mishiadd
2024-08-16 09:31:42
21856文字
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宮本伊織の「薔薇」トリロジー:アンダー・ザ・ローズ

霊基異常で「砕かれる」直前の宮本伊織の状態に戻ってしまった星4セイバー宮本伊織を星5セイバーヤマトタケルがカルデア内で「神隠し」する話。剣伊気味の加速するぐっちゃぐちゃのクソデカ感情が出てきます。【!】アレルギー表記:軟禁
概念的表面「カルデア剣陣営は恋愛ができない」:https://privatter.me/page/66aa36059dcca
後日譚:https://privatter.me/page/66d2bde3c475d


六、



私が手ずから括ったイオリの髪をほどき、私が「その姿でいろ」と強要した襦袢を暴く。敷きっぱなしの布団の上に押し倒し、ふわふわとうねってさざ波のように広がった栗毛のさなか、ぼんやりと蒼白く光るなめらかな首筋に噛みついた。
赤い鬱血のような噛み痕がくっきりと刻まれ、イオリが小さく痛みの声をあげるのを聞いた。イオリの両の手首を押さえつけて身を起こし、組み敷いたイオリの姿を見下ろす。
イオリが――私から顔を逸らし、障子の方を見ている。拒絶されているのだと思い、その端正な横顔にまた腹の底からどす黒い衝動が湧き出るのを感じたが、やがてそうではないのだと思い至る。

私が咬みついた箇所を、私から隠すことなく、無防備にさらけ出して――私に差し出している。



これから起こることを恐れながらも、殊勝に、従順に。直視はできなくとも、その身を供物として私に捧げることに二言はないのだと。



……セイバー」

凛とした、涼やかな――まるでこの状況に似つかわしくない、兄のような声だった。

「おまえが俺を壊したいのなら、いいよ。俺を咬み殺して、バラバラにして川に捨てたいのならば、それでもいい。――もはやこの身で、それが叶うかはわからないけれども」
「イオリ」
「すべて、おまえの望むままに。――おまえの気の済むように、おまえの気の済むまで」



――そこから先の記憶がない。



私が自我を取り戻したときには、イオリは私の下でバラバラに壊れていた

私のものともイオリのものとも知れないさまざまな体液でしとどに濡れ、ふわふわと柔らかだった癖毛の栗毛も濡れそぼって布団の上に散っていた。
紺色の襦袢が白い裸体にまとわりつきながらも、布の狭間から露出した肩や脚に散らばる鬱血のような噛み痕と鮮血のような爪痕。
ぐっしょりと濡れた前髪のかかる端正な横顔は、先程と変わらず障子を見ている。――ゆっくりと、大きく胸部を上下させて喘ぐように呼吸を求めながら――何も映していない月夜の色をした空っぽの瞳が、ただ、障子のある方に向けられている

まるで、理性を失った獣に貪られ、喰い散らかされて殺された獲物のように。



はあはあと、肩で息をする。自分の両の手を見下ろす。――本能の望むままにイオリを貪り喰い殺した、彼の血に塗れたその両手を、幻視する。

恐慌をきたして叫び出しそうになる口許を両手で押さえながら、それでも抑え切れない自分の叫び声を、どこか他人事のように己の耳に聞く。叫び声がやがて咽び泣きに変わり、視界が歪んで真っ赤に染まるのを、どこか遠い世界の出来事のように見ていた。







私が長屋にいない間、イオリはずっと布団に臥せて眠っている。

私が彼を訪ねるたびに彼はひどく体力を消耗するからだ。私がいないときに他のことをする体力的な余裕などなく、また私が再び訪ねてくるまでの間にでき得る限り体力を回復しようと図る。そうでなければ彼はこのまま衰弱する一方なのだと、彼自身が理解している。

私は、彼の生活のすべてだ。私が彼を訪ねることで彼は初めてまどろみから目覚め、長い時間をかけて私の手から食事を摂る。食事を終え、私のねだるままにその癖毛の柔らかな髪に触れさせ、手櫛で梳かせ――そして私が彼の襦袢の合わせ目に手を伸ばすのを、否定も肯定もせず、ただ黙って許している。



イオリの、ひんやりと冷たい幽鬼のような蒼白い肌に触れる。優しく、傷つけないようにそっと指の先でなぞり、その輪郭を確かめる。イオリという『存在』のかたちを確かめる。
イオリの頬に触れ、顎に触れる。あの懐かしい瞳が見たくて、端正な顔を覗き込む。――イオリが、瞼を閉じる。その濃い睫毛の先が、かすかに震えている。――これから私に与えられる『罰』を、恐れながらも甘んじて受け入れるために。



――そしてまた、なにもわからなくなる。



その繰り返しだった。
今日こそは、今度こそはと思いながら、イオリへと伸ばす手を止められない。彼のふとした仕草に、ふとした眼差しに、なにもかもが砕け散って、なにもかもがわからなくなる。
私が意識を取り戻す頃には、イオリが私の下でこなごなに砕け散っている。ぐちゃぐちゃになって、ただ必死にあえかな呼吸を繰り返している。
それはまさしく彼にとっては『罰』だった。他でもないこの私から与えられる、自らに課されるべき正当な罰だった。だから、彼に文句などあろう筈もない。恨み言などあろう筈もない。

――彼の中では、この私が彼に向けている欲望のすべては、彼にとっては至極当然でもっともな、私が彼に抱いているべき『怒り』そのものなのだから。



違うのだと、言うべきなのだろう。
けれど、一体私に何が言えるだろう。――この、歪み、増殖し、反転し、もはや私自身制御もできぬほど猛り荒ぶり狂おしく彼を求め続けるこのおぞましい欲望が、今更彼を傷つけるためのものではないのだと
彼にとって、そこに違いなどあるのだろうか。この私の激情が、たとえ元は『愛』と呼べるものであったのだとしても。――今、私が彼に向けているこの欲望は、彼にとっては『怒り』と何が違うだろう。彼を閉じ込め、彼を苛み、彼に罰を与え続ける、煉獄の如き『怒り』と。



――堕落し、腐敗し、変質しきってしまったこの醜悪な『愛』を。



彼に弁解できるほどの勇気を、私は持ち合わせてはいなかった。