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mishiadd
2024-10-06 15:49:29
25632文字
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インプリンティング・ラヴァーズ
生前の伊織くんが死ぬ程好きだったけど伊織くんの意思を尊重して最後まで友情を貫いたヤマトタケルが記憶のないカルデアの伊織くんに「私たちは恋人同士だったんだよ」って嘘ついて始まる一度はやらなきゃならんやつ。いつもの感じの(ろくでもない)剣伊。ハッピーエンドです。
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三、
なかば、
売り言葉に買い言葉
――
のような。
完全にその場の勢いだけで、
口走ってしまった
――
というには、あまりにもはっきりとした。
思えばそれは、ずっと昔から
願い
続けてきたことだったのかもしれなかった。
ある日突然、あの趣味の悪い造形をした、万能の願望機の
出来損ない
の再来とまではいかなくても。
ある日突然、あのシェヘラザードの物語るランプの魔人が目の前に現れて、タケルに三つの願いを訊いてこないとも限らなくて。
ある日突然、タケルの
――
それ以上は望めなかった
、ほんの少しだけ
はみ出してしまった
、ほんのささやかな願いが
――
。
ある日突然、叶わないとも限らない。
だから、あまりにもするりとなめらかに、まるで何百回と繰り返した演劇の台詞のように、すらすらとひとつのひっかかりもなくタケルの口からまろび出たのは。
もしかすると
――
ずっと昔から、いつ訊かれてもいいように、いつその
機会
チャンス
が訪れてもいいように、彼の中で大切に大切に準備し続けていた、とっておきの『呪文』
――
だったのかもしれなかった。
◆
「なんだ」と碌な感慨もなく平坦な口調で伊織が言った。
「隠し立てする必要などなかったのに。おまえの方もやりづらかっただろう」
「
――
あ、ああ。そうだな。うむ」
きょと、と目を逸らしつつもタケルが頷く。
「きみが
――
他人行儀なのは、どうにも。そう
――
とても寂しかったし、切なかった」
――
まあ、本心だ。ただ、
前提
となる
前段
が異なるだけで。
じっと、伊織がタケルを見る。まじまじと、正面に立つタケルの小さな顔を、下から覗き込むようにして見る。
純粋な
――
ただ相手の
真実
だけを映し出す鏡のような無垢な瞳に、居たたまれなさと罪悪感を覚えてタケルが顔を背ける。その横顔すらを「ふうん」と伊織が興味深げに眺める。
いっそ不躾な子供のような視線に、「急になんなのだ」とタケルが早口でぼそりと抗議した。
「
……
いや」とぽつりと伊織も呟くように返す。まじまじと
――
。
「
知らなかった
のでな。今一度、改めてよくよく見てみているのだ。これが、俺の恋人かと」
「っ
――
」
否定も肯定もできず、タケルが言葉に詰まる。「恋人」という、先程はあれ程までに簡単に口にできた単語が、伊織の口から発せられた途端に気恥ずかしさで気が狂いそうになる。
「こ、あの、えっと」としどろもどろになっているタケルの様子には頓着していないようで、「ふうむ」と伊織がひとりで何か納得したように頷いた。
「そうか、おまえが俺の恋人か。
――
では、今日からはそのようによろしく頼む。もう、遠慮はしてくれなくていい。おまえが以前していたように俺に接してくれ」
「
……
いっ?」
「正直、俺に恋人がいたということ自体に少し驚いている。いまだに実感も湧かないのだが、まあ今の俺自身意識がふわふわしているのだから、そんなものだろう。
――
おまえと俺は、どのように共に時を過ごしていた? 何を語らい、どのように
触れ合って
いた? いちから、俺に教えてほしい」
「ふっ、ふれ
――
え?」
本を傍らに置いた伊織が、姿勢を正してタケルを見上げている。まるで弟子が師匠に教えを乞うように
――
その瞳には、わずかの疑いもない。正真正銘、本心から、彼はタケルに尋ねている。
ヤマトタケルの恋人としての、宮本伊織のあるべき姿を。
――
ふと、タケルの脳裏に
あってはならない
ひらめきが、よぎる。
それはきっと、『善為す者』としてあるまじき発想だった。そして、生前の宮本伊織への裏切りですらあったかもしれない。
しかし、それでも
――
それはきっと、ほんの少しばかりの、
可愛らしい意趣返し
に過ぎない。
すべてを忘れ、
誰かさん
のせいでこんな
霊基
せいしん
に成り下がってしまったタケルに「おまえには関係ない」などとのたまい、あまつさえタケルのあり得ない嘘を
あっさり信じた
この残酷極まりない宮本伊織という男への、ほんの小さな、他愛のない意趣返し。
「
――
そうだな」
――
教えられた何もかもを、面白いようにいともたやすく信じ込む、この無垢で無防備で無頓着な、生まれたての『宮本伊織』の
雛
を。
「きみは
――
私と目が合うたびに、私を抱き寄せて膝に乗せるのが好きだったよ。きみは
甘えん坊
でな。人目のないところでは、常に私にくっついていた」
タケルが、その手でタケルの思い通りに育てあげてやることに、一体なんの不都合があるだろう?
――
かつてそうやって、タケルを『セイバー』に育て直したのが、生前の宮本伊織であったのならば。
その伊織を、今度はタケルがタケル好みに育て上げるのだ。
――
これでおあいこ、というやつだ。
タケルの言葉になんの疑問も持たなかったらしい伊織が、「そうか」とあっさり頷く。手を伸ばしてタケルの手首を掴み、そっと引き寄せる。
畳の縁に腰かける伊織のすぐ傍らに立ったタケルの体を抱き留めて、向かい合うかたちで自分の膝の上に座らせる。
伊織の両肩に手をついて見下ろしてくるタケルを、伊織が見上げた。タケルの承認を求めて、月夜の瞳が揺れる。
「こう
……
か
――
?」
「うん。
――
イオリ」
伊織に覆いかぶさるようにして、タケルが伊織の体を抱きしめる。白妙の大きな袖の布が伊織の上半身を覆い、まるで大海原の波に呑まれるようだった。きゅ、と伊織の筋張った両腕がタケルの背中に回される。びくり、と一瞬だけタケルの体が大きく震えたが、伊織は気付かない。
伊織の肩に顎を乗せたタケルが、口の端を自嘲気味に持ち上げながら言った。
「
……
――
そう、そうだよイオリ。
……
思い出してきた
ようだな
……
」
「かも
――
しれないな。
……
セイバー
……
」
ふ、と伊織が小さく息を吐いて、殊更にタケルの体を抱き寄せた。タケルが息を呑む。タケルの耳元に唇を寄せて、囁くように伊織が言った。
「
――
もっと俺に、教えてくれ。セイバー」
その掠れたような妖艶な声に、タケルの脊髄が、我知らずに粟立つ。
――
墓穴を掘ったのは自分の方だったのではないかと、今更になってタケルは気付くのだ。
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