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mishiadd
2024-08-16 09:31:42
21856文字
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宮本伊織の「薔薇」トリロジー:アンダー・ザ・ローズ
霊基異常で「砕かれる」直前の宮本伊織の状態に戻ってしまった星4セイバー宮本伊織を星5セイバーヤマトタケルがカルデア内で「神隠し」する話。剣伊気味の加速するぐっちゃぐちゃのクソデカ感情が出てきます。【!】アレルギー表記:軟禁
概念的表面「カルデア剣陣営は恋愛ができない」:
https://privatter.me/page/66aa36059dcca
後日譚:
https://privatter.me/page/66d2bde3c475d
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七、
我ながら悪趣味なことだと嗤った。
管制室から朱墨と筆を借り受けて、イオリの長屋を訪ねた。引き戸が開く音を聞いてのそりと気だるそうに上半身を起こしたイオリが、ゆっくりと首を傾げて私を見る。どうやら、それ以上早く動くと頭痛がするようだった。
それでも、私の姿を認めると、ひどく緩慢な動きではあったが布団から身を起こし、背筋を伸ばしてその場に腰を下ろす。前回の訪問時に私に結わえられた髪のまま、私に着付けられた襦袢のまま。
「イオリ。
――
左手を、貸して」
言われたままにイオリがゆっくりと左手を差し出してくる。なるべく声を発さないのは、嗄れて掠れた己の声を恥じたからかもしれなかった。
日に日に血の気の引いて蒼白さを増している左手をとり、その
痣ひとつない
手の甲を見下ろす。
――
そこに、朱墨を含ませた筆先を走らせる。
――
我ながら、しっかりと覚えている。出逢ってすぐに一画を失った、彼の令呪。彼が私を縛る令呪。私を、彼と繋いでいた令呪。
――
その、よすが。
三画すべてを描いて手を離す。
私から左手を取り戻したイオリがまじまじと、物珍しげに手の甲を見つめた。それから、私の顔を見て兄のような優しい顔で微笑む。恐らくは、「よく描けている」という意味だった。
長屋で、イオリが微笑んでいる。その左手に令呪を刻んだイオリが、私を見て、兄のように、友のように笑っている。
唐突に胸に去来した切なさと懐かしさに、不意に視界が滲む。きっとそれは、望郷にも似た感情だった。ぽつりと、思わず零した。
「
――
あの頃は、よかった」
あの、愛おしく、あたたかく、輝かしいばかりだった優しい日々。カヤがいて、ムサシがいて、テイも、アーチャーもいて、皆がいて
――
隣には、イオリがいる。
イオリが、隣にいる。
ただ、それだけでよかった。
それだけでよかったのだ。
「どうして、こうなってしまったんだろうな
……
」
――
どうして、こうなってしまったのだろう。どうして、こんなにも私の彼への想いは歪み切ってしまったのだろう。
私は、ただ彼が好きだった。それだけだった。彼の控えめな笑みが好きだった。彼の優しさが好きだった。正しさを、人の道を説いて、そしてそれがまるで呼吸の如く当然のことであるかのように、一切の損得勘定なしにその道を迷いなく歩む彼の後ろ姿が好きだった。
その隣に並びたいと思った。並んでみたら、彼が苦しんでいることに気がついた。己が根底に根差した
決して抱いてはいけない
『憧れ』を、必死に押し殺して
なかったこと
にしようとして、見て見ぬふりを続けようとして
――
己を何度も何度も絞め殺しながら、今にも溺死しそうになりながら、喘ぐように浅くあえかな呼吸を続けながら、その白昼夢のような日々の中で、なんとか『生きること』を続けている。まるでそれが彼に課せられた責務であるかのように。
毎日、毎晩、彼のことばかりを考えていた。
――
もはやそれは、好きとか、嫌いとか、そういう感情ですらなかったのかもしれないけれど。
でも、私は確かに彼が好きだった。
――
愛していた。
あれは、確かに『愛』だった。
イオリが、私の顔をじっと見つめている。言葉を発することなく、ひどく哀しんでいるような顔で。
布団の上にイオリが左手を置いてゆっくりと身を乗り出す。その、令呪の描かれた手の甲。
――
私が刻んだ、
彼が私のものである
という印。
乗り出したイオリの上半身が傾ぐ。そのまま、もはや優雅ですらあるゆるやかな動きで、イオリが私の顔に右手を伸ばしてきた。その拍子に、イオリの肩から弛んだ襦袢が滑り落ちる。
白い首筋に、くっきりと浮き出た鎖骨。骨ばった肩。暗がりにぼんやりと白く光るような肌に、私の噛み痕が生々しく赤く散らばっている。
ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。
――
こんなときでさえ、私はイオリを欲することをやめられないのだ。
◆
私が自我を取り戻したとき、イオリは布団の上で襦袢にくるまって蹲っていた。
結わえていた髪はいつしか解かれて汗でぐっしょりと濡れており、紺色の襦袢の裾から覗く足首には私が手酷く掴んだのだろう痣が残っていた。
私の指の痕が残る白い腕に顔を埋めて、ふ、ふ、とイオリが早く、浅く、呼吸を整えようとしている音が聞こえる。イオリが身を縮こませた拍子に、ぴちゃり、と何か湿った粘着質な水音が聞こえた。
かける言葉もなく、私はただ茫然とその場に座り込む。
――
そこに、伸ばされた手があることに気付く。
顔をあげる。端正な顔をしとどに濡らしたイオリが、焦点のおぼつかない月夜の色の瞳で、それでも必死に私を見ようとしている。必死に私に手を伸ばしている。
イオリが、私の頬に触れる。親指で私の目の下を拭う。ひどく掠れた
――
ひどく優しい声で言った。
「ごめんな」
――
ああ、
謝ってほしくないことで謝られる
のは、このような心持ちだったのかと。
そんなことを、脳裏の片隅で思った。
イオリの体を清め、襦袢を着せ、着物を着せ、袴を着せてやった。
それから私はその足で真っ直ぐに管制室へ向かい、
己の罪のすべてを、自白した。
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