トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【乙普】  文字書きワードパレットより。慶/泣きながら 落ち着いて 溶け合う
「普賢、朝だよ」
あくびを堪えながらそう呼びかけると、唸りとも喘ぎともつかない声が返ってきた。頭上ののっぺりした暗さはだんだんと明るさを増していくが、きらりとも星は見えない。くらがりの中、ちらりと見た横顔は、まだあきらめきれないといった表情で、まあ仕方ないかと思いつつ、太乙もまた空へと目を向ける。
夜と朝が溶け合う空は、漆黒から群青へ、そしていつもの青へと色を塗りかえようとしている。流星群を見ようといったのは普賢で「それなら乾元山がいいんじゃないかな」と提案したのは太乙だ。
「こっちからの方角のほうが、いくらか見晴らしがいいと思うよ」
嘘ではないけれど、あわよくばそのまま泊っていったりしないかなという下心も、ないわけではなかった。それを知ってか知らずか、普賢はあまり思案せぬまま「いいね」と頷いた。流星群のピークは午前三時から夜明け前まで。天気次第では、空一面に降るような星が観察できると、普賢は声を弾ませた。長丁場になりそうな夜の観察に備えて、防寒具やらあたたかい飲み物やら、小腹がすいたときの甘いものやらを用意して、二人で時間を待ったのだが、
……見えないねえ」
普賢は何度目かのため息をついた。
天気はいいはずだったのに、空はずっと厚い雲で覆われたまま。いくら待っても空は薄灰色で、きらりとも星の欠片を見つけられない。
「残念。今回はあきらめよう」
あたりがうす明るくなったころ、ようやく普賢はそういって背伸びをした。太乙もやれやれとその場でごろんと横になる。泊っていけば、の後ろにあった甘い思惑は残念ながら果たされなかったけれど、まあそんな夜だってある。
「まるっきり、前と同じだね。覚えてる?」
眠そうに目をこすりながら、普賢がいうので「なにが」と訊けば「あのときも見えなかったんだ」と愉快そうに膝を抱えた。
「流星群を見においでよ」と太乙が誘ったのは、まだ普賢が道士のころだ。十二仙の口車に乗っていそいそとやってきた普賢はまんじりともせず空を見つめていたが、結局今日と同じようにひとつの星も見えぬまま、朝を迎えた。
「覚えてる覚えてる」太乙も笑った。
「泣きながら、十二仙様ならどうにかできなかったんですかって食ってかかられたんだっけ」
泣いて抗議する道士を落ち着かせるのに大変だったんだよと言えば、そんなこともありました、と普賢は苦笑する。こればかりはどうしようもないし、でもなかなか納得しない頑固な道士相手に、太乙が提案したのは「星を見る宝貝」を作ることだった。木の小箱に穴を開け、中に灯りを入れるという単純な宝貝はどうしようもなく不格好で、空の星とは比べ物にならないほど稚拙なものではあったけれど、それでも普賢はその宝貝を何回も自室で使ってみたのだという。あれから流星を見る機会は幾度もあったけれど
「あの宝貝ではじめて部屋に星を映し出したときの感動は忘れられないよ」
それならよかった。十二仙でも、どう頑張っても空の星や雲をどうにかすることはできないが、発想をすこしかえて近づくことができる、それを知ってもらえたのなら、あの日徹夜で曇り空を眺めていたかいがあろうというものだ。
「ところで普賢」
ふわと欠伸をする普賢に、太乙は笑いかける。
「今夜もまだ流星群は見られるみたいなんだ。もうひと晩、うちで見ていかない?ご飯も一緒に食べたりしてさ」
きょとんと瞬きをしてから、普賢は「いいね」と笑った。