん全力で止めた。元始天尊にも彼らの愚行を諫めるよう頼んだが「好きにさせておけ」と含み笑いをするだけ。太公望でなくても(クソジジイめ)と文句の一つも垂れたくなる心持ちだった。
それでもその場に足を運んだのは、何かあったら連帯責任が問われるのが目に見えているからであり、ここのところの二人の不仲のわけが、これで判明するかもしれないという思惑もあったからだった。
無関係な仙人道士は立ち入り禁止という令を出したが、当然ながら従う者は一人もおらず「太乙真人の講義を受けたことがある」「普賢真人が仙人になるときにその場にいた」という、ほぼこじつけみたいな理由を口にしながら、野次馬が集まった。
「普賢真人。覚悟はいいかい」
仙道にぐるりと囲まれた広場の真ん中で、太乙は高らかにのたまう。
「ここまでの修行がすべてチャラになるかもしれないよ。十二仙どころかまた一番下からやり直しだ」
「それは太乙さまも同じでしょう」
普賢も揚々と応戦する。二人ともいつになくいきいきして見えるのは気のせいか、それともギャラリーがいることで昂っているからか。短くない時間、睨み合った後、二人はおもむろに傍らの袋の中から宝貝を取り出し——
「えっ」
固唾をのんで見守っていた観衆から小さな声が上がった。道徳と道行もおもわず顔を見合わせる。
「はあ?」
「なんでちゅかアレ……
太乙は一本のシンプルな剣を手にしていた。磨き上げられた青銅製の刀身が、昼下がりの光を浴びて鈍く光る。かたや普賢は大ぶりの剣を携え、まっすぐ太乙に向けた。同じく青銅製であろう、複雑な文様が刻まれた美しい曲線の刀剣。
宝貝専門の太乙と物理専門の普賢、どちらにももっとも縁遠い形態のそれは、自信作どころか宝貝ですらない。
「へえ……気が合うなあ」
ざわざわする周囲を気にも止めず、太乙は何だかとてもうれしそうだった。
「もっと早くにこういう話をしたかったよ」
「そうですね。わかり合えるチャンスはあったかもしれない。でも手遅れですよ」
そういって普賢が一歩踏み出したとき、
「おい、待て!」
どこかから叫びが聞こえて、普賢が動きを止める。太乙も剣を振りかざしたまま振り返った。
「ちょっと待て。どういうことだよ」
人垣をかきわけ、広場に走り出たのは一人の道士だった。ひょろりと細身で背が高く、黒い短髪で、しかし目立つ特徴があるわけではない。よくある道服を着、どこの山に属するのか、どの洞府のだれに弟子入りしているのかだれも知らない、だれにも名を覚えられていない一介の——
「おれはてっきり、最新鋭の宝貝対決が見られるんだと思ってたんだ。なのに何だそれは。そんな千年前からあるようなもので戦ったって、何の意味があるんだよ」
「わかってないなあ」
太乙は目を細めた。
「宝貝で勝つなんて簡単さ。でもこういう武器の原点に立ち返るからこそ、真の実力が試されるんだ」
そうそう、と普賢も剣を空にかざした。つややかな表面に空の青が映る。
「化学だ物理だといっても、白兵戦の場合はこれが一番効率がいいからね。太乙さま程度なら太極符印を起動させる時間で叩きのめせる」
「それはこっちの台詞だ、普賢!」
「いやいや、おかしいだろう?! あんた崑崙山の幹部だよな? 宝貝を使えよ、宝貝を! お前も! もうすぐ十二仙になるんだろ?! 宝貝で勝負しろよ!」
「使ってるよ。乾元山に代々伝わる宝刀を、最新の研磨宝貝で磨き上げたんだから」
「僕も元始天尊さまからいただいた秘伝の刀剣を、太極符印でさらに強い合金に作り変えてみた」
「そういうことじゃないって言ってんだ!」
男は喚きながらずかずかと二人に歩み寄った。ひどく狼狽えているようだった。
「おれが困るんだ! 向こうで待たせてるんだ、あんたらの事情なんてどうでもいい、早く出せよ、宝貝を!」
「待たせてるってだれを?」
太乙の言葉に、男ははっとわれに返った。
「きみが何に困るのかな」
観衆はぐるりと彼らを取り囲み、成り行きを見守っている。
「やっと尻尾を出した」
普賢のひとことに男は青ざめて後じさった。ガタガタと体を震わせ、なにやら意味不明なことを口走りながら、よろけて膝をつく。
「普賢!!」
太乙の声に、普賢が剣を横に構える。這いながら逃げ出そうとした男の足元にすばやく突き刺した。ざくりと嫌な音がして、男が呻きながら足を抱えてうずくまる。
「うわあ……やりすぎたんじゃない?」
動けなくなった男をこわごわ覗き込む太乙に、普賢は「大丈夫」と剣を抜きながら顔を上げた。
「腱をかすめただけ。ちゃんと手加減しましたから」
呆気にとられている仲間に、太乙は告げた。
「だれか元始天尊さまのところへ連れて行ってくれないかな。産業スパイなんだ」