匣舟
2024-06-18 20:51:46
27049文字
Public 東リベ
 

東リべ短編まとめ

いままで書いたと〜りべ短編(〜10000字)のまとめです


あなたはずるいひと

 秋の過ごしやすさが無くなりすっかり肌寒くなってしまったこの頃、青宗と武道は二人でデートに街へ出掛けていた。冬にバイクを乗るのは寒くてすこし勇気がいるため、二人で仲良く電車に乗って街へと繰り出す。今日のデートの目的は特になく、ただ単に街をブラブラするだけのデートだ。おうちデートでも良かったのだが、この前もその前も寒いからおうちデートにしよう。なんてことがあってそろそろ外でもデートしようか、と武道が言ったので、寒くて暖かい家に帰りたい気もするが、手を繋いで温もりを分け合いながらデートをしているという訳だ。
 今日のデートの行き先は特にないから、気になったところがあったら入って見て、欲しいものがあったら買って、出てまたブラブラするそんな感じ。特に青宗は武道のこととならば全部に肯定してしまうので大体こうして街をブラブラする時に店に入る時は武道チョイスの店が多い。でも彼はセンスが壊滅的に無い為、九井や三ツ谷に服を買うことを禁止されているため、武道が入る店はビデオが置いてある大型書店や、ゲーセン、ファストフード店などが多い。

「青宗くん、昨日のさ怖いテレビ見た?」

「あー、そういえば見たかもしれねェな。」

「ほんと!あれ最後がいちばん怖かったよね!」

「廃校舎に閉じ込められたヤツか?」

「そうそう!それ!」

 こうした昨日見たテレビの話とか、学校でどんなことがあっただとか、色んな表情をしながら自分に報告してくれる武道を見るのが青宗にとっての密かな楽しみだった。武道は人気者で恋人という座を手に入れた今でも、二人っきりになるのは至難の業なのである。二人になろうとしてもどこかで武道を呼ぶ声が聞こえたり、タケミっち〜♡と話しているのにも関わらず総長であるマイキーが武道の肩を組んで連れて行ってしまったり。そんな人気者の武道を独り占めできるこの時がいちばん青宗にとって日々の楽しみになっているのだ。
 二人っきりになってこうして他愛もない話をできることも楽しみなのだが、青宗がいつもデートをする時に1番楽しみにしているのが、この「青宗くん」呼びである。付き合い始めてからしばらくは「イヌピーくん」と呼ばれていたし、自分自身も「花垣」といつものように呼んでいたのだが、青宗のマブである一からこう言われたのである。

「なぁ、イヌピー。」

どうした、ココ?」

「せっかくいろんなライバルがいる中でボスのこと捕まれられたのに、花垣って呼び方はどうかと思うぜ?」

?じゃあなんて呼べばいいんだ?オレもココみたいにボスって呼べばいいのか……?」

「いや、そうじゃなくて……。」

こちらをみて呆れ顔をする一に、コテンと首を傾げる青宗。はァ、そうだよなァ、イヌピーはポンコツだよな。と独り言を吐きながら、ほら、ボスにもちゃんと名前ってモンがあるだろ?付き合ったンならちゃんと二人で名前を呼び合わないと。と。

「名前、よび……?」

「じゃあ、イヌピーに聞くけどサ、」

おう、」

「ボスに青宗くんって呼ばれたくねェのかよ?」

呼ばれたい、かもしれない……。」

「じゃあ早速言ってみよーぜ!」
 
 それから少しづつではあるが二人っきりかもしくは一と三人でいる時での名前呼びが定着していき、初めは少し照れながらせ、せいしゅうくんと呼んでいた武道もすっかり慣れてきたのかスラスラと青宗くん。と呼んでくれるようになった。
 欲を言うならば、二人っきりの時でなくてもそう呼んで欲しいのだが、実は青宗と武道が付き合っていることはまだ一しか知らないのでこうして二人っきりの時に呼ばれる青宗くんと武道が自分を呼んでくれることを楽しみにしているというわけだ。

