まよこ
2024-10-10 18:02:32
7045文字
Public 神田
 

怪談

昭和初期の極道神田の語る怪談七話
登場人物: 神田。昭和初期の極道


六話


 俺の田舎は、山ん中なんだよ。冬になるとあたり一面銀世界、ってやつだった。降り積もった雪はどこまでもべったりと白一色で、地面は奥行きを失われる。かろうじて空の灰色との差はわかるか。わからねえ日もある。見上げる空も灰色の平面だ。じっとみていりゃぼたぼたと落ちてくる雪が、降っているのか湧いてきてるのかもわからなくなってくる。
 知ってるか?雪ってのは音を食うんだ。だから冬の山は静かなんだよ。
 人の話し声、かすかな衣擦れ、なんだって食っちまう。冬の夜、一晩外にいてれば雪原を踏みしめる自身の足音も、心の臓の音すらだんだんと聞こえなってくる。両の手を耳に当てても、静寂が痛いくらいで何も聞こえなくなる。
そうして、周囲の音を全部食われて、耳が使い物にならなくなったやつもいた。どこにいようと何も聞こえなくなっちまうんだと。
 音を全部奪われたくなかったら、雪原に寝そべって、雪に耳を傾けろ。そうすりゃ、うるさいくらいに今で散々食われてきた声が聞こえてくるからよ。雪の降りしきる山で周りに誰もいないからって、余計なことは言わないことだな。
 きっとどっかの誰かに聞かれてるぜ。