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匣舟
2024-06-18 20:51:46
27049文字
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東リベ
東リべ短編まとめ
いままで書いたと〜りべ短編(〜10000字)のまとめです
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再重量級の恋情
佐野万次郎の心にはずっと黒いモノが潜んでいたのをご存知だろうか。最初は自分がそんなものを持っているとすら分からなくて、大切な家族を、仲間を、傷つけてしまう原因になってしまったあの黒い、真っ黒な心。そんなものが自分にあると知ってからは仲間を、家族を、遠ざけようと必死に自分も黒い世界へと飛び込んで遠くから家族と仲間の幸せを願っていたのだ。自分だけが犠牲になるのならばそれでいいと思っていた。自分の手で彼らを傷つけないのなら。自分が居なくても彼らがそれで幸せなのなら。結果的に自分が闇に沈んでいたとしても。なんて思っていた。でもそんな万次郎の考えをぶっ壊してきた人物がいる。それが今、一緒にタイムリープをして幸せな未来を掴むために奔走している、万次郎の運命である花垣武道だ。
武道はかつて中学生時代、一度だけ付き合ったことのある彼女、橘日向が未来で死ぬ運命を変えるために、彼女の事はもちろん彼女を救う過程で死ぬ運命にあった万次郎の片翼である龍宮寺堅や、万次郎の幼馴染である場地圭介の運命を捻じ曲げ、その他にもたくさんの命を救ってきた。そんなみんなのヒーローである武道はいつも真っ黒な世界に沈みきった万次郎のことを決して諦めずに手を差し伸べてくれる人物だった。
いつも、いつも自分が死にそうな時でも手を差し伸べてくれる武道。そんな彼を自分に近づけさせないようにと殺したこともあったし、瀕死にさせてしまったこともあった。これでもう、自分に近づくことは無いだろうと散々痛めた後であろうとも彼は決して諦めようとせず、武道は万次郎に手を差し伸べ続けた。
「どうしたの、万次郎。」
「ん〜
…
」
「今日は随分とベッタリだね?」
そんな武道に差し伸べられた手を握ってしまった万次郎は、今世で武道の運命になってしまったのである。自分にとって地獄だと言っても過言ではない武道を刺してしまったあの日。ドクンと心臓が反応したかと思えば、気づけば見慣れた自室が目に入り、仕舞いには真一郎の早く起きないと学校、遅刻するぞ!という声がドアの外から聞こえてくる始末だ。都合のいい夢を見ているのだろうとバチンと寝ぼけた自分の頬を叩いてみるとしっかり痛くて、は
…
?とボサボサの頭で呟いたことを未だに覚えている。それから真一郎を、エマを、場地を、春千夜を見て泣きそうになり、最後にはそこに偶然にもいた武道が居てしかも記憶を持っていると知ってしまったらもう自分の頬にはいつの間にか涙が伝っていたのである。
あれから二人で幸せな未来を掴み取るために走り続けて、ようやくもうすぐゴールが見えそうになってきていて、東京卍會が全国制覇する日も近い。誰も欠けずに幸せな未来に辿り着きそうで幸せなはずなのに、万次郎には一つだけ、不安なことがあった。
このリベンジ果たした後も、ずっと武道は万次郎のそばにいてくれるのだろうかと不安になってしまったのだ。この数年間、二人で幸せな未来を掴み取るという共通の目的があったからこそずっと隣にいてくれた武道だけど、もしそれを達成してしまったら?もう自分の隣にはもう居てくれないかもしれないという不安が万次郎を襲ったのである。武道は生粋の人たらしで、万次郎が隣にいなくとも彼の周りにはたくさん人が集まる。今は総長権限だとか、幼馴染として、そして一緒の目的があるから一緒に居てくれているだけで、もしも、ゴールに辿り着いてしまったら武道はどこかへ行ってしまうのかもしれないと万次郎は思ってしまったのだ。
