匣舟
2024-06-18 20:51:46
27049文字
Public 東リベ
 

東リべ短編まとめ

いままで書いたと〜りべ短編(〜10000字)のまとめです



オマエのトクベツをオレに、頂戴

ーあなたにとって誕生日とはどんなものか?

と聞かれたら真っ先に思い浮かび上がるのはひとつ歳をとるだけの事と回答するだろうし、別に誕生日だから?何?というのがオレの考えだった。
幼い頃の誕生日でただひとつ覚えているのは、母親から一切れのショートケーキを渡されて誕生日おめでとう。とただ一言告げられて、コト、とテーブルにケーキを置いてどこかへ行っていく母親を見ながら、ケーキを一人で食べた朧げな記憶。
 学校で聞こえる誕生日の日とは自分の誕生日の日と全くかけ離れていて、子どもながらに仕方ないよな、ウチにはそんな余裕なんてねェし。と諦めたっけ。
 でも、誕生日には好きなものを買ってもらえて、家族でご飯を食べて、それでケーキに灯ったロウソクを消して、みんなでケーキを食べる。自分以外の人にとっては当たり前で、自分には当たり前では無いそれに少しだけ憧れていたりもした。だけどそんな誕生日は訪れることなく、ただ歳だけを取っていって、そんな憧れをどこかに置いたまま大人になる一歩手前まで来てしまった。

(あ、もうこんな時間かよ。)

 自室にあるパソコンと睨み合いながら作業していたら、夕焼けが映っていた窓ガラスには真っ暗な世界が映し出されている。集中をしすぎていたせいでもう夜になったことを気づかなかったみたいだ。時計が示している時間は23時を過ぎたところで、ここで気づかなかったら日跨いでたな。と脳内で独りごちた。とりあえず風呂にでも入って寝る準備ぐらいしねェと。とめんどくさい気持ちはあったものの風呂に入ることにした。
 風呂から出たのが23時40分を過ぎたあたりだからもうすぐ、自分の誕生日がやってくる。だからといって別にどうってこともないし、ただひとつ歳をとるだけだ。というオレの考えはまだ覆されていない。カチ、カチとなる時計の音を聞きながらもう寝ようかと寝室のドアを開けようとすると、ピンポーンとインターホンのなる音がした。

(ハ?誰だよこんな夜更けに。)

 まさか誰か祝いに来たのか?いやそれはない。そんな命知らずなヤツなんていねェあ、蘭かもしれねェ。でもアイツココに来る時はメール入れてくるしそもそもココの事を知ってるヤツなんて限られてくるし。と一人で考えていると、またピンポーン!とインターホンが鳴る。

ッセェな。」
 
 インターホンの軽快な音に少しだけあった眠気はどこかへ消えていき、オレの睡眠を妨げるとんだ命知らずのツラを拝んでやろうと寝室のドアに掛けていた手を戻してリビングに逆戻りし、インターホンの画面を覗くとよそうだにしない人物の顔が映り込んでいたのである。
 とりあえず、無言でオートロックを解除してやるとペコ、とカメラにお辞儀をしながらマンションに入っていく姿が見えた。そこから少し待っているとドアの前のインターホンの音が鳴ったので、その瞬間に玄関のドアを開けてすぐさまソイツを家の中に押し込んだ。

ッてェ!イザナ!もう、いきなり家の中に引き込まないでよ!」

 ビックリしたじゃんか!とプリプリオレの前で怒っているのはオレの下僕二号兼恋人であるタケミチだ。ビックリしたのはこっちのセリフなんだよ。とおでこにバチコーン!とデコピンをかますと手加減ぐらいしてよ!とまた怒った。……全然怖くねェけど。
 タケミチが一週間前から何かコソコソしていたことは知っていた。タケミチの幼馴染であるオレの下僕一号の鶴蝶などの元天竺組やら、シンイチローやエマ、そしてマンジローたちに何かを助言されていることも。それが、オレの誕生日のことについての相談であることは日付を見れば分かりきったことだったし放置していたのだが、こんな夜更けにココに来たのは予想外だった。……横浜だぞ?

なんでこんな時間に来たんだよ。お子ちゃまは寝る時間だろーが。」

「お子ちゃまじゃありませーん!」

「まだ中坊だろーが。んで、親の許可は?」

「ふっふーん、ちゃんともぎ取りました!」
 
「ハ?」

「げ、イザナのせいで過ぎてンじゃん〜!オレはきっちり12時に祝いたかったのにィ〜!」

 プンスカ訳の分からないことで怒るタケミチにちょっと呆れつつほら、上がれよどーせ泊まるんだろ。と手を引いてやろうとすると逆に手を引かれて、ふに、と唇に何かが当たった。

「奪っちゃった〜ッ!へへ、イザナ、誕生日おめ……んむっ!」

 オレの唇に当たったのは言わずもがなタケミチの唇で。それだけで満足してしてやった〜とニコニコするタケミチの唇を奪ってやった。

ん"ん!っふ、んぅっ」

油断すンなっていつも言ってるだろ?」

「〜っ、それとこれとは別!」

 真っ赤な顔をして、ケーキも買ってきたから早く食べよ!とズカズカとオレの手を引いてリビングに上がるタケミチに着いていき、イスに座らされる。ほら、今日の主役は座ってて!オレ、準備してくるから!とタケミチはキッチンへと消えていった。準備って、何を?と思いながら座っていると、少し音程の外れたバースデーソングがリビングに響く。