「それでさあ!みて!青宗くん!」

ん?どうした?」

「スケートリンク場がある!」

 ほら見てみて!と武道に引っ張られて行った方向を見てみると期間限定のスケートリンクがあった。冬によくある期間限定のものらしくここにあるスケートリンク場は一ヶ月の期間限定でここ出しているらしい。青宗の隣にいる武道は目を輝かせながらスケートリンクを滑っている親子連れや、楽しそうにしているグループを見つめている。

「やってみるか?」

「え!いいの?」

 キラキラ目を輝かせている時点で武道がスケートをしたいことは青宗から見ても丸わかりだ。やりたそうだけど不安そうな顔をする武道にやりたくないのか?ともう一度聞いてみると、やりたいんだけど……オレ、スケートやった事なくて……。という答えが返ってきた。

「オレもやったことはあるけどガキの時だし、今できるか分からない。。でも、」

「でも?」

「武道とやったら楽しそうだからしたい。」

 だから、やろう。と自分の胸の中にあった本心を伝えて、武道に微笑みかけると、そういう所、ずるいよなあ、青宗くんは!と言って顔を真っ赤にさせながら頷いてくれた。ただ自分の本心を伝えただけの青宗には武道の言っていることが分からなかったが、そんな武道を見た青宗はあまりにも武道が可愛すぎてガバッと抱きしめ、青宗くん早くスケートリンク行こーよ!という武道の声に急かされながらスケートリンクへと向かった。

「靴の貸出はあちらで、ヘルメットなどはあちらです。転倒などの心配がありましたら使っていただいた方がよろしいかと思います。それではお楽しみください。」

「わー、ありがとうございます!行こう!青宗くん!」

「おう。」

 貸し出し用の靴の中から自分の足に合うサイズを選んで、キラキラと目を輝かせて早くスケートリンクに降り立ちたそうな武道に手を引かれながら靴を履いてスケートリンクに降り立った。
 あと1時間ほどで閉店するからだろうか人は疎らで、子連れと中学生グループと青宗と武道しかおらず、人にぶつかることは無いような感じだった。ザリ、ザリとスケート靴のブレードがリンクを削る音が聞こえる。さっき受付にいたスタッフから最初はペンギンみたいに歩いたらいいという助言を貰っていたので、ペタペタと地面を踏むように進むと案外コツを掴んだのか壁に捕まりながら歩かずにすることが出来た。

「武道!できた!」

 嬉しさのあまり後ろにいるであろう武道にそう呼びかけると産まれたての小鹿のように足がプルプルと震えているではないか。先程まで楽しみにキラキラと目を輝かせていたのに、寒さのせいも相まってか目には少しだけ涙が浮かんでいる。

「ま、マスターするのはや過ぎない!?左足上げたらどうすんの!?」

?普通の歩行と同じようにやるだけだぞ……?」

「ムッ、ムリ!氷から足を浮かせられない!」

「武道ならきっとできる。」

 ほら、手貸してみろ。と壁にへばりついていた片方の武道の手を取り自分の手を重ねさせてエスコートしてみる。

「ほら、いち、に、さん、し、」

「いちッ……にっ……うぅこわいッ!」

 オレの手掴んでたら転けない!?大丈夫!?と焦る武道に大丈夫だからやってみよう。と手を引きながらサポートをする青宗。さっきと打って変わってあんなに楽しみにしてた武道は氷と仲良くできず泣きそうになっているのにも関わらず、青宗はその姿をみてかわいいとさえ思っている。しかもその青宗が氷と仲良くなっているのだから余計に。

