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ゆき
2024-03-24 12:43:50
13020文字
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さめしし
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さめしし お片付け箱
さめしし/短いのまとめて置き場。手前ほど新しい。
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2023.4.24 Twitter
飯ものネタ、リライトの村雨視点が本に入ってます
ホットココア
「やっぱ冬って忙しいのか?」
「あなたは無縁そうだな」
「サラッとバカにしたか?」
「感染症のピークがきている」
「でも村雨は外科だろ?」
「マヌケ。外科医だって風邪をひくし、インフルエンザにかかれば出て来られない」
それに冬は宴会が多いからな、と苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てる。ひとつきほど会わない間に村雨は、ひとまわり痩けた気がした。
***
なんだかんだ予定が合わず、年明けすぐに会ってから間が空いてしまい、ようやく約束していた日。その約束の少し前に、仕事が立て込んでしまい後日改めて、と連絡が来たのが3日前だ。
今日の昼前に村雨から、家にいるかとメッセージが来て、獅子神は自分でも呆れるほど心が躍った。
しかし現れた恋人の顔色はいつもに輪をかけて悪く、目の下のクマはより存在感を増している。
帰れていなかったのだろう。うちに来てくれてよかった。きっと何日もあけた家は冷え切っているだろうから。
ドアをくぐり、明らかに肩の力が抜けたのを見て、獅子神もまたホッとひといきついた。
「おつかれさま」
「ああ、交代の医師がいなくて、予定もなかったのに結局2日延長になった」
「それはまた
……
、大変だったな」
恐ろしい言葉に、素直に労いの言葉がこぼれる。
コートもマフラーも、その下に着ていたセーターもダウンベストもどんどん剥いでいく。家じゅう暖めてあるから、身軽な方が良いだろう。
脱がせたものをかけている間に手持ちのビニール袋にマスクを捨て、キッチリ手洗いうがいを済ませた村雨を、直接二階のセカンドリビングに招き入れての、冒頭の会話だった。
一階のものとは違ってコンパクトに作られたキッチンで、練ってペーストにするまで用意しておいたココアに牛乳を加えながら、村雨の様子をのぞく。
こちらのリビングにはテレビを置かず、プロジェクター式のホームシアターとそれに面したカウチと、もともとおいていた1人掛けのソファ、ローテーブルという全体的に低い作りの空間だ。
1人掛けの方のソファにぐったりと沈み込む恋人は、それでいて行儀よく膝を閉じて手は重ねて腹の上に。育ちのよさが伺える。
しかしその疲れ果てた様子に、半分も飲めないかもしれないと悩んで、結局いつものマグカップに半分程度そそいで、残りを自分のカップにいれた。
「村雨、」
名前を呼ぶと、とろけてしまいそうな、ねむたくて重くなったまぶたをうっすら開けて、カップに手を伸ばす。
「ほら、持てるか」
「問題ない、ありがとう」
両手で受け取ると、温度を確かめながらそっとココアに口をつける。
適温に温められたそれが、じんわりと胃の中から村雨の体を温める。
いくら設備がよくとも、建物の古い院内は寒いのだということを、ようやっと村雨は思い出すことができた。ハァ、と一息ついたその呼気も温かい。
もう一度口をつけたのを見て、キッチンに戻って自分のカップに口をつける。普段菓子の類を口にしないので、だいぶ思い切りのいる量の砂糖を入れたそれは、しっかりとした甘みを伝えてきた。村雨の好みには合うはずだ。
「おいしい。バターが入っているのか」
「好きだろ、こういうの」
よかった。とホッとしているのを見透かしてか「私はな」と村雨が笑った。
「ししがみ、」
砂糖が絡むみたいに、甘い声で呼ばれる。ちらりと時間を確認すると、あと三十分程度で市場は閉じる頃合いだ。仕事場のある一階では、まだ雑用係が獅子神を待っている。
さほど広さはないとはいえ、恋人の逢瀬には遠い距離を、村雨は手招きする。
「オレまだあとちょっと仕事なんだけど」
「十秒で済む」
本当に? と視線で会話して、観念して近寄ると、村雨は重たそうに腕を上げて獅子神の頭を撫でる。
くしゃりくしゃりとまぜっかえして後頭部に回った手に引き寄せられて、さからわずにくちびるを合わせた。
触れるだけのそれは名残惜しむ暇もなく離されて、不満を視線で投げつけると、意地悪な恋人はいつもの調子でからかうように口に弧を描く。
「十秒で済んだだろう?」
「このやろ」
そっと肩を押して、村雨は終わりをうながす。
「私は少し寝る。終わったら起こせ」
さながら安楽椅子探偵のように、ソファに沈んだまま自分の思い通りに振る舞った村雨は、再び目を閉じる。
ソファの下からブランケットを出してかけてやると、獅子神は残りの仕事を片付けに、仕事場へ降りて行った。
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