しちろ
2024-02-14 16:09:54
21598文字
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真夏のロケット

Twitterまとめ。


真夏の針山

 頭に棒が刺さったマブが、お盆に馬と牛を飾ろうかなと思ったのは、親を亡くした弟子を迎えたことがきっかけである。しかし若い彼女は行事には詳しくはなく、同世代のくせにやけにジジくさい友人に聞いてみることにした。
「お盆に馬と牛? 精霊馬のこと?」
「そうそう、キミ知ってるんだ?」
「うん、まあ一応……俺も作ったことあるし」
「あるんだ?」
 少女が相談を持ち掛けた帽子の少年は、寺院にも教会にもまるで信仰心がない。少し意外に思いながら、少女は彼に作り方を訊いてみた。
「イルカキュウリとかシャチナスとかハリネズミレタスとか、ハリネズミレタスとかハリネズミレタスとか」
「レタスやけに強調してない? それとも、そんなにレタス好きだったっけ?」
「どちらもそうでもない」
 少女は帰宅後、赤ずきんから聞いたとおりに作ることにした。弟子の亡き両親を迎えるためだ。



「できたぜ、師匠! パンプキンボム馬! その名も、世界の支配者☆バド・ライトイヤー号だ! この追尾型爆弾で奈落を支配してやるぜ!」
「私はハートミントで、女の子のときめきハート号……。私の運命の王子様がこれに乗ってくるんです!」
「あたしはあいつに教えてもらった馬と牛を……。さっそくお供え、と……地図のここでいいかな」
 その日の午後、マイホームにてウマ×2、ウシ×2完成。素材も趣旨も全体的に間違えているが、とりあえず少女は弟子と作った四体の精霊馬を、ポストに頭、震える匙に尻を向けて設置した。
 そう、この女。よりにもよって、馬と牛をアーティファクトとして設置したのである。

「あれ? なんか、光った?」

 三人が変だねと言い合う間もなく、何かが轟音を立てて庭に着弾した。
「なんだい、いったい!」
「師匠、あの人たちは……!?」
 屋外に飛び出した三人は、さらなる驚愕に目を見開く。
 少女の作った馬に乗って、苦悶の表情を浮かべる人、人、人……
 マイホームの玄関先が、知り合いの亡者で埋め尽くされていたのだ。
 わあ懐かしいね、などと再会を喜ぶことは少女にはできなかった。皆の顔が、怒りで満ちあふれている。
 そしてその先頭にいたのは、少女にはとくになじみの仲間だった。
「お前……なぜ馬をハリネズミで作った……! 獣人の俺は体毛があるからまだいいが、コイツのような人間は満足に乗ることもできんだろうが」
「おや、ラルク。エスカデも久しぶり。本当に奈落から帰ってくるんだ、すごいね」
 そこには、ラルクやエスカデをはじめ亡者――もとい奈落に落ちた方々が、ハリネズミレタスに騎乗して勢ぞろいしていた。それぞれ下半身をぷるぷると震わせ、なんとも形容しがたい顔で唇を結んでいる。ここでの明言は避けるが、みな危うく男として死亡するところだったのだから無理もない。
「なんかその……キミたち痛そうだね、大丈夫?」
「痛そうじゃなくて痛いんだ、どこがとか言うな奈落に落とすぞ貴様!」
 スパッツのせいで下半身の防御力に乏しい聖騎士が、馬上から怒鳴りつけてくる。震えているせいで威厳はない。
「だってイルカキューリ貴重だし、あいつ、やけにハリネズミ推しだったし! まさかこういうことになるとか思ってなくてさ……! 悪気はなかったんだよ本当だよ。……ってか、エスカデのスパッツ、お尻に穴あいてて超ウケル」
「黙れ、真の悪め! 今日という今日こそは斬り捨てる!」
 エスカデの背後に、赤い影が差した。ルシェイメアで斃れたあの男だ。
「フン。甘いな、ハリネズミ程度で……やはり人間などこの程度か」
「悪魔め……お前もいたのか。今度こそ奈落に落ちるがいい……
「残念だったな、俺はもう死んでいる」
「ああーっ、地獄絵図!」
 マイホームの若き英雄は髪を振り乱し、両手で顔を覆った。こいつら生前も面倒くさかったが、奈落でさらにもつれたっぽい。
「あたしの家で最終決戦止めてよ、あんたたちとっくに奈落に落ちてるし!」
 棒の少女は、友人の少年がハリネズミレタスを強調した理由が理解できた。こんなクソ迷惑な団体客、押し寄せてもらっても本気で困る。誤算はコイツら、地上に戻ってくるのに針でケツや股間を刺激された程度ではめげなかったということだ。
「もういいから! キミたちみんな、はやく牛に乗って帰ってってば!」
 少女は招かれざる亡者たちをことごとくハリネズミレタス馬からひきずり下ろした。死者の中にティアマットがいるのもどうかと思ったし、輪になって盆踊りを始めた山盛りシャドールの中に奈落の賢人混じってるし、ちゃっかりアーウィンと相乗りしていたマチルダだけは嬉しそうだったが、それらにかまうどころではなかった。
「今日はバドとコロナがご両親に会える大切な日なんだよ! いい大人が邪魔しないでくれるかな!」
「かたいことを言うな、英雄の娘よ。奈落の管理人にはお盆休みがなくてな。うまい言い訳があれば、たまには私も遊びたいものだ」
「あんた賢人でしょ! わがまま言わないの! 奈落のお盆とかかき入れ時じゃないの? さあさあみなさん、牛にお乗りください、お帰りはこちらです!」
 少女はお盆初日で、来訪者たちを自作の牛に乗せた。無数の悲鳴と、ごく一部、何故か歓喜の声が上がる。
「くっ、クソ女、なんで牛をパイナップルで作った! どことは言わんが葉っぱが刺さる! 突き刺さって痛い! ハリネズミよりむしろ痛い!」
「聖騎士様、貴重なレビューありがとうございます、パイナップルはあたしのオリジナルです! これはもう、ドミナのあいつにパイナップル牛を推すしかないね! さあ行け、奈落でもなんでも落ちてこい!」
 少女は槍で牛の尻をひっぱたいた。死者たちをいたぶるパイナップルが闘牛のごとき勢いで発射された。 
「きっさまぁああ、覚えてろよぉぉぉ!」
「グッバイみんな、またいずれー!」
 かくして嵐のように訪れた死者たちは、ドップラー効果を残しながら、強制送還されていった。
 

「くそう、お盆……なんて恐ろしい行事なんだ……
「師匠……
……コロナ、バド。キミたちの馬と牛も、作りなおそっか……
「うん、そうするよ……
 良い子のみんな、年中行事は大切にしよう……
 静けさを取り戻したマイホームで、弟子とともに誓う大樹の主であった。