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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
今昔火群蝶
MHRウ教×ハ♀。相思相愛、婚約関係。
微妙に本編ネタバレあり。
お盆の時期を題材にしたお話。
ハンター♀母が故人設定(マイハンではありません)
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深まった夜の里を照らすのは、十三夜月の名月。
もうじき満月になろうという月は、白い月光で里を
煌々
こうこう
と輝かせ、慣れ親しんだ景色とは全く違う表情を見せている。
そんな異界の如き夜の里にはすっかり慣れた様子で、翔蟲の光糸で夜を駆けていく。
(離れがたくて
……
遅くなっちゃったなあ
……
)
いつか、結ばれる時がきたら。
彼女と夫婦となり、正式に誓いを立てたら。
共に暮らし、共に
床
とこ
につける日が来たら、この愛おしい切なさも、味わうことはなくなるのだろうか。
今の感覚を堪能しつつ、ウツシは空を駆けながら、今が何刻だろうかとふと気になった。
(デンコウたち、寝てくれてると良いけど
……
真面目だからなあ、待ってくれてるかもな
……
)
自宅にいるオトモたち。遅くなるから待たなくて良いと声をかけてはきたものの、何も気にせず寝ていてくれれば良いが。
ウツシの手から再び、翔蟲の光糸が意思あるもののように真っ直ぐ伸びる。
鳥よりも素早く、しなやかに駆けていく、月光を浴びたウツシの影。
彼の動きは、自宅近くまで差し掛かったところで、ぴたりと止まった。
彼の耳に、音が響いた。
シャラリ、と鈴の音。
空に澄み渡る、印象的な音。
とろみのある薄絹が、何枚にも折り重なるような音が、一度だけ転がるように響いた。
(この、音
……
!)
反射のように、ウツシが音のした方へ目を向ける。
翔蟲の糸を垂らし、ウツシの目が里の出入口の門の方へ向く。
正確には里内の門近く、たたら場広場の方へ続く赤い
太鼓橋
たいこばし
。
橋の手前に、月光を反射して煌めく、小さなものが落ちている。
恐ろしいことにウツシの目は、落ちているものの大きささえ正確に理解していた。
反射のように、彼はその落ちているものの側に、降り立った。
橋のところに落ちていたのは、小さな、丸い白銀の鈴のようなもの。
薄紅色の組紐に繋がったそれには、穴がない。
「これ
……
水琴鈴
……
!?」
思わず呟きながら、反射のようにそれを拾い上げたウツシの手の中で、シャラリ、とまた音が鳴る。
何故、ここにこれが。
娘の家で見たものと、よく似ている。
彼女が持ち出すはずはないから、ここにあるものは違うもののはず。
(誰か、落とした
……
のか
……
?)
ふと、ウツシが里の外へと続く門がある、橋の彼方を見やった。
橋を渡った向こうの、門の手前。
ヒノエとミノトが設置したのであろう精霊棚の前に、ウツシの目が、一つの人影を捉える。
白い月明かりに溶け込むように、清く照らされている人。
目深くかぶった
市女傘
いちめがさ
が印象的な、桜柄の散らされた白い着物に、薄紅色の帯を締めた女性。
(
……
誰、だろう
……
?)
こんな夜更けに、女性がひとりとは単純に危ない。
感じたことのない気配に、ウツシは
訝
いぶか
しげに目を細めながらも、自分の手の中にある水琴鈴は彼女の物であろうと確信し、駆け寄って行った。
「もし! こちら、落とされてませんか?」
後ろから声をかけたウツシの手の中で、シャラリ、と白銀の水琴鈴が、また鳴り響く。
市女笠の女性は、ウツシの声というよりは、その音がしてから振り返ったようだった。
月明かりが眩しく、笠の影があまりにも濃いため、女性の顔は口元しか分からない。
常に口元を隠しているウツシとは正反対だ。
無言の彼女の前に、ウツシは静かに、薄紅色の組紐がついた水琴鈴を差し出した。
「あの、これ
…
! これを、落とされてませんか? 違いますか?」
あまりの反応のなさに、ウツシの中に一瞬妙な不安が過ぎったものの、市女笠の女性からは不穏な気配は何も感じない。
むしろ、とても穏やかで、故郷に香る風のような懐かしさを覚える感覚さえある。
女性は彼の手から薄紅色の組紐を
摘
つま
むようにして、水琴鈴を持ち上げた。
シャラリと、また。
水車小屋でも響いた音が奏でられ、彼女の口元が、穏やかに緩む。
「──本当に
……
本当に、素敵な
……
」
「え?」
「拾ってくださって
……
ありがとうございます」
素敵な。
意味深に響いたその続きの言葉は『音』かと悟ったウツシは「いえいえ!」と穏やかに微笑む。
(水琴鈴、珍しいものだと思っていたけど
……
結構、同じものが出回っているのかな?)
一瞬、愛する人の家で見た、彼女の母親の思い出の品かと思ったが、それがここにあるはずがない。
どこかで同じ組紐のものが売られているのかもしれない。
そう納得した時、彼の目は、市女笠の女性の笠の横に、何かが着いているのも見つける。
ちょうど影で暗くて見えなかったが、近くに立てばすぐに分かった。
何故なら自分が作ったものだから。
紛れもなく、里の集会所で一応販売されているタマミツネのお面だ。
「あれ!? 嬉しいなあ! そのタマミツネのお面、買って下さったんですか!?」
大きく響いたウツシの声にも
怯
ひむ
むことなく、女性はまた、彼に口元だけで微笑む。
口から上は、市女笠の影が不思議なほど濃く、どうしても見えない。
「──わたしではなく。娘が、くれたもので
……
」
「おや、そうでしたか! 身に着けてくださって嬉しいです。それ、実は俺が作ったんですよ! 力作です! 買ってくださった娘さんにもよろしくお伝え下さい!」
朗らかな笑顔のウツシに、市女笠の女性も小さく頭を下げた。
唯一影から外れて見える彼女の口元は、ウツシと同じように微笑んでいる。
頭を下げてから、彼女はたたら場前広場へ向かう橋の方へ進んでいく。
ちゃんと里の中に帰るところがあるのなら良かったと、ウツシが安堵の息をついた。
市女笠の女性が何を見ていたのだろうかと、彼の顔の向きが精霊棚へと向けられる。
女性が立ち止まったのは、ちょうどその時だった。
ウツシの視線が、自分から外れた時。
「
……
あなたも」
振り返らずに、ぽつりと響く女性の声。
朱色の太鼓橋の、ほぼ中央。
渡りきる前の、里に近い場所。
「娘をよろしくお願いします、ウツシ教官」
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