07.千秋楽には君がいる
一週間だけ待ってほしい。駄目元でそう言ったらガキどもは全員顔を見合わせてから二つ返事でOKした。頼んだ僕が言うのもなんだけど、本当にとんだお人好しで青臭い馬鹿だと思う。そんな生温いことじゃ世間はやっていけない。情に流されて犯罪者を野放しにしてるも同然、普通に考えれば許されない行為。まだまだ世の中の厳しさというものを知らない未熟さにほとほとあきれ返る。けれどそのありがたーい恩恵を受けたのは確かなので、敢えて文句を口にすることはしなかった。
「まー、全部終わるなり即ぶっ倒れて、身寄りも預ける当てもない女の子の世話役が、毎日お遊びに勉強にと忙しい高校生そこらじゃ見つかんなかったって話かもしんないけどね」
「足立さんだってお仕事がおありなのでは」
「ないよ。ていうか、欠勤。なんも言ってないけど、まだ霧すごいし、体調不良かなんかだと思われてんじゃない?どっちにしろどーせ刑事なんか続けらんないんだから、どうだっていいよ」
適当に淹れた熱い紅茶のポットとティーカップ二つをテーブルに置きながら毒を吐く。
三琴は自分の部屋なのに居心地悪げな顔をして、体育座りで縮こまっていた。
「そうそう、明日、ひっさしぶりに晴れるみたいだね。それも一日快晴」
少し意地悪が過ぎたかと思い話題をすり替えてみた。けれども
三琴の様子は特に変わらず、むしろ一層小さくなった気がする。
とりあえず何も言わずに隣へ腰を下ろして再びポットを手に取り、それぞれのカップに中身を注いだら、片方にそっと白い手が伸びてきた。ふうふうと吹きかける息で湯気を揺らし、カップの淵に口をつけ、わずかに傾けた後再びテーブルに戻す。それからもう一度身じろぎし両足を抱き込むように腕を組み直すと、
三琴はばつが悪そうに視線を落とす。
「すべて霧に、紛れさせておけばよかったじゃないですか」
「結果的に、君がやらかしてくれたからこうなったんだけど?」
――何を言い出すかと思えば。やたらとでかい目玉の怪物のことを蒸し返すような物言いに呆れ果て、僕は今度こそ遠慮なくそれを切り伏せた。急所にずばりと決まったらしく
三琴がうっと息を詰まらせたのはわかったけれど、そんなの僕が知ったことではない。因果応報である。
「あーあ、本当、誰かさんのおかげで散々なクリスマスイブだよね~」
畳み掛けるようにザクザクと言の葉を振り下ろせば、彼女は律儀にも全部まともに受け取ってくれたようで。気づけばまさに『合わせる顔がない』とでもいう風に、すっかり項垂れてしまっていた。
差し出されたつむじに浮かぶ悔いの念を見下ろし、僕は口上と裏腹にひっそりほくそ笑む。
きっと、どう足掻いてもこうなるのだろう。
どこをどうすれば良かったとか、こうはならなかったとか、ああすればもしかしたらとか。
そんなの結局はもうわからないので可能性としてはあったかもしれないが、たぶんこの話において、僕の行く末は決まっていたのだ。
けれども。
「まあでも、一人よりはマシだったかな」
僕に、致し方なく。僕の役どころを、自ら飲み込ませたということ。
それが僕にとって相当の損失でありながら、そうせしめたこと、また
――生憎流石に清々しいとまではいかないが、満更、わだかまりは無いこと。
まったく随分大層な事をしてくれたものだと、舌を巻いて感服するほど天晴れな話である。
僕の台詞に
三琴がおそるおそると顔を上げる。瞳は不可解の疑念に揺れ、惑い、こちらを見つめてくる。
それなので僕は、短いため息ひとつと同時にふっと肩の力を抜き、にんまりと口角を上げてやった。
「三十路手前にした男の貴重な一日なんだから、ちゃんと最後まで付き合ってよね。
共犯者さん」
そう言いながら、できるならあの水族館なんて、僕たちのデートスポットにはお誂え向きだったかもしれないな
――なんて我ながら馬鹿みたいに思った。
<了>
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