無窓居室
2024-03-19 16:46:22
10972文字
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Pixiv年越し創作ラリー2023→2024

Pixivの年越し企画に応募したものを収納しました。
あまり時間がなく粗い部分も多いですが、ドタバタからほのぼのまで色んな😈👹😈を書けて楽しかったです。



『こたつ』


 大晦日にも手を抜かずに日課のトレーニングを終えると、アカネはいそいそと家に戻った。
 シャワーで汗を流し足を踏み入れた居間の真ん中で、存在感を放つのはこたつ。省スペースの二人用とはいえ一人暮らしの1Kには贅沢品だが、家具のレンタルサービスで見つけてどうしても気になり借りてきたものだ。
 体の丈夫なアカネにとっては魔界の冬の寒さもさして問題ではない。しかし家で一人、編集作業をすることの多い青鬼ちゃんには暖かい環境を用意してあげたい。新人YouTuberの中では目立つ存在であっても、若いクリエイターが一人で借りられる物件に床暖房などは望めず、座り仕事で足元が冷えないようにと考えてのことだった。

 目の前のこたつは電源がONになっている。きっと青鬼ちゃんが先に入って寛いでいるんだろうなと布団の中に飛び込むと、期待通りの暖かさと共に、何か弾力のあるものに腿より先へ入るのを阻まれた。
 気のせいか〝むぎゅっ〟という声も聞こえたような──。

「にゃあ」
「ぎにゃぁああぁぁぁあ!?!?」

 布団をめくって覗き込んだこたつの中に、耳と尻尾の生えた悪魔の姿を見て、アカネはこの世のものとは思えない叫び声を上げた。


「にゃんでアカネさんの悲鳴の方が猫っぽいんです?ちょっと悔しいですにゃ」
「知るか!!何してんだこんな所で!警察呼ぶぞ!!」
「おや、青鬼ちゃんには許可を取ったんですが。聞いてませんでしたかにゃ?」

 わざとらしく語尾に猫の鳴き真似をつけるブラックに、アカネは怒るのも馬鹿らしくなって脱力した。耳と尻尾がついているのを見るに、いつかの猫化できるデビルツールを自分に使ったのだろう。
 青鬼ちゃんが焦ったようにこたつから出てくる。どうやら眠っていたようだ。

「〝猫がこたつで丸くなってみた〟ちょっとしたファンサービスというか、小ネタとしで撮りたかったんですが、昨今こたつを持ってる人って少ないでしょう?オレちゃんの家にもさとしくんの家にも無くて、レンタルサービスでも心当たりのところは全て貸出中だと」
「だからって、何でアタシん家に
「あても無くアカネさんの家の近くで待ってたら青鬼ちゃんに会ったので、ご相談してみたんです。そしたら快くご協力いただけると」
「完全にアテにしてんじゃねーか!!何があてもなくだ!」
「カカカッ!アカネさん、鬼さんだけあって古風なところがありますから。賭けてみたら当たりでしたにゃあ〜」

 ブラックは一向に悪びれない。諦めたアカネはこたつに背を向け、肩越しに手を振った。

……ま、アタシもYouTuberだ。動画のためと言われちゃ仕方ない、先に使いなよ。その代わり一つ貸しだぞ」
「一緒に入らないんですか?」
「入るかっ!!」

 意外そうに首をかしげられ思わず全力でツッコんだ。恥ずかしさに顔を赤くして部屋を出て行こうとするアカネに、青鬼ちゃんがまとわり付く。

「ニー、ニー!」
「ど、どうした青鬼ちゃん、怒ってなんかないよ」
「ニー!!」
「いやいや、大丈夫だって

 青鬼ちゃんはアカネが帰宅したタイミングでブラックのことを説明するつもりだったのに、すっかりこたつで眠りこけていたことに責任を感じていた。
 それに、アカネが気づいていないことであるが、青鬼ちゃんからすれば多忙な年末を乗り切ったアカネに、想い人と二人きりの時間を作ってあげたいという気持ちもあったのだ。ブラックの相談に二つ返事で応じたのもそのためでもある。

「分かったよ、ちょっとだけな」

 青鬼ちゃんをフォローする形で、アカネは渋々ブラックの向かい側から同じこたつに足を入れる。広くはない中で二人の長い脚はすぐに触れ合い、ずらそうとするタイミングが食い違うので絡みそうになった。元から赤かったアカネの顔がさらに鮮やかな朱に染まる。

「にゃっ!」

 だしぬけにブラックが火照ったアカネの頬へ掌を当てた。何事かと払いのけようとして、黒い手の感触がふにふにと柔らかいことに気づく。革手袋に包まれているはずのブラックの手の、掌は肉球、爪は出し入れ可能な猫の手に変わっていた。

「ぇ……ど、どうなってるんだ、これ……
「足の裏まで真っ黒な猫は瑞獣だと、日本では古くから信じられてきたんです。アカネさんに来る年が良い一年でありますように。オレちゃんからの、ほんの気持ちですにゃ」

 言葉を失うアカネをよそに、ブラックはあざとく微笑みかける。顔を覗き込んでくるように傾けると耳がぱたぱたと動いた。

「黒猫が目の前を横切ると縁起が悪いのは、黒猫=福が去ってしまうからという説もあるんですよ。どうです、猫と共に過ごす年越しも悪くないのでは?」
 
 いつも通り口が上手いな、と分かっているのにブラックが話し終わってしまうのが惜しい。そのくらいこたつで温まった肉球が気持ちいいのだ。
 もしかすると服も体と一つになって猫の毛皮になってしまっているのだろうか?まさか穴を開けたわけでもないだろうに、ズボンからは黒い尻尾が出ていたし。
 罠だと警鐘を鳴らす理性とは裏腹に、アカネは思わずブラックの、今にもゴロゴロと鳴らしそうな喉元へ指を伸ばしていた。すかさずブラックが傍へ滑り込んで来る。

「気になります?……いいんですよ、触っても」

 大人二人には狭すぎるスペースに入っているのに不思議と窮屈さを感じない。どちらかというと痩せ型のブラックと押し合えば少なからず固い感触があるはずだが、本物の猫を抱いているときのようにしなやかに体を添わされているせいで、悪くない感覚ばかり受け取ってしまう。
 こたつの温度とあらぬ考えで沸騰寸前のアカネの脳裏に、さらに甘い声でブラックが囁く。

「ここ……アカネさんに撫でて欲しいです」

 艶かしく指差された喉に、しかしアカネは触れることはなかった。
 そのまま耳元に寄せられた唇で「にゃあ」と鳴かれた途端、アカネは極度の興奮とそれを抑え込んだストレス、そしてこたつの熱気のために気を失った。



「あけましておめでとう、師匠は年が変わる瞬間なにしてた?」
「えっ!……と、年年、変わったっけ!?」
「いま2024年よ。師匠どうしちゃったの?」

 年が明けて初めてひめと顔を合わせたアカネは、ありふれた会話であからさまな挙動不審になってしまいひめに怪訝な顔をされた。
 まさか猫耳と尻尾の生えた男性をこたつに招き入れたあげく体を寄せ合っていたらのぼせて倒れていた、などと言えるはずがない。

 必死でその場を切り抜けようとするアカネの耳の奥で、意識を失う瞬間に聞いた、悪魔の勝ち誇った声がこだました。

〝オレちゃんに──いや、こたつと猫に誘惑されて、勝てると思ってたんですか?……にゃ〟


  2024/01/07