エピローグ/6日目
最後に見せられたのは、真っ白な紙面だった。
本来ならその原稿に彼が
――アンデルセンが執筆をすることで、対象を理想の姿へと昇華する
能力さえ持ちうるもの。ただし、実際には諸々の事情により十全に発揮される機会などそうそうないらしい。
「それで、結局何もしないで帰ったわけ?」
「何もしないで、というか
……『何もしない』をして帰ったというか
……?」
彼いわく、契約を切る、放棄することこそが最善の対処なのだという。
客人からコーヒーに口をつける前に飛び出した嫌味のような言い草を、一方で
三琴は何ということもない顔で訂正する。
「原稿
……作品の題材として関連付ける先はヒトなんですけど。
街を土台にした呪いのようなものなので、最悪私自身が聖杯のようなものになって土地に固定されるかもしれなかったのだとか」
「え? ちょっと待って、聞いた感じなんか思ったよりすごい深刻な一大事っぽいんだけど、僕それ初耳だよ?」
「まあ、あり得ないこともなくはない可能性のひとつということで、だいぶ無理筋の話らしいですが」
「あ、そう
……って、そんなあっさり済まされるようなことじゃないからね。
まったく、このところなんか変だとは思ってたけど、デリケートな問題だろうしって暫く様子見で配慮してあげようとか考えてたらこれなんだから
……ほんと勘弁してくれないかな。 これでも一応君の安否を預かってる身なんだけど」
つらつらと零されていく不満は、すっかり草臥れた空気を纏っている。
およそ二日ぶりに少女の部屋へ招かれた彼は、おそらく本当にまともな事情説明もされなかったのだろう。
三琴は口元へ手をやり少し考える素振りをした。
「足立さんって、今も臨也さんとの契約で私の監視をしてるんですよね」
「言い方どうにかならない? まあ、そうだけどさ
……連絡はもらってないよ。
もともと無期限の約束だし、だから今のところ形式的には継続の状態ってだけ。少なくともあっちからちゃんと打ち切られるまでは、仕事としてもやらないとね」
「それじゃあ、」
――それから紡ぎ出された言葉は、変わらず在ると決めるのか、新たな場所へと移るのか。
何を携え、また何を置いていくのか。
内容自体が果たしてどうあれ、まずは彼女の
意思によるもので。
かくて間もなく七日目も、確かにその元へと訪れるのだ。
<了>
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