今昔火群蝶

MHRウ教×ハ♀。相思相愛、婚約関係。
微妙に本編ネタバレあり。

お盆の時期を題材にしたお話。
ハンター♀母が故人設定(マイハンではありません)



盆の終着日、送り火の日にさえ、特に何事もなく。
その次の日のこと。

浮世離れした、赤赤と燃える夕暮れ時。
炎の如き夕焼けに染まる空。

里の集会所の裏手、船着場も見える巨大な川に面した小さな広場のような場所。

送り火の日も過ぎ去ったため、両手にナスとキュウリの精霊馬を抱えた娘が、ウツシと共に川の近くに立っている。

……今年もお役目、お疲れ様でした」

穏やかな笑顔で告げた彼女は、川の傍にしゃがむと、抱えていた精霊馬を二つ同時に、そっと川に乗せた。
流されるまま、彼方へ見えなくなっていく、ナスとキュウリの精霊馬。
ゆっくりと娘が立ち上がりながら、まだ、その方向を見つめる。

……おかあさん。ちゃんと、帰れたかな……

娘は、ただ純粋にそう思っただけ。
誰に告げたわけでもないのだろう。

だが、ウツシには、その声が答えを求めているように聞こえた。

どこへ通じているのかと考えてしまいそうになる、赤い夕暮れに染まった川の彼方。

迷うことなく、また、安息の場所に着けるようにと願いたくなるような、そんな彼方。

ウツシは長くその方向を見つめている愛する人の肩に、そっと両手を乗せた。

……絶対に、大丈夫だよ。今頃は向こうで、俺のお面のこととか話しながら笑ってるかも?」
「ふふ……そうだと嬉しいですね。このお面を作る人と結婚するそうなのよ、なーんて噂してたり。もしそうならウツシ教官、くしゃみしちゃうかもしれませんね?」
「ははは……次にくしゃみをする時は、しっかりと肝に銘じて気を引き締めるとするよ」
「ふふふっ、よろしくお願い、しま………

不自然に、娘が言葉を切った。

最後まで言葉を繋がなかった理由は、彼女の視線が物語っている。

「愛弟子?」

どうしたのかとウツシが尋ねようとしたが、その必要はなかった。

彼の目は、驚きに小さく見開かれる。

ふわりと、下から舞い上がるように吹いた風。
風と共に彼方から舞い寄る、一頭の蝶。

石竹色と薄紅色の狭間。
いつか見た、幻想的な色に輝く蝶が、赤赤と夕日に照らされながら娘の近くへ、揺蕩うように寄っていく。

……きれい……!!」

目を輝かせた娘が、穏やかな笑顔で思わず声を漏らした。
その肩に手を乗せたまま後ろで、ウツシが言葉を失うほど驚いていることに気付かずに。

そっと、娘は蝶に手を差し伸べる。

ふわり、ふわりと、迷うことなく、蝶は彼女の白い指に止まった。

夕陽に照らされたそんな娘の姿は、息を呑むほどに幻想的で、美しく。
ウツシの脳裏に、あの時の言葉が蘇る。

『娘をよろしくお願いします、ウツシ教官』

穏やかに金色の双眸を細め、帷子に覆われた口元に、凛と笑顔を浮かべながら。
ウツシは静かに、蝶から愛する人へ視線を移す。

……愛してるよ、愛弟子。何があっても、ずっと」
「!」

突然のウツシの愛の言葉に一瞬驚きながらも、蝶を手に止めたまま、娘は嬉しそうにゆっくりと振り返る。

「わたしも、愛しています。ウツシ教官」
「ありがとう。一緒に、幸せな家庭を作ろうね」
「はい! ウツシ教官と一緒です!」

幸せそうな確信に満ちて、娘がウツシの目を見ながら、しっかりと頷く。

直後に、ふわりと、彼女の指に止まっていた蝶が舞い上がる。

蝶が離れるとほぼ同時に、彼女は体の向きを変え、正面から静かにウツシに抱きついた。
ウツシもまた、愛する人を優しく、しっかりと、両腕に抱きしめる。

命の脈動、血の通う温かな愛おしい腕の中。
抱きしめ合う二人は、顔を見合わせて、互いに互いが愛おしくてたまらない様子に笑い合う。

それを見守るように、蝶が二人の周囲を舞った。
やがて蝶は、夕陽に照らされた川の彼方へと、飛び去っていく。

抱き合ったまま、娘とウツシは、その行方を穏やかに見つめる。

愛する人の腕の中。
娘は、瞳を夕陽に煌めかせて微笑んだ。


おかあさん、わたしはとても幸せです。
どうか、幾久いくひさしくお見守り下さい。
わたしと、わたしの愛する人を。
わたしたちの、愛する里で。


深い想いを、願いの声を。
遠く、川の彼方、現世の彼方へ。

心の内の声は、川の彼方の御霊に。
内に生き続く、思い出が生む心に。

その化身の如き蝶に、届くだろう。


『本当に、素敵な

『素敵な人と、結ばれましたね』


「ぶえっくしょおおおおおぉっ!?」
「ひゃああっ!?」


ウツシのくしゃみは、川の彼方まで響いた。

娘の、楽しげな笑い声と共に。




@acadine