「武道、もう壁離しても大丈夫なんじゃないか?」

「エッ、ちょ、多分無理!まだ慣れてない!」

 スイスイ進む青宗とは裏腹に武道は一周を回るのでさえ数分も掛かっていて天と地の差を見せつけられている。やっぱりいつもテレビで見てるフィギュアスケートの人たちって簡単そうにやってるけど色んな努力を重ねてやってるんだよなあ。と改めて思った武道。
 そんなことを考えているとフワッと自分の体が浮いて、気づけば青宗の胸の中にスポッと埋まっていた。一瞬、何が起こったのかさえ分からずに思考を停止していると、なんだか周りが騒がしいことに気づく。ン?なんでオレこんなに滑れてるんだ……?と自分の状況を把握しようとすると、青宗が自分をお姫様抱っこしている事に気づいた。

「ちょッ、ちょ!」

「武道があまりにも下手だから、オレがエスコートしてやる事にした。」

「な、なんでお姫様抱っこ……!?」

「手ェ引くのも武道手こずるからこれだろって。」

「や、危ないって!」

「大丈夫。ゼッテェ落とさないから。」

 そういう問題じゃないんだけど!?と叫ぼうとしたが、ふふん、オレやるだろ。みたいな感じの顔をしながらスイスイーと軽々とお姫様抱っこをしながら一周を回る青宗に武道は何も言えなくなった。あまりにも自慢げな顔をしているので怒るのも違うなと思ったからだ。でも、周りの歓声のような黄色い声が武道の耳を劈く。
 青宗にどうだ?景色は。と聞かれていたが、自分の置かれている状況があまりにも恥ずかしくて武道の顔は沸騰したやかんのように真っ赤になっていた。

「ありがとうございました〜!またお越しください!」

 青宗のお姫様抱っこシーンを見た通行人によって、閉店間際だったのにも関わらずどんどん客が押し寄せてきたスケートリンクのスタッフの方に帰り際に手を掴まれて興奮気味にこれ!サービスしとくから!また来てね!と割引券を二十枚ほど貰ってしまった。
 スタッフのお姉さんには悪いが、多分もう来ないだろうなと武道は思った。自分のスケートの才能がないと分かってしまったし、誰か知り合いに見られてたらどうしよう、マジでオレ恥ずかしくて土に埋まるかもしれない。と羞恥心に駆られていると、隣を歩く青宗が武道、と自分の名前を呼んだ。

「武道、次はココも誘って来よう。」

 それ、割引券貰ったんだろ。とはにかみながら武道に言うものだからさっきまでもう行かないだろうと考えていた武道の考えは少しずつ崩れていく。結局、武道は青宗のしょげた顔に滅法弱いのだ。それを理解しているのか青宗はお願いごとがあるとその顔をしてくることが多い。だけど負ける武道では無いのだ。流石に黒歴史を量産する訳には行かない!と立ち向かう姿勢を見せた。

「で、でもッ、オレ下手だし……。」

「オレが今日みたいにエスコートしてやればいいだろ?」

「やっ、お姫様抱っこはナシでいいから!」

そうか、なら手は繋いでもいいか?」

「オレ、見てるだけでもいいし!」

「オレは三人で一緒にしたい。……ダメか?」

 ヴッ、そんな顔をしないでくれッ!オレがなんか悪いことしてるみたいじゃないか……!という青宗のシュンと寂しそうな顔攻撃に武道はとうとう白旗を上げてしまった。

ッじゃあ、行こう!三人で!ね!」

「本当か!じゃあ行こう。」

 ほぼやけくそであるけれど、青宗の喜んだ顔を見てしまったらもう武道はどうでも良くなってしまったのである。青宗の喜んでいる顔を見ながら、三人で行くまでにスケートのコツとか調べておいた方が良さそうだなあ〜と武道は漠然と考えていた。
 翌日、仮設のスケートリンク場に王子様がいた!という動画が出回っていることを九井経由で知り、ボス〜ッ♡さ、スケートリンク行こっか♡と放課後に有無を言わさず連行されて、デカいスケートリンクを貸切にされて青宗と一にお姫様抱っこをされる未来が待っていることを武道はまだ知らないし、その動画をエマ経由で見た東卍のメンバーたちが、これ、乾とタケミっちじゃね?と気づき質問攻めに合う未来もまだ武道は知らない。

おわり