mishiadd
2024-08-16 09:31:42
21856文字
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宮本伊織の「薔薇」トリロジー:アンダー・ザ・ローズ

霊基異常で「砕かれる」直前の宮本伊織の状態に戻ってしまった星4セイバー宮本伊織を星5セイバーヤマトタケルがカルデア内で「神隠し」する話。剣伊気味の加速するぐっちゃぐちゃのクソデカ感情が出てきます。【!】アレルギー表記:軟禁
概念的表面「カルデア剣陣営は恋愛ができない」:https://privatter.me/page/66aa36059dcca
後日譚:https://privatter.me/page/66d2bde3c475d


二、



イオリは、私を疑わない



「イオリ、またカヤがおむすびを持ってきてくれたぞ」

からからと引き戸を開け、イオリが外の景色を目にする前にさっさと後ろ手に閉めてしまう。なにかの写本を読んでいたらしいイオリが本から顔をあげ、「そうか、悪いな」と本を閉じる。
畳の縁に腰を下ろしたイオリに握り飯を手渡してやる。特に何を疑う様子もなく素直に口に運ぶイオリに、大袈裟に溜息をつきながら言ってやる。

「用事があるからとすぐに戻っていった。きみの体調を心配していたぞ」
「そうか。――俺としては、特に不調は感じていないのだが」
「冗談だろう? ひどい顔色だぞ。そうやって自覚もなく無理を押そうとするのはきみの悪癖だ」

言いくるめて黙らせる。それから、じっと隣に座るイオリの顔を見る。――血色のよいとは決して言えない、どこか不健康に蒼白く幽鬼のような白い肌。いつものイオリだ。どこにも不調の影などない。
その頬に、そっと手の甲で触れた。その触れ方に、「ん?」とやや不思議そうな顔をしたイオリはしかし、特に嫌がるでもなくされるがままにしている。さらりと乾いた、体温の低い肌。
手の甲で触れていたのを、手のひらで触れる。親指で目の下を撫でると、急所を掠められたのが気になるのかまるで猫のようにぎゅっと目を瞑った。――それでも、拒否はされない。

――あの、重い前髪の奥で、永遠に続く悪い夢を見ているような瞳で、じっとこちらを窺いながら鋭く観察し続けていた警戒心の化生のようなあの男が。



これが私の報酬なのだと、知る。



――イオリ、きみは熱がある。頬が燃えるように熱い。……やはり全然自覚できていないではないか。まだ寝ていなければだめだ」

イオリは、私を疑わない。警戒しない。

あの夜、イオリは私を読み違えた。それが、彼が私の彼への想いを読み違えたからなのか、彼が私の中に私以上の何かを――彼が見たいと願った何かを見てしまったからなのか、それはわからない。
いずれにしろ、彼には私が読めない。あの夜に読み違えた今となっては、彼にはもはや私を読む気がない。彼は、私を読む必要がないと思い込んでいる






この、得難い男から得た全幅の信頼こそが、あの夜を越えてこの私が勝ち取った報酬なのだ。






イオリが自分の額に手の甲を当てる。うん、と訝しげにしていたが、やがて私の顔を見て兄のような顔ですまなそうに言った。

「悪いな。いつまでも倒れていては、儀にも支障が出るというのに。今頃残った陣営は一体どうしている――
「幸いまだ目立った動きはない。だから、今のうちにしっかり休んで体力を回復するのだ。儀のことは一旦忘れてしまえ
……うん? そういうわけにはいかないだろう。妙なことを――
忘れるのだ――静養が暇なら、私がなにか持ってきてやろうか? 若旦那に頼めばすぐに手に入るだろう、読本か何かでも」
……いいや」

ふ、と苦笑しながらイオリがゆるゆると首を横に振る。「大人しく寝ているよ。聞かん坊の子供でもあるまいしな」、と珍しくおどけたように言った。

――イオリ」
「うん?」

名を呼べば、答える。――ああこれは、確かにあの日々の続きなのだと、思う。

あの、あたたかく、愛おしく、眩い、胸の締め付けられるような、幸せな日々。――幸せだった日々。

――今、胸に湧き上がるこの昏く燃えるような欲望が入り込む余地などどこにもなかった、あの美しい日々。

「イオリ。それ、少し分けてくれないか? 腹が減っているんだ」

顎でしゃくって握り飯を指す。「これか?」となにも疑問を持たずに、三つあるうちのひとつをこちらに差し出してくる。それを、イオリの手から直接齧り取る。ひとくち、ふたくち齧り取り、あっという間に半分がなくなる。「こら、自分でちゃんと持って食え」とイオリが苦笑する。そのまま齧り続け――イオリの指を口に含む。

口の中でイオリの長い指を舐め、指の又を舌先でねぶる。最後に丹念に手入れされた爪を舌先で舐めあげて、ようやくイオリの手を解放してやる。舌で己の唇を舐めとりながら、「コメがついていたのでな」とこともなげに言ってやった。

私の唾液でてらてらと濡れた指を不可解そうに見ていたイオリが、やがて呆れたような顔で私に言った。

「行儀が悪いぞ、セイバー」
――腹が減って仕方がないんだ、イオリ」

イオリの手首を掴む。濡れそぼった指のその下の、腕の内側に、つつ、と舌先を這わせる。日に焼けていない、柔らかな白い皮膚に軽く前歯を立てる。ぴくり、とわずかにイオリが身動ぎしたのを感じる。見遣ると、未知の感覚に驚きはしたがただそれだけの様子で、イオリが不思議そうに私を見ていた。――その、無防備な表情。

「セイバー?」
――また、すぐ戻るよ」

手を離し、土間に立つ。何事もなかったかのような涼やかな顔を装って、イオリを振り返る。

「よく休んでいるのだぞ。稽古をしようなどとは、くれぐれも考えないようにな。まだ外には怪異が湧いているのだ」
「ああ、わかったよ。これ以上おまえに迷惑もかけられないからな」
「本当にその通りだぞ。――ではな、イオリ」

からからと引き戸を閉める。――ああ、






腹が減って、仕方がない。