無窓居室
2024-03-19 16:46:22
10972文字
Public
 

Pixiv年越し創作ラリー2023→2024

Pixivの年越し企画に応募したものを収納しました。
あまり時間がなく粗い部分も多いですが、ドタバタからほのぼのまで色んな😈👹😈を書けて楽しかったです。



『煩悩』


 優中部町の裏山は都市部にある森としては深く、大晦日の喧騒からも守られている。
 木の葉のそよぎが響く辺りに、今は除夜の鐘の音だけが長く尾を引いていた。

 街の灯りを見下ろす木の上で、羽を休める猛禽のように佇んでいたブラックは、さらに高い場所の枝に自分と同じ人ならざる者の気配があることに気づいた。
 来たときには誰もいなかった。いつの間に追い越して登ったのか、一瞬とはいえ魔界の王を欺ける異形など人間界にそうは多くない。

 名前を呼ぼうとした途端、赤い影が目の前へ降りてきた。翼を持つブラックも舌を巻く軽やかな跳躍だった。
 美しい髪と瞳をわずかな人界の明かりにきらめかせて、鬼の娘は悪魔に笑いかける。
 
「鐘が聞こえる場所には居られないのかと思ってたよ」
「まさか、鐘に追い出された人間の煩悩を食べていました」

 軽口を叩き合う。はみ出し者達の挨拶だ。

「悪魔ですから」

 二人──でも二匹も二頭も変わらない──は、並んで腰を下ろすに適当な枝を探した。


「アタシ達には肩身の狭い晩だな、おめでたい夜だし」
「カカカッ……好事に魔多しとも言いますよ。オレちゃん達はどこにでも居るんです。人間さん達はあまり気づきませんが」

 山の斜面の足元は寺への参道になっている。
 年越しの焚き火に照らされた参拝客の列を見て、ブラックが目を輝かせた。

「見て下さい!皆さん、ああしていれば何か新しいものになれると思っているようですよ。すっかり自分が清いものに近づいた気になって……可愛いですねぇ!裏側を、残さず暴いてあげたくなります!!」
「うん……いいよな。綺麗で、汚くて、強かで、脆くて、どうしようもなくて」

 同じものを覗き込めば自然と肩を寄せ合うことになる。
 人の煩悩をときに弄び、ときに導く。誘惑者が魅入られた貌で叫ぶのを、鬼の娘は微笑ましそうに聞いた。

 異界から来た存在達にとっては、人の営みこそ世界の裏だ。その更に奥底を知るために百八の煩悩に手を伸ばす。人間が煩悩ゆえに異界の力を求めること、年越しのたび鐘を打ち鳴らしてそれを遠ざけようと足掻くのと、ちょうど真逆に。

 黒と赤、一対の異界からの影が、人の世の深淵を凝視していた。
 

 2024/01/06