天体の公転周期とそれに追いつく方法

2023年5月4日発行の太乙×普賢アンソロジー『OVER DUB』用に書いた乙普です。1年経ったのでこちらでも公開します。せっかくだからいろんな乙普がほしいと思って「仲良くない乙普」を書きました。文末に、イベントの無配ペーパーに書いた、普賢視点の掌編も再録しています。

「とにかく、普賢だけは絶対嫌」



道端で一人の道士を見かけて声をかけた。顔を見るなり慌てて逃げ出したので、首根っこを引っ掴む。こっそり修行を抜けてきたのだろう、油断も隙もない。
「まったくお前はいつもいつも……
「普賢のことなら知らんぞ!」
小言を遮ったそのひと言に、広成子はぎょっとして目をみはった。たしかにそれが聞きたくて呼び止めたのだ。
……友人のこととなると聞かずともわかるものなのか?」
「んなわけあるか」
不躾な口を叩きながら、太公望は道のわきの古い大樹の根元に胡坐をかいた。すっかり開き直ったらしく、懐から取り出した桃をかじりはじめる。そういえばこの道からすこしわきに逸れたところに、玉虚宮管理の桃園があった。それで慌てたわけか。
いつもなら説教を垂れるところだが「おぬしが説教以外でわしに用などないはず、であれば普賢のことであろう」といわれ、小言を飲み込んだ。
よくわからないが、それなら話は早い。
「普賢から何か聞いていないか」
「何かとは」
「だれかと揉めているとか」
「あやつは自分のことは話さぬから」
「では十二仙昇格については」
「どこぞのだれかの噂話を小耳に挟んだことはあるが、本人からは一度も」
……あれだけいつも一緒にいて、いったい何を話しているんだ」
「こんな変化のない毎日に、何を話すことがある?」
本当に知らないのか、それとも隠しているのか。いつもと変わらぬ横顔から本心はうかがい知れない。
「言っておくが、わしは太乙のことも知らんからな」
びしりと釘を刺されて、広成子は唸った。
あれから太乙と普賢それぞれに何度も確認したが、二人とも頑として口を割らない。太乙は普賢を認めないの一点張りで、普賢はそうでしょうねと苦笑する。にっちもさっちもいかないので、もっとも両者と距離が近く、事情を知っていそうな太公望に、こっそり訊ねてみようと、わざわざやって来たのだけれど、どうやらこれも無駄足に終わりそうだった。
めんどくさそうに太公望は広成子を見上げる。
「喧嘩であれば当人同士の問題だ。放っておいてよいではないか」
「そういうわけにはいかない。元始天尊さまも気を揉んでおられる」
「はー……相変わらず勝手だのう、ジジイは。自分はこれっぽっちも動かぬくせに」
……そもそも、太乙があそこまで普賢を拒む理由がわからない」
探せば他にいるだろうと太乙は繰り返すけれど、いるならもうとっくに名前が挙がっている。今の今まで普賢以外に一人の名も出ないということは他に該当者はいない、そんなことは太乙だってわかりきっているはずなのだ。
「性に合わんとか、その程度の理由やもしれんぞ」
「その程度のたいした理由もないなら、さっさと認めてしまえばいいのに」
「ほー。本当にそう思うのか?」
にやりと太公望は口の端を上げた。
「十二仙は崑崙山の筆頭。有事の際には下々を率いて指示を出さねばならんし、同じ旗印のもと一致団結して矢面に立たねばならん。たいした理由もないがどこかそりが合わぬやつと、いざというとき、私情を排して意思統一できるかのう?」
返事に窮する広成子に、太公望は「ま、それもわしの想像でしかないが」とひそりと付け加えた。
「わしは正直どうでもよい。ただ、太乙が反対している気持ちもわからんでもない」
……というと」
「星はみな同じ速さでまわっているとは限らんだろう?」
「は?」
さてと、太公望は腰を上げ、食べてしまった桃の種を、ぎゅうぎゅうと親指で足元の土に埋め込んだ。証拠隠滅も手慣れたものだ。
「そろそろジジイがしびれを切らして白鶴を寄越す頃だ。話は聞いてやったからバラすでないぞ?」
そそくさと立ち去りかけた背に、広成子は「一つ教えてくれ」と呼び止める。
「どうして私が普賢のことを聞きに来たとわかったんだ」
太公望は二、三歩進んだところで足を止め、呆れた顔で振り返った。
「それを聞きに来たのが、おぬしで五人目だからだ」