佐藤
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P4 chapter10:落花流水

12月頃の話。一周回って締めくくり(全7話)


02.道化に発話は許されません

一昨日の夜。昨日一日中。今日の今まで。
できる限り奔走したつもりだったが、どうやらその甲斐はなかったようだ。
稲羽市に来て以来初と言ってもいいくらい真面目に必死に仕事をしたって結果がこれでは、やっぱり世の中はクソだと思わざるを得ない。
……と言っても、その動機や内容というのは隠蔽工作に他ならない、純然たる僕個人の身勝手な悪意からなるものだったのだけれど。

「山野真由美・小西早紀の両名と接触でき、且つ僕らや生田目の動きをある程度把握できて――さらに、町のどこにいても怪しまれない。
これらの条件すべてに当てはまる人物は、……足立刑事。貴方なんですよ」

一片も揺るぎのない目でこちらを見据える高校生探偵たちに、僕はどうしたものかと頭を捻らせていた。
なにせ廊下で出会い頭に声をかけてきたかと思えば、生田目の搬送を済ませたと話しても尚これである。
とにかくもう何もかもを生田目に漠然と押し付けることにしたはいいが、もしかしなくとも些か早まり過ぎたかもしれない。
しかし元はと言えばそれもこれも全部あの子の、三琴のせいだ。

「ちょ、ちょっと!いきなり何を言い出すかと思えば……勘弁してよ。悪いけど、探偵ごっこなら後にしてくれない?僕はこれから堂島さんとこ行って、報告しなきゃなんないんだから」
「なら、手短に済ませましょう。平和島三琴さんについても、貴方に少々聞きたいことがあるんです」

……あーあ、)

ほら、言わんこっちゃない。
君も決して無関係じゃないと思われている。

三琴さんは僕たちが過ちを犯しかけたときに言ったんです、『それをしたら全ておしまいになる』と。……おそらく、彼女は知っているんだ。テレビのことを」
「はあ……?何のことだか、いまいち話が見えないんだけど。第一、それが何だっていうのさ」
「てめーが平和島脅して、良いように利用してたんじゃねえかって聞いてんだよ。テレビ使ってな」
「思えば彼女の身辺警護を提案し、実際その役割に就いたのも貴方でした。久保の一件で事件は解決したと見られた後、もはや警護する必要もないのに、どうしてその任を退こうとしなかったんです?」

いくつもの鋭い眼差しが僕を逃がすまいとでも言いたげに煌めく。
自慢じゃないけど僕はそれなりに色々と考えてから行動に移す方で、だからこんなに焦って動きを決めるなんてほとんどなかった。それが今回はおかげさまでどこもかしこもぼろぼろと急ごしらえの綻びだらけ。これじゃ到底暴力的なほど真っ直ぐ振りかざされた正義に太刀打ちすることはできない。
まったくなんてことをしでかしてくれたんだろう。

(まあ、僕に無理強いされたってことになってるみたいなのが不幸中の幸いか)

しかしため息を吐いて不意にそう思った途端、不思議と仕方なく飲み込むこともやぶさかではなかった。だからといって決して納得なんかしちゃいないけど、僕も焼きが回ったものだ。
矢継ぎ早に飛んでくる詰問はさして痛くも痒くもないし、わざわざ否定するほど大筋で間違っちゃいない。僕が三琴をそばに置こうとした元の理由も今の理由も、こいつらは別に知らなくていい。

「貴方は彼女を監視し、時にはその力をうまく使って、僕たちの行動を暗に制御した。でなければあんなタイミングで突然脅迫状なんてものが届くなんて、いくらなんでもおかしいじゃないですか。
もしあれが無ければ、堂島さんが鳴上先輩を連れ出し、菜々子ちゃんが一人になることはなかった。菜々子ちゃんや先輩の目には触れず、堂島さんが帰宅して初めてその存在が明らかになる……偶然というにはできすぎています」

そう、多少引っかかるところがあっても。
こちらに注意が集中すれば及第点、どの道僕が過去にしでかしたことは変わらない。それならこの際、まとめて全部をひっ被ってやろうじゃないか。
僕はもう半ばやけくそで、いっそ彼らの推理に悪役らしく嫌味ったらしい賛辞の一つでも贈ってやろうかと思った。まさにそんな時だった。

「違いますよ。脅迫状を送ったのは私です」

……予言とまではいかずとも、君の能力、ひょっとすると僕にも少しうつったのかもね。
生憎こんな嫌な予感なんて察知しても全然嬉しくないし、当たってほしくもなかったけどさ。

本当、何考えてるのかわかんないよ。

………三琴、ちゃん?」
「証拠と言ってはなんですけど、……これでしょう?皆さんが読んだ手紙は」

彼らの内からぽつりと呼ばれた名前には答えずに、いつの間にかそこに現れた三琴は指先で摘んだ紙片をひらと手元で揺らしてみせた。

【コレイジョウ タスケルナ ダイジナヒトガ イレラレテ コロサレルヨ】

「内容、全く同じだと思いますけど」なんて言いながら皮肉っぽく笑う姿に皆口を閉じ、辺りは水を打ったように静かになる。彼らの推理に突如として割り込んだ疑惑の因子は、そのまま彼らをその場にきつく縫い付ける。すると彼女はどこか戯けたふうに、呆れたふうに、あっさりと肩をすくめて話を続けた。

「逆です、逆。良いように利用して、傍観者をしてたのは私なんですよ」
「一人も欠かさず全部見たんです、山野アナの時から……菜々子ちゃんの時まで。この目で、しかと」
「でも、もう、そろそろいいかなって」
「なんにでも潮時ってありますよね。おかげさまで大変楽しい時間を過ごせましたから、色々と奔走させてしまったお詫びにせめて幕引きはきちんとやらせて頂きたくて」
「わかってます、悪いことをしたら罰されなくてはならないなんてことは。こう見えて身の程はそれなりに弁えているつもりですし、たくさんのものを見させてもらって満足もしているので――ここいらで悪は自ら滅びて一件落着、結果よければすべてよしとすれば、先輩たちも願ったり叶ったりじゃないですか」
……あぁ、だけどもしも万一、ここで私を引き止めでもすればまたこの悪趣味なゲームは繰り返されますよ?
言ってるでしょうこの紙で、『これ以上助けるな、大事な人が入れられて殺されるよ』って。あくまで脅迫状なんですよ、これは」

かく言う僕も彼女の、三琴の口が次々紡ぎ出す言葉に何一つ答えられずにいる。
彼らはどうか知らないが、今まで僕から見て彼女は虚言を弄すことに慣れていないに違いなかったし、実際彼女の言は確かに間違っていた。
それでも先程まで探偵たちに浴びせられていた糾弾よりもよっぽど厄介な、粛々と大人しげにしつつ確固たる意思を奥に湛える瞳を前にして、悲しきかな彼女がてこでも動かされないだろうと嫌になるほど理解してしまったのだ。

「それじゃあ、さよなら。皆さん」

事実そうして三琴は尋ねたくせに、こちらの返事を少しも待ってはくれなかった。


<了>