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井見
2020-02-12 04:19:14
32311文字
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ロックマンX・ゼロ二次
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【再録】さよならの星
ロクゼロの本にした小話集です
ゼロとエックスが話したり話さなかったりする小話集です。 ゼロがいないときはハルピュイアやファントム、あとなぜかダイナモがエックスとお話しします。
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きみが消えた日
きっとあれが最後のチャンスだった。コロニーを落としたのは、お前なのだろう。そう問うことができたのは、きっとあれが最後だった。あのタイミングでの襲撃、シグマとの関連の示唆。二つが関係していることは、少し立ち止まって考えてみれば容易に出せる結論だ。
もし本当に尋ねていたら、お前は何と答えていたのだろう? 「証拠がないよ」とでも言ってはぐらかすのか。いや、彼のことだから案外「そうだよ」なんて軽く認めていただろうか。
認められてしまったら────それでも、もう誰の命も奪いたくはなかった。
今を生きる人々にとっては、ずっと昔の事だ。犯人探しをしても意味はないし、あの事故は、事件はシグマが原因だ。彼がやらなかったとしても、別の誰かがやっただろう。
だからきっと、これでよかったのだ。
こうして同じ問いに同じ答えを出す行為を、何年も続けている。
「お前は今、何をしているのかな」
窓の外を見やれば、あたたかな光を浴びながら街を歩く人間やレプリロイドたちが見える。ここまで笑い声が聞こえてくるような、優しい昼下がりだ。あの頃とは、似ても似つかない。
そのふんわりとした心地を、緑色の声が遮った。
「お呼びですか? エックス様」
聞こえてしまっていたのか。同室で書類の整理をしてくれていたハルピュイアが怪訝な顔をして、外を見つめる自分の姿を窓の反射越しに見つめている。
「いや、知らない方がいいことも、たくさんあるよなぁと思ってね」
振り返って、だろう? と微笑めば、ハルピュイアは少し難しい顔をして、それから「そうですね」と微笑みを返した。いつからか、周りの者たちは「エックス様」にずっと優しいのだった。
思えば、お前に呼ばれたのが最後になってしまったよ。
エックスと。もう誰も呼んではくれない。
***
「やあ『エックス様』、ご機嫌いかがかな?」
最初に計測されたイレギュラー反応はすでに全て処理し尽くしていた。増援の申請はしていない。つまり新手のイレギュラーが現れた、ということだ。エックスはそう理解するや否や、バスターを充填させつつ振り返った。そこには、ひどく懐かしい顔があった。
「お前は
……
!」
ふらりと現れては邪魔をして去っていく、目的のついぞわからなかった相手。彼とは何度か手を合わせたが、最後まで決着が着くことはなかった。しかしさすがというべきか、あの戦争すら生き延びるとは。
「久しぶりだな
……
ダイナモ」
「おや、こんなおれのことも覚えててくれたの? 嬉しいね」
「一度戦った相手のことは、忘れないさ」
「ふうん?」
名を呼ばれたダイナモはどこか満足気な様子で、「にこにこ」とも「にやにや」ともつかない笑顔を浮かべていた。こういう何を考えているのかわからないところが少し、いやかなり苦手だったと思い出して、エックスの口角はダイナモと同じように上がる。他の誰とも違うこの独特な雰囲気は忘れるはずもなく、長い年月がこの彼を少しも変えていないことにどこか安心すら覚えた。
「こんな所まで何をしに来たんだ。また『シゴト』か?」
「いや? プライベートさ。
ボウヤが随分すごいことになってるっていうから、冷やかしに、ね」
「すごいこと
……
か。やっていることは、大して変わらないけれどな」
