今昔火群蝶

MHRウ教×ハ♀。相思相愛、婚約関係。
微妙に本編ネタバレあり。

お盆の時期を題材にしたお話。
ハンター♀母が故人設定(マイハンではありません)



ウツシ教官。
娘を、よろしく。

市女笠の女性は確かに、そう告げて。

「────ッ……!?」

心臓を鷲掴みにされたのではないかと思ったほど驚いたウツシが、目を見開いて、女性の向かった橋の方へ撃たれた様に顔を向けた。

焔のように、光が猛る。
そこに人の姿は、どこにもなく。

ふわりと、月明かりに、天高く蝶が舞った。

…………!」

目を見開いたまま、ウツシは空を仰ぐ。

石竹色と薄紅色の狭間。
彼の前によく現れていた、幻想的なその蝶が舞い上がった直後。

その一頭のみならず、鮮やかな、あらゆる鮮色の無数の蝶が、空を舞っているのが見えた。

昇華していくように、天高く。
里の月明かりの夜空に舞う、無数の蝶の群れ。
それは、愛する郷里への帰還を果たした、里の英霊たちなのだろうか。

さながらそれは七色の、月下の天の川のようで。

ウツシはただただ、呆然と見上げる。

月明かりに、虹よりも鮮やかに輝く、夜であることすら忘れそうな空。

現世と黄泉の隔壁かくへきを感じられず、この世の景色とは思えなかった。
だが、確かにこの景色は現実であり、夢ではないのだという確信もある。

時の流れから隔絶かくぜつされたような心地で、空を仰いでいたウツシだが。

やがて蝶の群れは、たたら場前広場の方へ向かい、彼の目にも見えなくなるほどに。
まるで、月光の幕の中へと溶け込むように飛び去って行く。

蝶の群れが見えなくなっても、しばらくウツシは空を仰いでいた。
やがて彼の金色の瞳は、真っ直ぐ、月を捉える。

(……生涯を賭けて……身命しんめいして……お守りします……!)

ことには乗らぬ、彼の内なる声。
その誓いは、帰り着いた御霊に。
その化身の如き蝶たちに、届いたことだろう。


その日から、盆時期の間。

ウツシがあの時に見た不思議な蝶を見ることは、ぱったりとなくなった。

後から娘に聞いたところ、水琴鈴は、鈴本体も組紐も、全て特注品らしい。
お揃いに作った鈴であったとしても、微妙に音は異なるそうだ。

『音も形も、同じものは二つありません……!』

こう教えてくれた時の娘の顔が、ウツシには忘れられない。
心底驚いているようで、どこか嬉しそうな。
そして、安堵したような様子だった。

まるで、迷子の子どもが母を見つけ、その腕に抱かれた時のように。

@acadine