06.愚者との出会い
「ねえねえ!試験の結果、貼り出されたよー」
昼休みの教室に、女子生徒の明るい声が響く。ざわりとどよめく大半の生徒たちと同じく、眼前で言葉を交わしていた友人ーー花村陽介は苦々しい表情をしていた。
「うわ~
……やーな時間が来ちゃったな
……。
……しょうがね、見に行くか?」
あぁ、と頷いて俺は陽介に連れられ一階に降りた。二階から階段を降りてすぐのところにある掲示板には既にたくさんの生徒が集まっており、見知った顔も多い。俺は貼り出された三枚の紙の真ん中、二年の成績表を眺めた。
なんと、学年でトップだ!
「うぉぉぉ!鳴上、すっげぇじゃん!なんか自分のことみてーに嬉しいな、これ!」
大げさに喜ぶ陽介の姿がなんだかおかしくて、俺は小さく笑った。流石相棒、いい奴だな。周りの友人達もこちらを見てなんだか尊敬のまなざしを送ってくれている。この成績なら勉強を教えてやったりもできそうだし、今後はもっと仲良くなれそうだ。
そんなことを思っていると、陽介はまた掲示板をじっと見つめて、それから感嘆の声を上げた。
「おわ、これまたすっげー。一年のトップ、あの占い転入生かよ」
「占い転入生?」
耳慣れないフレーズに俺は疑問符を浮かべた。すると陽介は意外そうな顔をしてこちらに向き直る。
「あれ、お前知らねーの?俺らとおんなじ、都会から来たヤツでさ。
なんか不定期で学校のどっかにいて、一回いくらだったかで占ってくれんだけど、それがすげー当たるらしいぜ。
俺は行ったことねーんだけど、女子に大人気だって噂」
「へぇ
……」
陽介の言葉を聞きながら一年のトップの名前を確かめる。
――平和島
三琴。
一体どんな人物なんだろうと湧いてきた興味が止められそうになくて、俺は今日の調査の前に少し時間を貰うことにした。
*
明かりを消したままの空き教室に一人きりで頬杖をついていた少女
――平和島
三琴は、俺と目が合った瞬間に目を丸くした。
気まぐれでやっていると聞いたから、もうそろそろ店じまいするところだったのだろうか。
「ごめん、今日はもう終わり?」
「え、
………あー、いえ、大丈夫ですよ」
念のため声をかけると、平和島は少し考えるように手を口元に当てたが快く応えてくれた。
どうぞ、と教室の一角に促されて俺は座席の一つに腰を降ろす。
「えーと、初回は300円なんですが、よろしいですか?」
「あぁ、よろしく」
俺の相向かいに座ると、平和島は鞄から青緑色の手帳らしきものを取り出してぱらぱらと捲り始めた。
なるほど、あれに予言とやらが書かれているのか。俺が見ても読めるのだろうか。
そんなことを考えつつ平和島の口が開くのを待つ。
「
……あ、どんなことに関するものにします?特になければ全体的に見て直近の運勢、みたいなものになりますが」
「指定できるのか?」
「まぁ、多少は。女性ですと恋愛関係が多いですよ」
「へえ
……まあ、取り敢えず直近のでいいかな」
「かしこまりました」
そう言うと平和島は手帳に視線を落としてから俺の顔をちらりと見やり、ぽつりと一言呟いた。
「
………熱き血潮を滾らせよ、されば道は開かれる」
「
……?」
「今のが予言です。
……何か困難が待っていて、それに熱くぶつかれってことですかね。
予言自体はこれだけなので、いつも皆さん関係しそうな相談とか雑談をしていきますが
……どうします?」
ぱたり、と手帳を閉じながら平和島は言い、机に肘をつきながら両手の指を絡ませ考えるような仕草を取った。その姿にはどこか呆れや自嘲が見える。この予言という特異な手段で商売をやりながらも、彼女には何か内に抱えているものがあるのだろうか。
そう思うと同時に、俺は平和島に倣って机に肘を付きながら彼女と目を合わせていた。
「また、会いたい」
「
…………………えっ」
目を白黒させる平和島を俺はじっと見つめる。
見つめる。
見つめる。
――すると、暫くして。
「
…………あー、まぁ、一応、私は放課後気が向いたときに適当な場所で商ば
…ゲフン、趣味の占いやってるので」
タダでとはいきませんが、話しかけてくださっても構いませんよ。単に私と過ごしてもつまらないと思いますし。
言いにくそうに、戸惑うように、瞼を伏せながらも平和島は確かにそう言った。俺は笑みを零し、小さく頷く。
平和島との間に微かな絆の芽生えを感じた。
<了>
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