天体の公転周期とそれに追いつく方法

2023年5月4日発行の太乙×普賢アンソロジー『OVER DUB』用に書いた乙普です。1年経ったのでこちらでも公開します。せっかくだからいろんな乙普がほしいと思って「仲良くない乙普」を書きました。文末に、イベントの無配ペーパーに書いた、普賢視点の掌編も再録しています。

「とにかく、普賢だけは絶対嫌」



終南山の南に位置する研究室は、南東二面の壁に大きな窓があり、当初はさんさんと陽光が差し込んでいた。庭で弱っていた薬草を摘み、日当たりのいい窓辺で水にさしたのが数年前。温室のようなぬくぬくとした環境の中、それはすこぶる旺盛に息を吹き返した。雲中子にとっても予想外ではあったが、わざわざ屋外に摘みに行く必要もなくなったし眩しくないし、これ幸いとたいして剪定もせず、伸び放題にさせてやっている。結果、薬草はいまや窓全体を覆いつくしていた。
「いったいぜんたい、どういうわけでそんなにへそを曲げているんだい」
わさわさと窓辺の葉をむしり取りながら訊ねると、太乙は不機嫌そうに押し黙った。窓の反対側で、ずらりと並ぶ薬棚に目を輝かせていたのに一転、視線を宙に泳がせる。
「なに。だれかに説得を頼まれた?」
「別に。珍しいじゃないか、きみがそこまで頑なになるのは」
「うるさいなあ……
きらきらした木漏れ日に似つかわしくない仏頂面で文句を言いはじめて、こんなふうに突っかかってくるのは、何かしら後ろめたく思っている証拠だ。
「まったく情けないったらありゃしない」
「元始天尊さま熟睡用」とラベルが貼られた薬瓶を手にとって、太乙は息巻いた。
「十二仙としての資質があるかどうかは、客観的総合的評価に基づいて判断されるべきなんだ。それなのにろくに探しもしないまま『あの子以外にだれがいるんだ』って、普賢ありきで決めようとしている。みんなどうかしてるよ」
「私みたいな第三者から見ても、普賢には十分素養があると思うけど」
「きみまでそんなこと言う。あれは悪目立ちしているだけだろう?」
仙道がたくさんいる崑崙山は、顔や名前どころか、存在すら知られないまま、ほとんどが「その他大勢」として過ごす。面識がない者にまで覚えられ、次期十二仙とまで讃談されているなら、もうそれは立派な才能の発現ではないだろうか。
雲中子自身は、十二仙が揃おうが揃うまいが関係ないけれど、普段他の仙道とめったに関わり合わず、興味を持たない自分ですら、普賢については何度も耳にしている。他が凡庸なのではなく、彼が頭ひとつ抜きん出ているという印象は、あながちひいき目でもないと思う。
「逆にそこまで評価できない根拠は何だい」
客観的総合的評価などともっともらしいことを口にするくせに、自分が拒むわけは一切説明しない。何か気に障ることでもあったのか、それとも
「来られると困る理由でも?」
ガチャンと音を立てて、太乙は瓶を棚に戻した。
……星が」
「星?」
木漏れ日が散る窓辺を見つめたまま、太乙は黙り込む。窓を覆う薬草のむこうはまだあかるく、星が出るにはずいぶん早い。
「星がどうかしたかい」
口をへの字に引き結んだままの横顔に問いかけたが、返事が寄越されることはなかった。