まよこ
2024-10-10 18:02:32
7045文字
Public 神田
 

怪談

昭和初期の極道神田の語る怪談七話
登場人物: 神田。昭和初期の極道



二話


 こんな仕事についてる男に禄なやつはいねえ。いねえんだが、引っかかっちまう女ってのもいやがるんだな。
 俺の舎弟にも例に漏れずろくでもない男がいたわけだ。そんな男に引っかかる女も女だがな。てめえ勝手に面倒くさい女に付きまとわれてるとよく言ってるやつだった。

 そいつがある日、もう我慢ならない。今日一晩でいいから泊めてほしいと言ってきた。話を聞けば、一週間ほど前から女の幽霊が部屋に出るんだとぬかす。家に帰り部屋の電気を付けると部屋の真ん中で、じっとつったってんだそうだ。全身ぐっしょりと濡れて、黒く長い髪からぽたぽたと滴る水が畳に染みている。しけったドブの匂いがあたりにみちて、うつむくその表情は伺えない。そんなモノ居るわけがない見間違いだと自分自身に言い聞かせること一週間ばかり辛抱したが、毎晩帰って電気を付けるたびにそこにいる女は消える様子がない。
 あまりにぎゃーぎゃーうるさいもんで、仕方がねえ見に行ってやるよと案内をさせてそいつの家に行った。

 ぼろい長屋の一室に、たしかに女がいた。
 切れかかった白熱灯がちかちかとまばらに部屋を照らす。じっとりと恨めしげに立つ、女の姿がそこにあった。ひっ、と背後で舎弟が息を呑む。
「ほらいるでしょう、そこに。女の霊が……
 なんのことはない。
 たしかにそこに女がいる。

 部屋のど真ん中に、湿った麻縄でぶら下がっている。遠目から見れば立っているようには見えるか。
「幽霊なんかじゃねえよ。死んでるってんなら当たりだな。ただの死体。当てつけだろ。ったく、ろくでもない女につかまったもんだなぁ」
 幽霊だと勘違いして一週間も死体と暮らしてたってんなら、肝が据わってんのか間抜けなのか。呆れながら部屋に入る俺の後ろで、がたがたと震える声で呟いていた。
「そんなわけないんですよ。ここで首をつってるわけはねえんですよ」
 ぎしりと縄が揺れる。女がじっと背後の舎弟を見つめている。
「自分はちゃんと川に沈めてきたんだ。動かなくなるまで」