エックスは、バスターに充填させていたエネルギーを近くの荒野に放ってから、それを手に換装し直した。握って、開いて、握って。これがまだ手の役割をこなせることを確かめる。その一部始終を、ダイナモは何をするでもなく見守ってから、再び口を開いた。
「
……
みたいだね。ここに来るまで、いろんな奴らがきみをエックス様〜なんて呼んでるから、ちょっと期待してたんだけど」
「みんな心細いだけさ」
こいつと最後に戦った時から、やっていることは変わっていない。イレギュラーと戦って、戦って、戦う。そればかりだ。倒すべき敵を倒し、隣にいた彼は眠り、一つの時代が終わった。それなのに、自分だけが取り残されたように戦い続けている。
コロニーの落ちたあの日。たくさんのことがあったが、ダイナモの告げたある一つの言葉がずっと忘れられないでいた。
「もしかしたら、お前の言う通りなのかもしれないな」
そう呟くと、ダイナモは笑顔のまま少しだけ目を細めて、エックスを射抜くような視線で見つめた。あの日に戻ったような気がした。。
「だから言ったろ? もう少し肩の力抜いたほうがいいって。どれだけきみが世界のために働いたって、世界はきみのためには何もしてくれないんだから」
「
……
お前らしいな、そういう考え方は」
「所詮、雇われ兵ですからね」
「雇われ、か」
吹き抜ける風が、砂を舞い上がらせる。腕についた砂を軽く払うと、じゃり、と音がした。ダイナモの月色の髪が、ひんやりときらめいていた。
「なあ、」
エックスは、深く考えるより先に、口を開いた。
「ん?」
「今、生き残った者たちで小さな都市を作っているんだ。みんなで、理想郷を作ろうと集まっている。人手はいつだって足りない。だから
……
」
「来ないかって話?」
「
……
ああ。どうだ?」
ダイナモは仰々しく腕を組んで、真面目に考えるような素振りを見せた。
「
……
パスかな。ボウヤしかいないなんて、なんだか窮屈そうだ」
「よく言うよ。考えなくとも、答えは決まっていただろう」
そうエックスが言い返せば、彼は場を茶化すように片目をつむった。振る舞いのわざとらしさに、やけに懐かしさを感じる。
「きみだって、それをわかってて聞いてきたんじゃないか」
全くだ。こういう時、やはりこいつは聡いな、と思う。
「それもそうだな」
どうしてこんなことを聞いたのだろう? エックス自身よくわからなかった。それがなんだかおかしくなって、思わずふふっと声が口から溢れた。その声を耳にしたダイナモは顔に浮かべていた意地の悪い笑みをさらに大きくして、それから俄かに、はははと笑い始めた。
理由もわからないないまま、彼らはひとしきりそうしてから、どちらからともなくふうと息をついた。そしてエックスはようやく、そういえば自分は任務の途中なのだということを思い出した。無視していた通信をそろそろ繋がないと、異常事態が起こっていると管制部に思われてしまうだろう。小さな再会はここまでのようだった。少しだけ残念にも思えた。
「悪いが、そろそろ戻らないといけない。お前はこれからどうするんだ?」
「まあ今まで通り、適当に生きるかな。『エックス様』のおかげで、とりあえずは平和になったみたいだしね」
「からかうのはやめてくれよ。一人でやったことじゃないんだ。
……
まあいいか。
いつか、見に来てくれないか。みんなで作る理想郷をさ。そして今日みたいに話をしよう。お前の言葉を聞かせてくれ」
「気が向いたら、な」
ダイナモは、ふっと軽く笑った。エックスは同じように、笑みを返した。
「それじゃあ。
……
死ぬなよ」
「ああ。ボウヤもね」
片手をゆるゆる振りながら、「じゃあな、エックス!」と小気味良い言葉を残して、ダイナモは何処へと歩いていく。本当にただ、冷やかしをしに来ただけだったのか。彼の考えは、エックスにはやはり最後まで読めないままだった。
***
どうしようもない世界だ。本当に。
青き英雄と紅き英雄。その二人がついに戦争を終わらせたのだと、人々は歓喜した。
