まよこ
2024-10-10 18:02:32
7045文字
Public 神田
 

怪談

昭和初期の極道神田の語る怪談七話
登場人物: 神田。昭和初期の極道


七話


 俺の生まれ育った田舎の山奥は、ほんとうになんにもなかった。娯楽があろうとなかろうと、ガキの遊びなんてそれほど変わりはないだろ?鬼を一人決めて、誰かが捕まるまで走り回るとかな。時間をかけられるときによくやってたのは、かくれんぼだった。なにもないが、自然だけはいくらでもあった。本気で隠れようと思えば、結構いい勝負ができたもんだ。数人集まれば、決められた鬼がゆっくり十を数えて、探し始める。範囲が範囲だ。もういいかい、なんざいちいち聞こえややしねえ。数え終わったら、どんで探し始めんだ。隠れる側も、鬼に見えなくなるとこまでつっぱしってって、探し始まるのと同時に隠れ場所を探すくらいだ。広いとこでやる場合はだいたいそんなもん。

 その時も、変わりばえのないただのかくれんぼのはずだった。鬼が一人、木に向かい数を数え始める。ひとり、ふたりと見つかり、だんだんと日が落ちてくる。大抵は暗くなる前に全員見つかるか、夜が来る前にぼちぼちと隠れ場所から出てくる。
だがそんときゃ、どうしても最後まで一人、でてこなかった。結局、全員で名前を呼びながら探したが、すっかり日が暮れ隣にいるやつの姿も見えなくなって、一人で先に帰ったんだろうと話し解散した。それでも各自親元に何やら話したんだろう。かくれんぼをしていたが一人見つからなかった、と。心配なら居なくなったやつの家に確認してもらえばいいんだから。
 だが、どの親もそんな子は知らないと言った。

 そうして次の日、集まった面々で首を傾げた。たしかに、始めた当初より一人減っていたはずだ。誰かが帰ってきていない。名前も顔も覚えている。けれど、親たちは知らないという。親が子の交友関係をすべて把握してるわけでもないだろう、知らないガキだって居るだろうさ。だが、居なくなったやつの親が騒がねえってのはどういうことだ。
 首を傾げながらも、どうしようもなく改めて集まった子供を数え、六人。確かに六人居ると確認してから、再びかくれんぼを始めた。数を数える声がする。一人二人と見つかり、そうして日が暮れた。
 すべてが昨日とおんなじだ。また一人戻ってこなかった。呼べど探せど見つからない。
 日は沈み、誰が誰かもわからなくなる夜が来る。俺たちはまた、どうすることもできずに家に帰り着いた。

 次の日、集まりにやって来たのは五人。誰も居なくなってはいないと言われるのまで、昨日と全く同じだった。全員の顔を見回す。もうしないほうがいいのではないかと肌では感じていたが、なぜだか誰もやめようとは言い出さず、三度めの鬼決めが行われた。そうして、かくれんぼが始まった。
 次の日もその次の日も、かくれんぼは続けられた。
 その度、誰かが帰ってこない。村の大人は子供は誰も居なくなっていないという。親だったはずの大人は、子供なんて最初から居なかったかのように暮らしている。

 そんな遊びも今日で最後だ。
 どちらともなくそう思ったのだろう。なんといっても、残されたのはあと二人なのだから。最後のじゃんけんは、俺が負けて鬼となった。もうひとりは、どこか心細いような不安げな様子だったのは覚えている。そいつの顔も名前も今じゃ思い出せねえが。
 木に向かい、目をつぶり、ゆっくり数を数え始めた。
 いちにいさん、と背後でしばらく迷うようにしていた気配も、やがてどこかへ駆け出した。
 しいごお、ろく。
自分の声だけが響いている。
 しち、はち、
 きゅう。
 ふいに、ばさりと気配が覆いかぶさった。ぴったりと張り付くような闇が、たしかに何かが真後ろにいることを告げている。とん、と背中をたたかれた。
「みつけた」
 低いけれどはっきりと聞き取れる何者かの声がした。振り向けど、そこにあるのは木と草っぱらが広がる何もない風景。
日は暮れた。誰も見つからず、誰も戻ってこなかった。
 鬼の俺は、一人で残された。

 その当時、村で子供が居なくなったという騒ぎは起きていない。変わらず暮らしは続いてていた。誰一人として困っているものはいない。本当に誰も居なくなってなど居ないのだろうか。なら、俺はいったい全体ずっとどこの誰と遊んでたんだろうな。遊びの種類が違うが、こうした遊びは鬼に捕まったら鬼になるもんだ。消えた奴らは、何かに見つかって、それとおんなじもんにでもなっちまったのか。
 それとも、何かに見つかった俺が次の鬼なのか。
 さあ、どうなんだろうな。