まよこ
2024-10-10 18:02:32
7045文字
Public 神田
 

怪談

昭和初期の極道神田の語る怪談七話
登場人物: 神田。昭和初期の極道


四話


 賭博は好きか?俺はあんまりやらねえが、組が持ってる賭場を周ったりはする。そのうち一つが、どうにも回していけないくらいに逼迫していると聞いた。客のイカサマで収益がでねえらしい。どういう理屈かはわからねえが、札も賽も全部いいところで当てていくんだと。まるで手に目がついてるようだ。きっとイカサマをしているに違いない、なんて頭の周ってねえ報告をあげてくる。へぼい仕事してんじゃねえと回してるやつらに焼きを入れて、件の客を呼ばせた。そいつは盲の僧形をした親父だったが、坊主が遊んでるってか。どうせ格好だけだろう。イカサマなぞしていないと主張するそいつを適当になだめ、幾度か賭けさせた。賭場なんて親元が強いに決まってんだぜ? 身ぐるみ全部はいで、ついにかけるもの一つ無くなった男にその腕を賭けさせた。これで悪いことももうできねえだろ。
「腕は絶対に捨てずにおいてください。取り返しに来ますから」
 坊主は、歪んだ表情で恨みがましく言う。おいて置くったってな。どうしたもんかと思ったが、ずいぶん愉快なことを言うのだから、切り落とした片腕を塩のはいった壺につけさせた。これでしばらく持つだろ。その夜はその賭博場にある部屋に泊まり、腕入りの壺を床の間に置き酒を飲んで寝入った。

 がたり、と何かが倒れる音で目が覚めた。まだ日は明けておらず、あたりは夜の闇につつまれている。物音の出処は床の間だ。真っ暗な室内で、床を何かが転がる音がする。がりがりとひっかく物音、ごんごんと叩かれる音の後ガコンと何かが外れ落ち、つづいてざらりと大量の砂状のものが床にぶち巻かれる音がした。塩か、と見当をつけていれば畳を削り這う音が少しづつ近づいて、布団の下に潜り込む。
 足首に探るように触れられたその感触は、人の指だとしっかりとわかる。枕元の匕首を手に取り、布団を剥ぎ取った。うごめく何かに刃を突き立てる。行灯に火をつけ、翳す。はたしてそれは、うぞうぞと身悶えをするかのごとく指を動かす塩にまみれた腕だったわけだが。手の甲から引き抜いた刃の下で、つうと一筋赤く裂けた皮膚がぱくりと開かれ、傷が瞬く。
 その向こうから覗く、赤くつややかに光る瞳と目があった。
 やっぱりイカサマだったじゃねえか、と腕をつぼに投げ込んだ。

 結局親父はいつまで立っても取り返しには来ていない。腕は、どうなったかな。そこのつぼにはいってるはずだぜ。見てみろよ。
 干からびてるか、それともそこにまだ恨みがましく残ってるか、賭けねえか?