心の中にあった真っ黒な万次郎のキャンバスはいつの間にか武道によってまっさらに書き換えられて、それからまた色んな感情に気づく度にいつしかまっさらだったキャンバスには色んな色が混在するようになってしまった。真っ白なキャンバスが色を重ねられて元に戻らないように、万次郎はもうとっくに武道なしでの人生の生き方などとうの昔に忘れてしまった。武道が隣にいないと、海辺に揚られて呼吸をすることもままならない魚のように息をすることすら忘れてしまうぐらいには。
「
…
ねえ、」
「
…
ん?なに?」
「なにがあっても、ずっと一緒にいるって約束してよ。」
嫌だと言われたらもう生きて行けないかもしれないのに、なんて自分はそんなことを言ってしまったんだと羞恥心に駆られているとキラキラと青く透き通る海のような青い瞳がこちらを向いたかと思えば、どろりとしたナニカが武道の青い瞳の奥にあるのが見えた気がした。そのどろりとしたナニカは、いつしか自分が心の底に飼っていた黒い衝動と似ているようなもので万次郎はそれを見た瞬間に、サアッと鳥肌が立った。そんな万次郎を見透かすように、武道は年相応でない笑みをフッと零した。
「万次郎、オレはキミを選んだんだよ。」
だから、キミから離れるわけじゃないか。と武道は自身の膝に頭を乗せる万次郎の頭を撫でている。今世、タイムリープをするきっかけになった橘日向とは武道はなんの関わりもなく赤の他人で居ることを選んだ。
あんなに彼女を救うために奔走していた武道は、今世は万次郎の手を掴むことを選んだのだ。それが何を意味するかなんて万次郎には分かりきっている。
「何がそんなに不安なの?」
少し笑いながら万次郎を見つめる武道に、何がって全部?とさも当然のように答えている彼。そう、万次郎は不安なのだ。武道はどこかへ消えてしまいそうな儚さを持っているから。毎日お互いの生存確認をするように額を合わせていても、目の前に青い瞳が輝いていることがわかっていても、何故か不安なのだ。いつか武道が万次郎の傍を離れてしまうかもしれないという恐怖がいつまでも付いて回っている。もう万次郎は、武道がそばにいないと生きていけなくなってしまった。彼が居ないと息の仕方さえ忘れてしまいそうになる。そうなってしまったのはいつからだっただろうか。彼が諦めずに手を差し伸べてくれた時から?彼の手を握って心中してしまった時から?彼の腕の中で看取られた時から
…
?色々考えた万次郎はふと思う。きっと、あの瞬間から武道との運命は始まっていたのだと。
―
オマエ、本当に中学生?
きっとあの武道の青い瞳と万次郎の黒い瞳の視線がかち合った時から万次郎は武道なしでは生きていけなくなってしまったのだろうと思う。最初は兄である真一郎の面影があって、それに興味を持っただけだと思っていた。だけど、それがいつしか面影なんか気にしなくなって武道に魅入られるようになって、彼が居ないと生きていけないようになってしまった。武道が幸せになれるようにとかつての仲間と共に突き放したこともあったのにも関わらず、武道は決して万次郎を手放そうとしなかった。ゼッテェ助けてやる!と宙ぶらりんになった手を握られた時のあのキラキラした青い瞳が忘れられない。日本刀が胸に刺さった彼のキラキラした青い瞳が閉じられていく瞬間が忘れられない。
「本当にそういうところがずるい。」
「どこが!?」
「ずるいもんはずるい!」
なんだよその暴論!と言いながらそれでも武道は万次郎の頭を撫で続けている。いずれも武道は万次郎の心を持って行ってしまったままだ。そんな心を持っていかれてしまったまま武道がどこかへ行ってしまうとしたら。万次郎はもうどう生きていいのか分からなくなることは確かだ。もし武道がどこかへ行ってしまったら、地の果てまで見つかるまで追いかけてやろうかなァ。なんて物騒なことを考えていると、武道が万次郎の名前を呼んだ。