歓喜したはずだったのに、時間が流れるにつれ赤き英雄への声はひそまり、段々と青き英雄への声だけが強くなっていく。荒れ果てた大地に築かれ始めた小さな街を訪れれば、「エックス様」と呼ぶ声が聞こえる。この身体の少し昔の型の関節を見た人間は「旧レプリロイドの生き残りが現れた」と恐れ、人間に見紛うような姿をした非武装のレプリロイドたちは「イレギュラーが現れた」と恐れた。それは大して構わなかったが、恐れた彼らは決まって「エックス様」へ助けを求めるのだった。
誰も疑問に思わないのか、疑問に思ってはいけないのか。いつから世界は「エックス様」だけになってしまったのだろう。
ならば、と思ったのはきっと気まぐれだった。何もかもが終わってしまった世界はひどく退屈だったし、久しぶりに芽生えた好奇心に蓋をするのも勿体ない。
まだ街の壁の外にはイレギュラー達が戦うべき敵もいないのに彷徨っていて、見かけた者を手当たり次第襲ったりしていた。エルフに狂わされた類のものだろう、いわば彼らは戦争の名残だった。同士討ちを重ねているせいかおかげかいずれ自滅するしかない彼らだったが、エックスは発見の知らせが入るたびにわざわざ赴いては鎮圧してやっていた。つまりイレギュラーが暴れている場所で待っていれば、いずれエックスは現れる。街の「エックス様」に会いに行くのは難しいが、エックスに会いに行くのは簡単だった。
見晴らしのいい荒野を選んだ。エックスが一人で来るように、少し手強そうなイレギュラーたちを誘導して一箇所に集めれば、勝手に暴れ始めた。後は誰かに見せつけて、知らせを送ってもらえば良い。と思ったが、運のいいことにちょうど壊れかけの無線が落ちていたので、これで連絡をしてしまえば事が済む。外の見回りのふりをして街に連絡を入れた。しかし簡単すぎた。もうやることがない。自滅しきらないようにイレギュラーたちを調整するのにも飽き、この高台で転寝でもしながら待とうかと思った矢先、ついにエックスは現れた。期待通りに事が運ぶのは気持ちいいものだ。
高台から飛び降りて、エックスの背後に近づく。
「やあ『エックス様』、ご機嫌いかがかな?」
そう声をかけた。もちろん皮肉だ。エックスは瞳を大きく開いて、驚いたような表情をした。その表情の中に深い疲れのようなものが見えたこと以外は、あの時とさほど変わらない。
それからずるずると、他愛のない話を続ける。エックスはエックスに違いなかったが、どこか軋みが見える。
紅き英雄様は────ゼロは、どうした?
結局その問いを最後まで聞くことができなかったのは、彼の瞳に陰りが見えたからなのか。
しかし尋ねずとも、昔の悪夢のように輝き続けるセイバーが、何よりの答えのように思えた。バスターを手に戻す間も、それはけして離すまいとでも言うように、彼のもう一つの手にきつく握られていた。
その意味を、おれは知っていた。
「エックス
……
」
そんな風に話をしたのは、いつのことだったか。
こうなると知っていたのなら、もう少し早く来ていたかもしれない。
青い身体を抱えているカプセルに、手を触れようとする。しかし幾重にもかけられた強固なプロテクトがそれを許さなかった。ばちりと弾かれてしまった手を持て余し、何もできないままで、世界を支えるように植わる樹をただ見上げる。
「
……
死ぬまで戦わないと、気が済まないんじゃなかったのかい」
いや、死んでは、いないのか。この姿でも。
カプセルの中の身体の辛うじて残っている口から、ごぼりと泡が漏れた。そうだよ、とでも答えているようだった。
エックスではないエックスが世界を守るようになってから、ほんの数日。少し命がけの調べものではあったが、まさかこれが真実だとは思わなかった。これがきみの結末だとは。
エックスと最後に交わした言葉を思い出す。
おれの言葉が、聞きたいんだったっけ。
「誰のための、理想郷なんだろうね」
しかし、答える声は無い。
樹を維持しようとする機械の音だけが、鈍く響いていた。
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