井見
2020-02-12 04:19:14
32311文字
Public ロックマンX・ゼロ二次
 

【再録】さよならの星

ロクゼロの本にした小話集です
ゼロとエックスが話したり話さなかったりする小話集です。 ゼロがいないときはハルピュイアやファントム、あとなぜかダイナモがエックスとお話しします。


静かに

 戦いが終わってから、ずっと地面に横たわって空を見上げている。いや、この場合どこを空と言うべきなのだろう。見上げた先が空でいいか。もしこの目がきちんと機能していれば、さぞ星が見えたに違いない。今となっては、一面の闇しか見えなかった。
 コアの壊れたラグナロクには、大きな亀裂が入り始めていた。重力装置の影響から外れた細かな破片がみるみると遠のいていく。小さなコロニーほどありそうな大きさの衛星が、その形を失っていく。あの戦いからどれだけ経ったのかはわからないが、思っていたよりも、最後はずっと静かだった。

 あの夜のようだ。この静けさも、この冷たさも。

 思い出したよ、エックス。覚えるから、とオレは言ったな。お前の歌ってもらった歌。少しだけだが覚えていられた。いや、他は忘れてしまったのだ。いい顔はできそうにない。
 初めてあの歌を聞いた時、お前みたいだと思ったんだ。だからお前が作った歌なのかと。理由はわからなかった。だからなぜそう思ったのかを考えたくて、もう一度お前に歌ってもらった。それでもわからなかった。なぜだろうな。
 お前の言っていた通り、たったそれだけの、確かに大したことのない思い出だったけれど、きっと大事な思い出だったんだ。あれだけ静かで、あれだけ何もない夜は、きっとあの夜で最後だった。
 もう一度お前に会えたら、この話をしてやれたのに。そうしたら、お前はどんな顔をしたかな?

 また、オレは間に合わなかったな。

 少し遠くに放られたままだったセイバーに、ようやく手を伸ばして触れる。軽くそれを振ると、青みがかった光の軌跡が生まれては消えていく。セイバーの刃の輝きはまだこの瞳にも映るようだ。今はただ、その光が眩しいと思った。
 思えばこのセイバーとは長い付き合いだった。オレが眠っている間も、これはお前と共にいたのだろうか。
 ひたすらこのセイバーを振るってきた。どれだけの敵を斬ったのかは、もうわからない。しかし、このセイバーもついに役目を終えるのだ。

 ふう、とため息のような動作をする。こうすれば、再び瞳が使い物になるとでも信じているかのように、瞬きを何度か繰り返す。だが星はやっぱり見えなくて、もう意味は無いか、と瞼を閉じた。

 なあ、エックス。オレは星になるかな?

 レプリロイドは歌を歌えない。できるのは、記録した音声を再生するだけ。そのことに今まで何も感じなかったのが、不思議だと思った。エックスの悲しそうな顔の意味を、今になって理解した。
 かちりと、脳内でその記録を選択する。
 思い出すのは冷たい空気と、わずかな雑音。輝く星の光と、人々の生み出す眩しい明かり。
 そしてあのオルゴールの小さな音が、旋律が。遠くから聞こえてくるように思えた。
 鈍い身体に命じて、どうにか口を開く。もう薄い空気を吸えるほどの力も無い。言葉のかたちを真似ることしかできない。
 頭の中のお前の記録を、なぞっているだけだ。それはわかっている。歌うどころか、声すらも出ない。
 それでも、聴こえる。記録の、記憶の中の、お前の歌が聴こえる。
 こうしていると、お前と一緒に歌っているみたいじゃないか?
 
 それくらいの夢を見たって、いいだろう。




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