トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【乙普】シナリオ/文字書きワードパレットより、5:00/願い カーテン 朝日 
あたりは薄い光に満ちていた。
朝なのに薄暗い理由はすぐにわかった。さらさらと窓の向こうで音がする。そうか、眠っている間に雨が降りはじめたのか。カーテンのむこうに空の色を確かめることはかなわなかったけれど、朝というには頼りない、さりとて夜にも戻れない薄闇に、意識を半分沈めたまま、起きようかどうしようか思案する。一夜を共にしたその人は、こちらに背を向けたままだったが、どうやら彼も目を覚ましているらしかった。
「普賢、おはよう、」
そう言いかけたとき、
「太乙さまなんか、嫌いです」
小さいけれど、きっぱりと言い放たれて、微睡みから引き上げられる。瞬きを何度かして「……うん」と答えた。普賢は「ほんとうに嫌いです」と繰り返したあと「大嫌いです」ととどめを刺して、さすがに太乙は天井を仰いだ。
そんなに下手だったかなあ、わりとがんばったと思うんだけどな。「ごめんよ」と返して、その肩にこつんと額を擦りつけると、震えているのが伝わってきた。
うん、ちょっとそんな気がしたんだよ。たしかに彼は昨夜この腕の中で過ごしたけれど、ほんとうは私じゃなくて、別に好きな人がいたんだろうって――たとえば同期の太公望とか? 確かめるのが怖くて訊かなかったし、彼も言わなかったけれど。お互い願ってのことだと勝手に思っていたが、そうか、泣くほど嫌だったか。それならそうと言ってくれればやめたのに。――いや、それだってずいぶん勝手な言い草にはちがいないのはわかっている。
ぐるぐると思考をかき回してみたが、うまい言葉が見つからない。だからそっと背中ごしに腕をまわした。生まれたての雛を抱くゆるやかさでほそい体を抱き、ごめんよともう一度囁く。
できることといえば、これぐらいしか思いつかなかった。
「嫌いです、」
普賢はまたそう呟いた。
「僕は今日、朝いちばんで広成子さまの講義に行かなければなりません」
「それは……たいへんだ」
「今まで一度も休んだことがないんです。望ちゃんと約束しています」
「そっか」
「雨も降っているし」
「それは私のせいじゃないなあ」
「太乙さまのせいです、」
普賢は敷布に顔をうずめた。
「帰りたくなくて、どうやったら講義を休めるか考えてしまう……
さらさらと雨音が聞こえる。まるで天女が歌っているみたいだ。こんなに愛しい雨の朝は初めてかもしれない。
「ねえ普賢、こんな設定はどうだろう」
彼はまだ、うつ伏せたまま顔を上げないけれど。
「きみは今朝、突然熱を出して起きられなくなったんだ。原因は不明。どうやら優秀な道士がかかる病らしい。薬は飲んだがなかなか効かない。起きられないから、私のところで安静にしているんだよ」
そんなのだめですと消え入る声が聞こえたが、「十二仙がいうのだからまちがいないよ」と笑って、太乙は抱きしめる腕に力を込めた。