しちろ
2024-02-14 16:09:54
21598文字
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真夏のロケット

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真夏のロケット

 コロナとバドが起きて居間へ降りていくと、シャイロが不可思議なものを作っていた。
「おはよう、二人とも」
「おはよう、師匠。なにこれ?」
 双子が声をそろえて尋ねると、シャイロはにっこり笑った。弟子たちが気になったのは彼の手元だ。武器防具にしろゴーレムにしろ、よくわからないものを作っていることが多いシャイロだが、今日のはひときわ変わっている。瑞々しい朝採れのイルカキューリとシャチナスに割りばしで作った足がつけてある。
「精霊馬っていうんだ。もうすぐお盆だからね。僕も作ったのは初めてだけど」
「しょうろう、うま?」
「お盆にお供えするんだ。お盆には、これに乗って亡くなった人が奈落から帰ってくるんだよ。行きは足の速いキュウリの馬で早く来てもらえるように、帰りはお土産を持ってゆっくり帰れるようにナスの牛で」
 シャイロの説明を聞きながら、コロナとバドは物珍しげに、四足歩行に生まれ変わった海洋生物(風の野菜)を眺めた。そういえば、こんなやつ、おばあちゃんの家で見たことがあるような。
「って僕もドゥエルから聞いたんだけど、イルカとシャチじゃ、シャチの方が速そうだなぁ。帰りはアルマジロキャベツとかのほうがよかったかな」
 シャイロはシャチの牛をつまんで、これで本当にあっているんだろうか、と首を傾げている。作った本人もビギナーでよくわからないらしい。
「たぶん、こんな感じでいいのかな? よかったら二人も一緒に作るかい?」
 シャイロに促されて、双子は椅子に腰かけ、しばし精霊馬の作成に没頭した。収穫したての野菜籠からそれぞれに野菜を取り、新たな姿に仕立てあげる。シャイロは刃物を使う難しいところだけ手伝ってやりながら、弟子の様子をニコニコと眺めていた。
「よしできたぜ! その名も、大魔法使いバド様号、かっけー! 師匠、どう? 大魔法使いハインとお母さんがこれに乗って帰ってくるんだぜ」
「バド、なんで馬がロケットパパイヤなのよ。師匠の話ちゃんと聞いてた?」
 ジト目のコロナの前には、真面目な彼女らしく、シャイロが作った見本通りのナスの牛が完成されている。バドはへへんと鼻を鳴らして、ロケットを手で飛ばす真似をした。
「キュウリでなくたって、速けりゃなんでもいいんだろ? これならお父さんとお母さん、爆速で帰ってこられるぜ」
「えー、お母さんはともかく、お父さん泣くんじゃない? 弱虫で泣き虫でへっぴり腰なんだもん」
 ぶーすか言い合う双子の頭に手を置いて、シャイロが二人を見比べた。
「はは。さっそく飾ろうか。空からよく見えるように、二人の部屋の窓際にしよう」
 三人は双子の住む屋根裏部屋の窓際に乗り物を飾り、願いを託した。

 その夜。大樹の住民たちが寝静まるころ。
 マイホームの庭にひそかに、小さな星が落ちた。


――やあ、子どもたちが用意してくれたのが、まさかロケットとはね。うっかりもう一度死ぬかと思ったねえ、とっくに死んでるけど。なるほど、ここがあの子たちの住む家かぁ。
――あなた、だいじょうぶ? 頭に大きなたんこぶできてるわよ?
――大丈夫さ、我が子の前ではこれくらい。最後はお別れも言えなかったからなあ。せめてこの三日間だけは、子ども孝行するぞ! ってことで、ではさっそく……
――あらあら、子どもみたいにはりきっちゃって。ねえ、ハイン。孝行のまえにまずは、ちょっと大きくなったあの子たちの寝顔を見に行きましょう。若いお師匠様にあいさつも、忘れずにね。


 翌朝、やはりシャイロより遅れて起きてきたバドとコロナは、しきりに首をひねっていた。
「師匠。なんだか昨日から不思議なんだ。おれのフライパンがピカピカになってたり、全然咲かなかったコロナの花につぼみがついたりさ。おれがこないだ破っちゃった本も、ほら」
 バドは、先日うっかり破損してしまった本を開いてみせた。どこを破いたかわからないくらいの新品同様になっている。師匠じゃないよねと言われて、シャイロはうなずいた。人一倍器用な彼でも、さすがにそんなものまで直せない。
「折れちゃった私のホウキも、綺麗に直ってるの。なんだろう。見えないけれど、お父さんとお母さんが近くにいるみたい」
 しきりに不思議がる双子に、シャイロは穏やかにほほえんで窓を開けた。
「うん。僕もそう思うよ。ほら、そこ」
 彼が身を乗り出して指さしたのは、昨日はなかったはずの、不自然な穴ぼこ。バドにもコロナにも、それは小さな動物が掘り起こしたあとか野うさぎの巣穴に見えたけれど、シャイロは優しくこう言った。
「君たちのロケットが到着したあと、みたいだよ」