mishiadd
2024-08-07 22:45:42
25650文字
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宮本伊織の「薔薇」トリロジー:薔薇の名前

現パロ。令和六年の盈月の儀。子供の頃に誘拐されて「女の子」として「躾け」られていた時期のある宮本伊織くん(14)に召喚されたセイバー。【!】アレルギー表記:モブ伊(未遂)、伊織くんの女装、セイバーの女装、剣陣営のキスシーン、伊織くんの精通シーン
※『宮本伊織の「薔薇」トリロジー』は完全な言い掛かりで伊織くんの幼少期トラウマを捏造するシリーズです


六、



部活動も終わり、校舎の中に殆ど人影は残っていない。夕陽が射し込み橙色に染まる廊下を、体育教師の山口が点検がてら見廻っている。
教室をひとつひとつ覗き込み、たまに生徒を見掛ければ「帰れー」と声を掛ける。――やがて、廊下のつきあたりに辿り着く。2年3組の教室だった。

帰宅途中の生徒の笑い声が校庭からまばらに響いてくる。教室を覗き込み――女生徒がひとり立っているのを見つける。
逆光の中、紫がかった陰の中にたゆたうようにしてぽつんと立っている。「お」と思わず声をあげると、女生徒が振り向いた。柔らかなウェーブを描く豊かな栗毛を肩に垂らした、見覚えのない少女だった。

「お前――ここにいるのなら2年か? ……何組だ?」

女生徒は答えない。ただ、じっと山口の顔を見つめている。
その、どこか遠くの夢を見るようにうっとりとした、月夜の色の瞳に――山口はどこかで見覚えがあるような気がしたが――しかしすぐに意識が霧散してしまう。目鼻立ちの整った、端正な顔だと思った。『美人』と言えるだろう。
こんな上玉が果たしてこの学校にいただろうか、と山口は思う。

着ている制服はこの学校のセーラー服だ。女子にしてはやや高めのすらりとした長身に、さらりとした白と紺の生地が映える。半袖やスカートから生える四肢は細く伸びやかで、白い肌が黄昏の中でもぼんやりと輝くようだった。

山口の目を見つめたまま、少女がゆっくりと瞬きをする。静寂の中、上下する彼女の濃い睫毛がぱさりと音を立てるようだった。瞼の向こうに再び覗いた瞳は透き通るようで、この世のいかなる穢れも知らぬように見える。あまり血色のよいとは言えない薄い唇が、彼女を冷たく見せていた。

……先生」

少女が、初めて口を開いた。密やかな、少しだけ掠れたような、甘やかな声だった。

「見つかって、しまいましたね」
「ああ……?」

くすり、と彼女が頬を綻ばせて笑う。ゆっくりと顔を背けながら山口に流し目をくれ、その表情にまた、目を奪われる。
女生徒が鞄の中を探り、何かを取り出した。小さな口紅のようだった。

これ、校則違反でしょう? ……だから、隠していたのに。見つかってしまいましたね」

口紅の蓋をとり、中身を繰り出す。山口を目の端で捉え――流し目をくれたまま、口紅の先端を、自分の唇に滑らせる。途端に、彼女の蒼白いばかりだった彫刻のように整った顔に、薔薇色がさす。その、不健康なまでに白い肌と、毒々しいまでに鮮やかな血色をした唇のコントラストに――無垢で清廉だった筈の彼女が、突然なにかひどく淫靡で不埒な生き物のように見えた。

山口は言葉を失い、ただその場に突っ立っている。女生徒が「……センセ、」と囁き、一歩一歩、近づいてくる。
やがて、山口の前に立ち、愛らしく小首を傾げてみせた。――その、コケティッシュな仕草。

「見つかっちゃったから、は罰を受けるのでしょう? ……先生が、私に罰を与えるのでしょう?」
「お前……
「本当は私、ここで先生を待っていたんです。見つけて欲しくて、待っていたんです。――これ

彼女が口紅を塗った自分の唇に人差し指で触れる。赤く染まった下唇を軽く押さえると、その瑞々しい柔らかな肉がぷるんと弾かれた。彼女の指先に口紅の薔薇色が色移りする。
硬直したままの山口のネクタイに、彼女の手が触れる。軽く弄ぶようにして引っ張り、言った。

「先生が――伊織に罰を、与えてくれるのでしょう?」
――お前――

山口が彼女の両肩を掴む。その力に痛みを覚えたようで、彼女は一瞬顔を顰めたが、すぐにまたあのうっとりとした目つきで山口を見上げた。顔を真っ赤にし、鼻息を荒くした山口が彼女の顔を覗き込む。

「先生が――俺のことが、好きなのか?」
……センセ……
「俺に、罰を与えてほしいのか?」
「ええ、でも――ここではいや」

ちら、と彼女が窓の外を見遣る。すっかり日が落ちかけ、校舎にもほとんど人影はない。それでも、大きくとられた窓を気にしている
その意味に、山口の視界がますます興奮で真っ赤に染まる。彼女の肩を掴む手に力が入り、肩に指が食い込んだ。

「どこだ、どこならいい?」
「この向かいの――理科準備室なら。そこなら、カーテンが閉まるから――

返事もせずに山口が彼女の肩を抱いたまま廊下に出る。鍵のかかっていない理科準備室になだれ込むようにして入り、彼女の華奢な体を長机の上に放り投げるようにして押し付けた。がん、と彼女の体が机に当たった拍子に音がしたが、山口には聞こえていない。
軽く頭を打ったらしい彼女が再び顔を顰めたが、己の体に今にも圧し掛かろうとしている山口の顔を見上げる。余裕を――保とうとしたまま、男を誘惑する大人の女のような顔で、目を細めて山口を見遣る。