「〜はっぴば〜すで〜い〜ざな〜!」

 二人で食べられそうな少し小さなホールケーキに、何本かのロウソクが刺さっている。ほら、早く火消して!とオレの目の前に来たケーキを見ながらそう告げるタケミチ。
 フゥ、っと少し息を吐きながらロウソクを消すと誕生日おめでとう〜ッ!という声と共にパンパンッ!というクラッカーの音が響き渡った。

騒音……。」

「ハハ、ごめんって。もう寝るところだったよね?」

「まあな。」

恋人の誕生日は一番最初に祝いたかったからさ、押しかけちゃったんだ。」

 寝てたらどうしようかと思ったけど、起きてて良かったァ。とニコニコ笑うタケミチ。それは反則だろ。と思いつつ照れ隠しにほら、ケーキ食べるンだろ。あーんしろ。と言うとしょうがないなァ。なんて言って食べさせてくれた。ふたりで少しづつホールケーキを食べていると、タケミチがそういえばね、誕生日プレゼントなんだけどォ。と口を開く。

「ン?」

「結局、決まらなかったんだよ、誕プレ。」

 集会終わりとか、放課後とかに色んな人に相談したんだ。でもオレのセンスじゃイザナに何も渡せないなあって思ってさ、そしたらね!悩んだ時はは本人に聞くべきだ!って蘭くんが言ってくれてさ、それだ!って思って!なんでもしてあげるし、欲しいものあったら言ってくれればいいし!とニコニコ笑顔でオレが差し出しているケーキを頬張るタケミチ。口元にクリー厶付いてるし。まあそこもかわいいところなんだけど。

「誕プレねぇ……。」

 幼い頃なんて誕生日プレゼントなんて買えるような程の生活ではなかったし、今となっては欲しいものは自分で手に入れることが当たり前だし。だから、プレゼントなんて別に無いしなと考えていると、ひとつ、まだオレが手に入れて無いものを思い出した。たぶんそれは、どんなに喧嘩に勝ってのし上がったとしても絶対手に入れることの出来ないモノ。でも、その手に入れられないモノは他の誰にもましてやマイキーも手に入れることは出来ないだろうけど、オレが唯一その手に入れられる権利を持っているモノ。

……オマエ、」

んぇ?」

「だーから。タケミチが欲しいって言ってンだよ。」

 オマエの身体と心はもうオレのモンなのは当たり前だけど、オマエの全部をオレにくれってことだよ。これからの人生もひっくるめてな。
 そんな権利は恋人であるオレだけが唯一手に入れられるモノだから、それが欲しいのだ。
 シンイチローや、エマと血の繋がりがないと知った時、色付いていた世界が一気にモノクロになった気がした。こんな広い世界にひとりぼっちになった気がして、誰も信じられないようなそんな気分だった。
 ああ、オレはずっとこれから一人で生きていかなくちゃいけないんだって。
 そんな真っ暗闇に居たオレを引っ張り出してくれたのがタケミチで。キミは孤独なんかじゃない、キミを想ってる人がたくさん居るでしょ!オレもその中の一人なんだから!だから、一人だなんて言わないで!オレがずっと一緒にいるから!と泣きながら抱きしめてくれたあの時のことを思い出した。
 孤独なんて平気だと思ってた。ずっとひとりで生きていくことも。オレは、ひとりぼっちになってしまったから。
 だけどあの抱きしめてもらったぬくみを知ってしまったからにはもう一人には戻れない。だから、オマエには責任を取ってもらわなきゃいけない。オレにひとりじゃないと教えてくれたオマエに。

「なァ、タケミチ。どう?くれる?」

 タケミチの薬指にの付け根にトントンと指を当てて、顔を上げれば、プロポーズ並の発言じゃんそれェ!と顔を真っ赤にして泣きそうになっているタケミチが居た。

「は?勝手にプロポーズにすんな、プロポーズはもっとちゃんと考えて発言するワ」

「いや充分すごいよ。」

「照れるか泣くかどっちかにしろよ。」


 誰のせいだと思ってんのさ!とついにぐしゃぐしゃに泣きながらオレに抱きついてくるタケミチをそっと抱き返すと、イザナ、とオレを呼ぶ声がした。

「ン?」

「オレの身体も、心も、ぜんぶ、ぜんぶあげる。だから、」

キミのそばにずっと居てもいい?とオレに告げるタケミチ。普通ならオレのそばに居てくれる?って聞くだろうに、本当にオマエは最高だな!とタケミチを抱きしめる力を強めた。

ああ、ずっとそばにいろ。オレが許してやる。」

 誕生日なんてただ歳をとるだけの行事なんて思っていたけれど、こんな誕生日も悪くは無いと思っていると、あ、ひとつ伝え忘れてた。とタケミチがオレの方を見た。

「イザナ!」

「ン?」

「誕生日おめでとう!それと生まれてきてくれてありがとう!」

 そう言って唇じゃなく、おでこにキスをされたのはちょっと不服だが、まあ許してやろう。いまからたっぷりキスをしてやる時間はあるから。
 そして翌日、タケミチを連れて佐野家に訪れた際にエマににぃはタケミっちからどんな誕生日プレゼントを貰ったの?という質問にうっかり"人生"と答えてしまい、エマがキャー!と騒ぐ中、マイキーがは?まだオマエにタケミっち渡した覚えねェけど?まだオレのモンだけど?という発言から兄弟喧嘩に発展したのは言うまでもない。

おわり