トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【乙普】秋霜烈日
まるっきり動かない取っ手を、力いっぱい握りしめた。もうなんども挑戦して、両手とも真っ赤になっているが、それをかばっている余裕はなかった。動け、動けと念じながら、二度三度と力を込める。ようやくわずかに右にゆるんだ、と思ったとたん、それは耳ざわりな音を立てて分解し、床に散らばった。
三日も寝ないで作ったのに。あまりのことに呆然としていると、すぐそばで大きなため息が聞こえた。顔を上げた先で、その人がやや厳しい表情で見下ろしている。
「ごめんなさい。すぐにやり直します」
慌てて床に膝をつき、こなごなになったそれをかき集めた。あまりにも無残な壊れかたに、再利用は無理だなと絶望的な気分になる。
「今回が最後だって言ったよね」
静かだがあきらかに怒気を含んだ声に、普賢の体がこわばった。
「あの、」
「これは遊びじゃないんだ」
……わかっています」
「わかっていて、できないの」
……それは……
言ったよね、と彼は繰り返した。
「材料は無限じゃない。いつまでも無駄な努力に付き合うほど私も暇じゃない。やる気がないならさっさと諦めなさい」
冷たい言葉に心臓が凍り付くようだった。言い分がもっともなだけに、ひとことも言い返せないまま、普賢は両手を握りしめた。
宝貝作りを学ぶ講義だった。講じるのは崑崙十二仙の太乙真人。崑崙山でだれよりも宝貝に詳しく、その知識や技術で右に出る者はいない。少々変わり者であるとも聞いていたが、初めて会ったとき「わからないことがあるなら何でも聞いてよ」と笑顔で手を出したから、普賢もほっとして握手を交わしたのだった。
講義はわかりやすく、とくに科学が好きな普賢にとって興味深いものが多かった。前のめりで質問する普賢を「いいねえ」とほめてくれもした。だから座学を終え、実習に入ることを心待ちにしていたのだったが、現実はそう甘くはなかった。
課題はとても高レベルで、少々知識をつけた程度ではまったく太刀打ちできない。設計図を書き上げるだけで何日もかかり、ぎりぎりで仕上げたものには容赦なくダメ出しがあった。
「最初はみんなこんなものだよ」と笑って許してもらえたのは最初の二回だけ。あとは無言で突き返された。
「どこが悪いか教えてください」
それでもと食い下がった普賢に、太乙真人はちらりとも視線を合わせず「なにもかも」と言い放った。
「私の意見を聞いてどうするの。私の宝貝じゃないんだよ。いずれきみ自身が使いこなさなきゃいけないんだ。――きみはなにをしたい?」
なにをしたい?
部屋に帰って、作りそこないの残骸を前に、そのひとことを反芻する。
宝貝とは、仙人道士の力を増幅させる必殺兵器。持つものの力を最大限活かし、危険を回避したり攻撃したりする。仙道としての評価に宝貝づくりが不可欠なのは、己の力を正確に把握し使いこなせなければならないから。
(僕は――なにをしたいんだろう)
争いごとは嫌いだ。できればそんなもののために自分の力を使いたくないし、誰かを傷つけるものを作りたくはない。でも、
(守るための力があったっていいはずだ)
堰を開けた水のように、勢いよく思考が流れはじめる。自分の持てる力。知識。それらを活かせるもの。
(なにもかもだめなのは、僕がなにをどう使うかを見誤っていたからだ)
翌日、太乙真人のもとを訪ねた。疑わしげに眉を寄せる人に「もう一度だけチャンスをください」と言って、部品を順番に並べていく。粉々になったもの、欠けてしまって原型をとどめないものも一つ残らず。
「どうするつもり。使いようのないものもあるみたいだけど?」
腕組みをして見下ろす人を見上げ、普賢は「いいえ」と言った。
「元素レベルで再利用できると思います」
太乙真人はへえと呟いて目を細める。
「おもしろそうだね。話を聞かせてよ」
はい!と返事をしてから、普賢は理想の宝貝の構想を語りはじめた。