「センセ。……これが、『罰』?」
「子供が色気づいて口紅なんて持ち込んでいたのだからな。――なら、その結果どういう目に遭うか、きちんと教え込んでやる」
「伊織の他にも女の子に罰を与えたの?」
「いおり――お前、いおりというのか。そんな名前の女子がこの学校にいたかな――

言いながら、伊織の制服の裾に手を入れようとする。その手を恥じらうように払いのけながら、伊織がもう一度尋ねた。

「センセ? ――伊織の他にも、女の子に罰を与えたの? 先生は、伊織だけじゃないの?」
「なんだ、嫉妬してるのか? 心配しなくとも、お前のようにうまそうな娘は他にはいなかったよ。
どいつもこいつもピーピー泣き喚いて、まるで襲われたみたいな顔をしやがる。せいぜい、ちょっと触っただけだろうに―― 一丁前に化粧なんぞして色気づいてるくせに、覚悟が足らんのだ」
――そう」

伊織が山口から視線を外し、理科準備室内の棚を見遣る。ジジ、という幽かな機械音を確かめる。――旧式だが、録音機レコーダーは動いている。
この距離ならはっきり録れた筈だ。もう、頃合いだろう。

山口の体を押しやろうとして伊織が両腕を突っぱねる。山口の胸板を押しやろうとして――気付く。びくともしない
「!」と驚きと共に、伊織の顔にわずかに焦りが走る。身を捩ろうとしたところを山口に捕らえられ、再び仰向けにさせられる。

「いおり。いおり。――可愛いなあ、いおり。先生のオンナになるか、ん?」
「い、いや」

足で山口の股間を蹴り上げようとしたが、下半身は既にがっちり乗り上げられており身動きが取れない。まずい――と伊織の顔から血の気が引く。
その顔に気付いたのかいないのか、もしくは気付いた上で嗜虐心を刺激されたのか、山口が再び伊織のセーラー服の裾に手を差し入れようとする。伊織の両腕はもう片方の山口の腕にひとつにまとめ上げられて頭上で押さえつけられていた。もはやその手を止めることもできない。

「どうした、怖くなったのか? ――大丈夫だ、優しくしてやるからな」
「やめ――
……――ん?」

山口の手が伊織の胸に触れていた。薄い――胸板。山口が身を起こす。まじまじと伊織の顔を覗き込み――爆発するような笑い声をあげた。

「お前――宮本か! 2年3組の宮本伊織! あっはっはっは! こりゃあ気付かなかった! 化けたもんだな!」
……あ」
「いいや、いいぞいいぞ、俺は構わん。……そうか宮本ォ、先生のものになりたくて女にまで化けたか。
先生なあ、そっちの趣味はないんだがなあ、でも宮本ォ、お前なら先生全然イケる気がするよ。お前が男だってわかったのにまだ元気にビンビン勃ってら
「やめろ、触るな」
「ん? どうした急に? 恥ずかしくなったのか? ――さっきまであんなに色っぽかったのになあ。先生あんなの初めて見たよ。……ほら、もっかいやってみて、先生のこと興奮させてくれよ、伊織ちゃん
――セイ」

「バー、」と呼ぶ声と共に山口の体が理科準備室の壁まで吹っ飛ぶ。棚のガラスが盛大な音を立てて割れ、がらがらと男の巨体がその場に沈みこむ。
水の鞘から界剣を顕したセイバーがその前に仁王立ちになり、大きく振りかぶる。まさか、と焦った伊織が「ダメだ殺すな!」と掠れた声で叫ぶ。

からん、と棚の上から落ちてきたビーカーが山口の頭に当たり、鈍い音を立てて床に転がった。セイバーが軽く手を振ると、彼の手から剣が消え失せる。そのまま、夕陽の色をした瞳が、長机の上に横たわったままの伊織を睨み付けた。――かつて伊織が見たことがない程の、それは確かに『英霊』を感じさせる恐ろしい剣幕だった。

――どう、言い訳をするんだ? きみ」
……
「これがきみの『武器』か。……あと少しできみが一体どんな目に遭おうとしていたか、理解しているのか?」
――
きみは弱い。無力だ。それをわかっているのか」
……俺は」
無茶をしないでくれと言っているだけなのに、なぜわかってくれないんだ?
きみ自身を大切にしてくれと言っているだけなのに、なにがそんなにわからないんだ?」
「でも、これが俺の『武器』で」
「きみはただの無力な子供だ、きみに『武器』は必要ない!」

セイバーが声を荒らげる。伊織が思わず目を瞑ると、セイバーが「……ごめん」と少しだけ声をやわらげた。
――だって」と伊織がぽつりと言った。

「『武器』としてしか、教わってこなかった」
――イオリ?」
「皆、おかしくなった。さっきの山口も、あの写真家も、昔――俺を攫ったあの男も。皆、俺の中に『少女』を見て、そしておかしくなった。おかしくなって、皆俺から奪おうとした。
だから、これは『武器』なんだと思った。どうあっても奪われるのなら、先に奪ってやろうと思った。この『武器』を使って。――そうやって、俺が先に奪ってやって、他の皆は奪われなければいいと思った」

――何者にもなれる、未分化の――

「俺の中にいる『少女』は、『武器』だ。カヤや、皆を護るための」
「そしてきみ自身はその『武器』では護られないのだな」

セイバーが長机の上の伊織に近づく。手を引いて、床の上に立たせる。
伊織の手をセイバーが両手で挟む。そのまま、彼の目を見て言った。

――イオリ。その『少女』は『武器』じゃない。……そうじゃないということを、確かめよう」