佐藤
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P4 chapter3:相縁機縁

5月頃の話。段々と引き寄せられる(全7話)


02.引き金引いたら大英雄

足立さん?」

三日後にはテストを控えた放課後、仕事を引き上げて校門を出た三琴を待っていたのは、暫く振りに顔を合わせるよく見知った青年だった。青年ーー足立は相変わらず寝癖を付けたぼさぼさ頭に草臥れたスーツ、曲がったネクタイを身につけて佇んでいる。町中で見かけたことはあれど学校の周りで姿を見たことはないため、本来ならどこにいても何らおかしくはないのだが、三琴にはどこか違和感が感じられた。何かあったのだろうか。

「あ、やっと来た。待ちくたびれたよ~」

声に気づくと足立は顔を上げて、ひらりと軽く手を挙げてみせた。それから徐に三琴に近づくと、周りを確認してから少し屈んで三琴に顔を近づけ耳打ちをする。

「ちょっと付き合ってくれない?」



車に誘導され連れてこられた先は、稲羽署だった。
コツコツと革靴の音を響かせて歩く足立の後をせかせかと小走りで追いながら、三琴はずっと疑問符を浮かべている。

……あの、これはどういう」
……聞きたい?」

先程からずっと無言の足立に思い切って尋ねると、足立はぴたりと歩を止めた。一瞬ぶつかりそうになりつつ慌てて同じように歩を止め、三琴は足立を見上げてこくりと頷いた。
すると足立は哀れみを含んだ目をしながらも僅かに口角を上げて、やれやれといった調子の声音を紡ぎ始めた。

「署長直々のご指名だって。まったく、随分なご身分だよね~」
「は……?だからどういう、」
「特別捜査協力員、ってことで」
………………は!?!?!?」

足立から発せられた言葉に噛み付くように三琴は声を上げた。
ちょっと待て、どういうことだ。
特別捜査協力員って、どういう。

「実は署長が君のこと、気に入っちゃったらしくてさ……この間河川敷で、川に落ちかけた子供助けたんだって?ご丁寧にお得意の予言でその後の忠告までしてあげたとか。で、まぁその予言も見事的中でまたもその子は君に助けられた訳なんだけど、その子が署長の娘さんだったってオチ」

声にならないそんな叫びを察したかのように、足立は呆れ声で説明を付け足していく。
しかしその顔は明らかに笑っていた。

「それで僕が君のことを話したら、彼女の力は捜査に有力かもしれない、協力を頼めるようなら是非連れてきてくれって。
でも君の場合、たぶんそのまま話したら来てくれないだろうな~って思ったから」
「それで道中黙ってたってことですね……事情は把握しました。帰らせていただきます」
「あはは、ここまで来ておいて何を今更」

踵を返そうとする三琴の手首をがしりと掴み、そのままぐいっと勢いを付けて引っ張る。

「、っ」
「現職警察官の腕力、ナメないでよね。
それじゃ、稲羽市連続誘拐殺人事件、特別捜査本部へご招待~……っと」

足立はにっこりと笑顔を浮かべ調子のいい声で言いながら、掴んだままの手首をすぐ側のドアノブへ導き半ば強引に手を掛けさせた。



「白鐘直斗です。よろしくお願いします」
……平和島三琴、です。お力になれるかわかりませんが、よろしくお願いします」
「はい、それじゃあ二人とも改めまして、今後の捜査についてご協力の程、よろしくお願いしますね。
それで早速だけど、一連の事件の関係資料を……

…………何故こうなってしまったんだ)

校門で違和感を感じたときに、断っておけば良かったのかもしれない。しかしもはや後の祭り、後悔先に立たずだ。
資料を受け取り説明を聞きながらも三琴はずっと上の空だった。それもこれも足立のせいだ。足立は「署長が君を気に入った」と言ったけれども、あくまで偶然、助けた女の子が署長の娘で、たぶんその晩の食卓あたりで奥さんからあの日の話を聞いたのだろう。それもきっと幾分か誇張させたものを。
それでも足立が署長に話をしなければ三琴はおそらくこの場にいなくて済んだはずである。だって三琴自身は名乗ってもいないし署長その人には会っていない。
そんなことを考えながら三琴が恨めしい思いで足立を見つめていると、ばちりと視線があって、足立がにやりと笑った。瞬間、何か言いようのない嫌な予感が三琴の背筋を走る。

「そういや、この子らに身辺警護とかつけなくていいんすか?捜査に関わってる人間は犯人に狙われるかもしれないし、ましてや僕ら警官と違って、身体も鍛えてない子供でしょ?」

いつの間にか説明には一段落付いていたらしく、思い出したような足立の言葉だけが部屋に響いた。

「僕は出かけるとき必ず誰か家の者に付いてもらっていますし、外出中一人になることもほとんどありませんので、どうぞお構い無く。身辺警護に回す人手があるなら、捜査へ回して下さい」

どこか揶揄を含んだ足立の言い方にため息を吐きかけたがなんとか飲み込んだ三琴の横で、もう一人の捜査協力員ーー白鐘直斗が突き放すように言った。気丈な子だな、と三琴は呑気に感心する。彼女としてはゲーム上で一押しにしていただけあって初対面からなかなか好感度が高かったのだが、一方の警察側はというと、何人かは呆れた顔、何人かは渋い顔をしている。

「あぁ、まぁ……それもそうか。……わかった」

その渋い顔をしている内の一人、灰色のシャツを身につけた眼光鋭く貫禄のある刑事ーー堂島遼太郎は少しして困ったように顔を崩すと、三琴の方に向き直った。

「平和島さんはどうしますか?」
「え、あー……私も別に、」
「こらこら、君は別にじゃないでしょ」

堂島にまっすぐ見つめられて少し恐縮する三琴の言葉を遮るように足立が口を出すと、堂島のこめかみがピクリと引きつった。一瞬で部屋に一筋の緊張が走る。

「足立、今俺は平和島さんに聞いてんだよ……
「だ、だって堂島さん、どうするもなにも、白鐘くんと違ってこの子一人暮らしなんですよ~?何かあったら絶対困るって………あ!」

(うわ、物凄く嫌な予感)

凄みをきかせる堂島に怯んだ――実際にはそんな素振りを見せているだけの――足立が突然何かを思いついたような声を上げるのを見て、三琴は確信した。
そしてその確信は案の定現実のものとなる。

「それじゃ、僕がやりますよ、身辺警護!」
「はぁ……?また何を言い出すかと思ったらお前、」
「え~、いいじゃないですか。僕この子とアパートお隣りだし、平和島さんとしても他の人よりは親しみやすいだろうし、適任だと思いますよ~?」

明るい調子の足立の声と、怪訝そうな堂島の声が、三琴にはどこか遠くに感じる。

「ったく……まぁ、確かに白鐘はまだしも平和島さんに警護を付けないわけにはいかんし、いいだろう。その代わりしっかりやれよ、気ィ抜いてヘマすんじゃねーぞ」
「勿論ですって!僕だってこれでもやるときはやるんスよ」
「そうかよ、いつもそれだといいんだがな………

とんだ方向に転んだものだ。
三琴は乾いた笑いを貼りつけて独りごちた。

「平和島さん、すまんがそういうことだ、よろしく頼む。足立が迷惑かけるようだったら、すぐ俺に知らせてくれていいから」
……ははは、いーえ、こちらこそよろしくお願いしまー………………


<了>