「万次郎。」
「なーに、たけみ
…
ち?」
武道と視線がかち合った瞬間に、武道の瞳の奥にあったどろりとしたナニカがなんなのか万次郎はわかってしまった。そのナニカは、今でも武道に対して持ち続けている真っ赤なハートよりもどす黒いハートのようなものが合わさってできた重たい愛と似ていたのだ。その瞳を見て驚く万次郎に武道はやっと気づいたの?と目を細めて笑った。
「な
…
ッ、いつから
…
!?」
「うーん、それは恥ずかしいので黙秘権で!」
「テメッ、タケミッちのくせに生意気〜ッ!」
なぜだか自分だけ恥をかかされた気がした万次郎はバッと起き上がり、武道に攻撃を仕掛け始める。そんな万次郎に応戦するつもりなのか未来視というチート能力を持つ彼は万次郎から繰り出される技をすんでのところで躱している。二人とも本気では無いから笑いながらプチ乱闘をしているが、もしこれが二人っきりの時ではなく他の人たちがいる場所であったら。直ぐに止められているだろう。約数分、二人で喧嘩のようなじゃれあいを続けていると、万次郎の部屋のドアが開いた。
「タケミッち〜、夕ご飯たべて
……
二人揃って何してんの?」
ドアを開けたのは万次郎の妹であるエマで、取っ組み合いをしている二人を若干呆れた目で見つめている。
「タケミッちが生意気だから分からせてあげよ〜って思ってさ!」
「ちょッ、生意気じゃないし!」
まるで小学生のような喧嘩にエマはハァとため息を零しながら、本来武道に伝えようと思っていた言葉を武道に投げかけた。
「ま、大した喧嘩じゃないのならいーけど。そうそうもうすぐ夕ご飯だし、タケミッち食べてく?今日おばさん遅番だもんね?」
「エッ、なんでエマちゃんそれを知って
…
?」
「おばさんから遅番になると武道が面倒くさがってカップ麺ばっかり食べるからっていうリークがウチにきたからかな?」
うわ、なんてことをエマちゃんにリークしてんだ
…
と頭を抱える武道だったが、それ三ツ谷に知られたらオマエ終わりだぞ?なんてと思ってしまったが万次郎は武道に言わないことにしてあげた。というか後で三ツ谷にリークしてやると心に決めた。黙秘権を使われたのが未だにムカつくので。
「マ、そうやっておばさんからリーク来ちゃったら帰すっていう選択はないけどね〜タケミッち!どうせ一人分も変わんないしさ、食べてって!」
タケミッち家事も出来るしウチもラクに料理できるし!ね!とエマに頼まれてしまった武道は断ることなんて出来ず、喜んでご馳走になります
…
。と笑みを零した。じゃあ早速準備してくれる?とエマに連れられていきそうな武道は、ふと足を止めてエマに聞こえないような声量で万次郎にこう告げた。
「キミとやっと掴んだハッピーエンドな未来なのに、どこかにいくなんてありえないよ。それに、」
オレだって、万次郎がそばに居なきゃ生きていけないしね。そうフッと笑みを零して去っていった武道に万次郎は呆然したまま動かなくなっていて、飛んでいっていた意識が元に戻った時にはもう武道はエマと一緒に台所へと行ってしまっていた。
「やられた
…
ッ、」
時間差で真っ赤に顔を赤らめる万次郎はベットに投げ捨ててあった携帯を取り出し、カコカコと指で操作をしながらメール画面を開いた。メール相手はもちろん、三ツ谷である。やられっぱなしじゃ佐野万次郎の名が廃るのだ。今頃台所で上機嫌で家事をしているであろう武道にあと仕返しをしてやろうかと万次郎はベットの上で唸りながら武道に夕ご飯が出来たと言われるまで考えていた。
余談であるが、次の集会の時に般若を背負ったような三ツ谷が武道に「なぁ、タケミッち。おばさんが遅番のときにオマエ、カップ麺ばっかり食べてンだって?」と言われ、「万次郎〜ッ!!」という叫び声が武蔵神社に響いたのは言うまでもない。
おわり
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